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第5話

مؤلف: アキ
晶は血の滲む額を押さえながら、混乱の渦にある宴会場をよろよろと後にした。

病院には行かなかった。近くの小さな診療所を見つけ、簡単に消毒してガーゼを貼ってもらっただけだ。

家に戻ると、室内は相変わらず空っぽで、ひどく冷え切っていた。

顔についた血を洗い流し、ソファに座ってスマホを開く。

SNSのトレンド動画、そのトップに映っていたのは――旬だった。

動画は郊外にある有名な青雲寺で撮影されたものだった。お百度参りをすれば、最も霊験あらたかなお守りが手に入ると言われている。

動画の中の旬は、血で汚れたスーツのジャケットを脱ぎ捨て、薄手のシャツ一枚になっていた。

彼の表情は厳粛で、眼差しには揺るぎない決意が宿っている。山頂の本堂に向かって、険しい石段を登り続けていた。

傍らで記者がマイクを向けている。「桐生社長、どなたのために祈願されているんですか?ご家族でしょうか?」

旬は動きを止めた。額からは汗が滴り落ちている。

彼はカメラを真っ直ぐに見据え、穏やかで、それでいて揺るぎない眼差しで、一言一言はっきりと告げた。

「俺が最も愛する人のためです。彼女の無事を祈っています」

最も愛する人。

晶は画面を見つめた。敬虔な祈りと疲労のせいで、いっそう精悍さを増した彼の顔を。心臓を見えない手で鷲掴みにされ、力任せに引き裂かれるようだった。息ができない。視界が暗く明滅する。

晶は乱暴にスマホを伏せた。画面が真っ暗に沈む。

けれど胸を締めつける、あの窒息しそうな痛みは消えてくれなかった。

ソファの上で身を丸め、自分を強く抱きしめる。それでも、少しの温もりも感じられなかった。

それから数日、旬は家に帰ってこなかった。

晶も、以前のように狂ったように電話やメッセージを送るような真似はしなかった。

ただ淡々と自分の身の回りを片づけていった。引っ越し業者に連絡を取り、持っていくものを整理し、海外移住のためのビザの手続きを進めた。

そしてその夜、下腹部にあの馴染みのある鈍い痛みが走った。

生理が来たのだ。

この数年間、生理のたびに晶はひどい痛みに襲われた。旬はそれを知っていて、いつもお腹を温めるカイロと、温かいはちみつ湯を用意しておいてくれた。夜は背後から抱きしめ、大きな掌で下腹部を温めてくれた。

晶は痛みを堪えながら一人でキッチンに向かい、お湯を沸かして生姜湯を作ろうとした。

蛇口から水を注いだその時、玄関で鍵が回る音がした。

旬が帰ってきた。

どこかひどく疲れた様子で、目の下の隈は濃く、顎には青い無精髭が浮いていた。

キッチンにいる晶を見て、一瞬足を止める。けれどすぐに早足で近づいてきた。

「晶?どうした?顔色、すごく悪いぞ」

額に手を伸ばそうとする。

晶は静かに身をかわして避けた。

旬の手が宙で止まる。けれどすぐにカウンターに置かれたはちみつの瓶に気づき、すべてを察したようだった。

「また生理痛か?」

彼の口調が柔らかくなり、気遣いが滲む。

「部屋に戻って横になってろ。俺が生姜湯を作ってやるから」

その時、カウンターに置かれた旬のスマホの画面が光った。

【旬、バーでバイトしてたら、変な薬を飲まされちゃって……今、あなたの家の前にいるの。すごく苦しい……他の男に触られるのは絶対に嫌。私、一生あなただけのものだから……今すぐ出てきて助けてくれないなら……あなたの家の前で死ぬわ】

メッセージの内容はあまりに生々しく、絶望的な脅迫と、すべてを賭けた誘惑が入り混じっていた。

晶はそれを見た。

旬も見た。

ポットを持つ手が、ぴたりと止まった。

その表情が目まぐるしく変わる。衝撃、痛み、迷い、葛藤――

晶はただ静かに見ていた。

彼の顔に浮かぶ感情の移り変わりを。その瞳の奥の葛藤が、やがて焦りにも似た心配と欲望に完全に塗り替えられていくのを。

やはり、数秒後――旬はポットを置き、わずかな焦りと後ろめたさが、その声に滲んでいた。

「晶、このはちみつ……賞味期限が切れてるみたいだ。ちょっと新しいのを買ってくる。すぐ戻るから、先に部屋で休んでてくれ」

晶の目を見ることすらできず、そう言い捨てると、スマホと車の鍵を掴み、振り返りもせずに夜の闇へ飛び出していった。

ドアがバタンと閉まった。

その無機質な音が、晶の胸を完全に麻痺させた。

ゆっくりと二階の寝室に戻り、部屋の灯りを消して、ベッドに横たわる。

下腹部の痛みが波のように押し寄せる。けれど、心の痛みの万分の一にも及ばなかった。

どれくらい経っただろうか。

階下から突然、ガサゴソと微かな物音が聞こえた。静まり返った夜の中で、それはやけにはっきりと響いた。

晶は息を呑んだ。この高級住宅街はセキュリティがしっかりしているけど、空き巣のニュースがなかったわけではない。

少し迷ったあと、足音を殺して起き上がり、ドアまで忍び寄ってそっと隙間を開けた。

窓から差し込む微かな月の光の中、リビングで何かを探し回る黒い影が見えた。動きは慌ただしい。

空き巣だ。

晶の心臓が激しく鳴り始めた。息を殺し、そっとドアを閉めて鍵をかける。

ドアに背をつけて立つ。手のひらは冷たい汗でびっしょりだった。気づかないふりをしていれば、泥棒が出ていくのを待てばいい――

突然、ドアノブがガチャリと回された。

晶の身体が凍りつく。

外の人間は鍵がかかっていることに気づき、一瞬動きを止めた。だが次の瞬間、さらに乱暴にノブを回し、力任せにドアを押し始めた。

「クソ、鍵がかかってやがる?中に誰かいるのか?」

低くしゃがれた男の声が、忌々しげに悪態をついた。

晶は慌ててベッドサイドのスマホを探った――もう逃げられない、警察を呼ばなくちゃ。

それとも……震える指先は、無意識のうちに旬の番号をタップしていた。

彼はすぐ家の外にいるはずだ。電話に出てくれさえすれば――

ドアが激しく二度蹴られた。錠がきしむ音がする。

晶は窓際まで後ずさり、スマホを握りしめた。電話が繋がるのを待つ。

コール音が一回、二回、三回……その一回ごとが、張り詰めた神経を激しく叩く。

誰も出ない。

――バァンッ!

ドアが蹴り破られた。覆面をした男が寝室に飛び込んでくる。その手には、冷たく光るナイフが握られていた。

「やっぱり誰かいたか。俺の姿を見られたからには、生かしておけねえな!」

男は凶悪な目を光らせ、ナイフを振り上げて晶に襲いかかった。
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