LOGIN「はぁ……はぁ……」
早く逃げなきゃ、もっと早くもっと早く、 出口はどこ? 気持ちは焦っているのに、思うように進めない。 足を動かす度に、着慣れないドレスが、まるで行く手を阻むように足に纏わりついてきて、どうしてももたついてしまう。 それに、こんなにも走ったのはいつ以来だろう。 「急がなきゃ、逃げなきゃ、早く、早く……はぁ……はぁ……」 自分で自分を励ますように、ぶつぶつ呟きながら走り続ける。 「ごめんなさい!すみません!」 「失礼だな!」 ちらほらと庭園を散策している人達にでくわす。 寄り添いながら歩いている人達の間に割り込むように通り抜ける。文句を言われたけれど、振り返る余裕もない。 邪魔してごめんなさい! 出口はまだなの? こっちであっていますように! どうか、お願い…… 「 あそこだわ!」 前方に門が見えてきた。門番が2名いる。 どうか、呼び止められませんように! あと、もう少し! 「お嬢さん!ちょっと!」 門まであと少しという所で、門番の1人がこちらに早足で近づいてくる。 「い…や……」 万事休すなの……?ここで捕まるなんて嫌……。 「はぁ……はぁ……」 立ち止まったものの、出口は目の前だ。 進むしかない。どうしよう……門番を相手にどうやって逃げたらいいの? ただでさえ走り続けて鼓動が激しいのに、緊張から心臓が飛び出しそうになるほどドクンドクンドクンと高鳴る。苦しい……。 そんな私に向かい門番は「こっちへ」とひらひらと手を振る。 動揺して動けないでいる私に、門番は急かすように言葉を続ける。 「大丈夫かお嬢さん? そんなに息を切らして。馬車が通るから危ないよ。早くこっちへ」 ガタガタガタと後方から車輪の音が迫ってくる。 「馬車……?」 振り向くと確かに馬車がこちらに向かってくるのが見える。 大人しく門番に言われた通りに場所を空ける。 馬車が徐行して門を通過する瞬間、門番の目から隠れるように馬車の横に並んで駆け出した。 「外に出られたわ!」 スピードを上げる馬車から離れて、一目散に走った。 「大丈夫、誰も追いかけてきてない、大丈夫」 ちらっと一瞬振り返り後方を確認した後、とにかく前へ前へと足を動かし続けた。 まだ気を抜いてはダメ。 馬車の往来のある広い道は目立つから危険だ。道から外れ、草木が生い茂っている所に飛び込む。 人目につきにくいはず。 草木を掻き分けながら、身を隠すようにとにかく走り続けた。 「進まなきゃ、進まなきゃ」 行く当てなどない。でも、立ち止まるわけにはいかない。 逃げなきゃ。 ドレスは既に土埃などで汚れ、木の枝に引っ掛けたりして所々破れていた。 走りすぎて脇腹が痛い。 でも弱音を吐いていられない。 こんな機会は二度と訪れない。 ここまで逃げたのに、捕まるなんて絶対に嫌! 捕まるくらいなら、死んだ方がましかもしれない。 「はぁ……はぁ……」 喉もカラカラだった。 鬱蒼と茂っていた木々は、いつの間にかなくなっていた。 道が開けて、走りやすくなった。 「街だわ」 街に辿りつくと、徐々に速度が落ちていった。 もう、体力の限界だった。 行く当てもなく路地を彷徨い歩く 暗闇の中、漏れ出ている家の灯りを頼りに、とぼとぼ進んでいく。 どこからか、楽しそうな笑い声も聞こえてくる。 それは、あの邸ではソフィアが決して味わうことのなかった家族の団欒だった。 愛情のこもった優しい声色。 「……いいな」 呼吸が整ってくると、疲れが一気にどっと押し寄せてくる。 もう何も考えられなかった。 無心のまま、ただただ、ひたすら歩を進める。 一歩、一歩、前へ、前へを足を動かす。 「あっ!」 誰かにぶつかってしまい、そのままよろめいて転倒した。 「おっと、ごめんよ。あんた、大丈夫かい?」 朗らかな女性の声が頭上から降り注ぐ。 自分に話しかけられているのだと分かっているのに、すぐに反応できない。 重い身体を動かして、ゆっくりと見上げる。 中年の女性が荷物を抱えて、私を心配そうに覗き込んでいた。 「だ、大丈夫です」 女性は荷物を置き、私に手を差し伸べて立ち上がらせてくれた。 「ありがとう……ございます」 消え入りそうな声で、お礼を伝えて、立ち去ろうとした。 「ねぇ!ちょっと!あんた、ひどい格好じゃないか、全然大丈夫そうに見えないよ、どうしたんだい?」 「え……?」 私は改めて自分の格好を眺める。 ドレスは擦り切れ、土で汚れて酷い有り様だ。無意識に髪を触る。結い上げていた髪も、崩れていた。 「怪我してるじゃないか。大丈夫かい? 「けが……?」 痛みには慣れているので気づかなかった。確かに、草木を掻き分けていた時に擦り切れた傷もある。 こんな傷、全然たいしたことではないのに。 「 あんた……、いいとこのお嬢さんじゃないのかい? こんな時間に一人でこんなとこにいたら、家族が心配するよ?心配かけたらいけないよ」 家族? 心配? 私のことを心配する人なんて、誰もいない。 「家族は……いません」 「ん?」 「そんな人、誰もいません!」 家族という言葉に、無性に腹が立ち強い口調で答える。 女性は一瞬驚いた顔をした。 「そうかい……。それなら、うちに使ってない娘の服があるから、良かったらもらってくれないかい?そのままよりはましだと思うよ」 「え…?」 「あんた、亡くなったうちの娘と同じくらいの年ごろに見えるから……。 なんだか、放っておけなくてね」 「亡くなった……?」 問いかけると、女性は顔を曇らせ空を仰ぐ。 「あぁ。まぁ、ちょっと人助けでもすると思ってさ。 良ければ、この荷物を運ぶのを、そこまで手伝っておくれよ。お礼に服を渡すということにしないかい?」 私は夢のような提案に驚いた。 どうしよう? 他に行く当てもないし、せっかく声をかけてくれたんだし、お言葉に甘えよう。 それに、悪い人には見えない。 「お持ちします」 「ありがとう」 にこりと女性は微笑む。 思わず固まってしまった。 自分に微笑んでくれる人がいるなんて。 どう反応すればいいのか分からず、そそくさと女性の荷物を持ち、顔を隠すように俯いて、女性の後ろを歩いていった。煌びやかに着飾った貴族達が本日の主催者へ挨拶の列を作っている。 「フォルスター侯爵様、本日はお招きいただきましてありがとうございます」 「リリアーナ様は侯爵夫人に似て、とてもお美しいですね。ぜひ私共の息子を紹介━━」 「おかしいですね?客観的に見てもリリアーナは私に似ているのだが?妻からも自分よりも私に似ていると常々言われている。あなた方の目はふし穴か? それとも私の容姿を愚弄しているのか?」 エドフォード侯爵は、ギロリと目線を動かし威嚇する。 「い、いえ! た、た、確かに侯爵様にそ、そっくりでございます! そ、それでは、失礼致します! いくぞっ」 挨拶もそこそこに、逃げるようにその場を去る貴族達。 エドフォードの逆鱗に触れることがあってはたまらないと、以降の貴族達は余計な事を口走ることもなかった。 あわよくば、息子をリリアーナの婚約者にと考える者も多い。滅多に社交の場に姿を表すことのないリリアーナがいるので、取り入る機会を窺っていた貴族達にとっては絶好のチャンスのはずだった。 「あなた、いくらリリアーナが可愛いからとはいえ、そのようなお顔をされていたら、皆が怯えてしまいますわよ」 笑っているのを隠すように、扇子で口元を覆いながら、レティシア侯爵夫人は夫へ苦言を呈する。 「別に普通にしているだけだ」 「うふふ、わざと怖いお顔をされているのでしょう? でも、あと少しの辛抱ですわよ、ねぇ? リリー」 「リリアーナ、本当に良いのか? 今ならまだ取りやめることもできる。お前が望むなら、断ることもできる」 「お父様? 王家からの申し出を断るおつもりですか?」 周囲に聞こえないように、リリアーナも扇子で口元を覆い小声で話す。 「相手が誰であろうともだ。私は、私達は、お前の幸せを誰よりも願っている」 「うふふ、リリー、子離れができないこの人にあなたの気持ちをきちんと伝えてあげて」 レティシア夫人に背中を後押しされるように、リリアーナは侯爵に向かい言葉を紡ぐ。 「お父様、私はアレクを、アレクセイ様をお慕いしております。私はとても幸せです」 「そうか、お前のその笑顔を見て安心した」 「どうか、心配なさらないで。お父様、その前に、ソフィアのお披露目をお願いしますわ。新しい家族の一員を」 「そうだな
※第二部 21 ソフィアside⑤の後 ✳︎✳︎✳︎ 「髪が……私の髪が……なんでよ!なんで私がこんな酷い目に合わないといけないの!」 アンジェリカはグレッグによって切り捨てられた自身の髪の毛を拾い胸に抱き締める。 「あぁ……」 かつては毎日念入りに手入れされていた髪━━ここしばらくは匿われていたとはいえ、逃亡生活のせいで充分なケアができなかった。 それでも、ソフィアなんかとは比べものにならないくらい価値がある私の髪よ。 大きな宝石があしらわれた髪飾りをつけて、夜会に参加していた時に思いを馳せる。 ちょっと話しただけで、殿方から沢山の贈り物が届いたわ。私に気に入られようと必死にアピールしてきてたのよ。私は選べる立場の人間なの! なのに……なによあの騎士は! 「どうしてよ!……私は何も悪くないのに!」 虚な目を動かすと、先程の銀髪の騎士がソフィアを抱きしめているのが見える。 アンジェリカは、自身の親指をギリギリと噛み締めた。 「ソフィアのくせに!全部あんたのせいよ!」 グレッグとソフィアが抱き合っている姿を見ながら、ぶつぶつとアンジェリカは毒を吐く。 グレッグの傍に置かれた剣から、キラリと鈍い光が放たれる。 その瞬間、アンジェリカは我に返る。 「いやよ……殺されるなんていやよ……」 先程グレッグに剣を向けられた恐怖が甦る。 あの男は私を殺す気だわ 思い通りにさせない! アンジェリカは物音を立てないように立ち上がる。淑女教育は厳しく受けてきた。音を立てないように動くなんて、簡単なことよ。 こんな時に役に立つなんて皮肉だけれど。 アンジェリカは息を押し殺しながら、部屋からそっと抜け出すことに成功した。 (あはは!やったわ!そんな貧相な女に気を取られるなんて愚かな男。容姿は綺麗かもしれないけれど、その時点で大した男ではないわね) 最初はゆっくりと歩いていき、距離が取れた後は一目散に駆け出した。 「許さない!許さない!許さない! どうしてこの私がこんな目に…… 覚えてなさい馬鹿なソフィア!絶対に許さないんだから!」 人の気配がする度にアンジェリカは物陰に隠れてやり過ごした。 薄暗い地下なので上手く進めていたが、邸に辿り着いてからが厄介だった。 複数の騎士が邸の
22 ソフィアsideの後 グレッグ独自の妄想理論です ✳︎✳︎✳︎ グレッグはソフィアを横抱きにして、部屋から出ようとして立ち止まる。 「ソフィア、ジャック殿を探しに行く前に、確かめたいことがある。 ストックホルム症候群を知っているか?」 「ストック……? す、すみません、聞いたことがありません」 「知っている者の方が少ないかもしれない。 ストックホルムとは、とある国の地名らいい。 ここではない、どこか別の異世界のことを書き記した文献に記載されていたのだ。」 「異世界ですか?」 「あぁ、異世界で実際に起こった事件に由来するそうだ。 誘拐や監禁など、犯人の拘束下に置かれた 被害者が、長時間共に過ごすうちに、犯人 に対して特別な感情を抱いてしまう状態の ことだ。 恋愛感情を抱く者もいるらしい。 もしかしたら、ソフィアも…… ジャック殿に対して……恋心を抱いてしまったのではないかと…… すまない……今はそんなことを言っている時ではないと分かっているのだが…… ソフィアに捨てられるのではないかと 不安なのだ……」 「捨て……? グ、グレッグ様どうなさったのですか? 私がグレッグ様以外を好きになるなんてありえません! あ、あの、私ったら何を言って……恥ずかしい… グレッグ様は、色々なことにお詳しいのですね。 ですが、その症候群には私は当てはまらないと思います。 ジャックは、そもそも犯人ではありませんし……お世話になった方ですし」 「だが、長時間拘束された状態で、非日常的な経験を過ごしている…… 精神的負担も大きかっただろう。 それでだな、ソフィア、その……考えたのだが、私も同じ状況を経験した方がいいと思う。 そうすることによって、ソフィアの気持ちが理解できるし、どのようなケアが必要かも分かるはずだ。 ソフィア、つまりだな……コホン……私を縛ってくれ」 「えっ!縛るだなんてできません。わ、私は大丈夫ですのでっ」 「ソフィア、心的な負担を負っていることは、本人が気づかない場合もある。 何も縄で縛って欲しいと言っているのではない。 このままの状態で、首に腕をもっと強く回して……そして」 グレッグ様は私のことを…好…きですよね…?」
※グレッグの独自理論です。事実とは異なります ✳︎✳︎✳︎ ソフィアの部屋にて グレッグとソフィアは並んでソファーに腰掛けている。 「ソフィア、タッピングセラピーを知っているか?」 「タッピングセラピーですか? いいえ、聞いたことがありません…… それはどういったセラピーなのでしょうか?」 「タッピングセラピーとは、感情や感覚をつかさどる経路を、タッピングすることで、扁桃体を落ち着かせるのだ。 つらい記憶や、心理的ストレスを緩和する効果がある。 それでだな…ソフィア。 私は、タッピングセラピーの心得がある。 試させてもらえるか? ソフィアのつらい記憶を、忘れさせたい のだ。 傷ついた心を、私に癒させてほしい。 ソフィアはただ黙って、身を任せてくれた らいいから。」 「グレッグさまは、博識なのですね。私のためにありがとうございます」 「では、オホン……最初に念を押すが、これは治療なのだ。決してやましい気持ちはない」 「分かり……ました。よ、よろしくお願いします」 「では、ソフィア始める。 途中で辞めると効果が半減する。 なので、私が終わりの合図をするまで我慢してほしい。 ソフィア、まずここに座ってもらえるか?」 グレッグは、ソファーの上で胡座を組んで座り直してソフィアを誘う 「えぇっ⁉︎ そ、そこ……でないといけないのでしょうか…」 「あぁ、これも治療の一貫なのだ」 「そ、そ、そこに……座るのですね……?」 グレッグは躊躇うソフィアの腕をとると、ぐるんと回転させながら自身の足の上に座らせる。 ソフィアを背中から抱きしめて、その肩の上に顎をのせる 「まずは、耳からだ」 「ひゃっ⁉︎ あ、あの、」 ソフィアは座っている場所も落ち着かないのに、背中に密着したグレッグの顔が急接近してきて、あわあわするばかりだ。 「ソフィア、動かないで……じっとして…」 グレッグは、ソフィアの背後から耳を軽く喰んでいく。 「動かないで」と、耳元で時折囁きながら、ゆっくりと喰んでいく。 耳、頬、首元へと順番に唇を落としつつ、喰んでいく そして、首筋を舌でなぞると、ちゅうと勢いよく吸い付き始める ソフィアはチクリと首筋に軽い痛みを感じて、両手でそっとグレッグを押し退けようとする 「いゃっ、グレッグ様、待
✳︎✳︎✳︎ 囚われてノーマン邸で一夜を過ごし、 全てから解放された時には、空が茜色に染まる頃だった アレクセイ様とリリアーナ様とは、早急にお別れの挨拶をした 何度もリリアーナ様によって一緒に連れて行かれそうになったけれど、グレッグ様が断ってくれた 近日に必ず会いましょうと声をかけてくださったのが嬉しい ジャックは一人で帰路についた 何度も謝罪されたけれど、ジャックのせいではないのに…… ジャックには改めて、今度グレッグ様と三人で会いたいと思う グレッグ様と共に、ノーマン邸から馬車で街まで戻ってくることができて、見慣れた街並みを見てほっとする 「ソフィア、三日月亭までもう少しだ。 少しだけこのベンチで待っていてもらえるか? すぐに戻る」 声を出す気力がなく、黙ってコクリと頷いた あたりの店は、ちらほらと閉店の札を掲げつつあった。 グレッグはソフィアの安全確認を怠らず、常に周辺を警戒しながら、早急に近くの店に飛び込んだ 「ちょっと尋ねるが、この店に今薔薇の花は何本ある?」 「いらっしゃいませ、贈り物にご利用でしょうか? 何本の希望ですか?」 「今何本あるだろうか? できれば 999本お願いしたい」 「えぇっ⁉︎ そ、その本数はないかと思います」 「ここに出ているだけなのか? パッと見たところ282本といったところか…… 珍しいな、青い薔薇があるのか」 「はい、こちらの花言葉は夢叶う・奇跡などです。プレゼントにもおすすめですね」 グレッグはざっと青い薔薇の本数を目視で確認する 「ならば、101本お願いする。早急にだ。釣りはいらない」 「ひゃく……しょ、少々お待ちください」 心なしか慌てふためく店員から、花束を受け取り店を後にする ソフィアには、やはり赤よりも青いものを手渡したい 自分の瞳を思わせる青いもので…… グレッグは購入した花束を持って、ソフィアのもとへと戻って行く 噴水の傍のベンチに腰掛けたソフィアは、グレッグが戻るのを待っていた 今日は色々なことがあり、心身共に疲弊していた そのせいもあって、自然と足元を見るように俯いていた 「ソフィア」 ふと頭上から優しく呼びかけられたかと思うと、グレッグが片膝をついてソフィアの目線を
~27話後~ グレッグはリリアーナに対して、敵対心を剥き出しにする。 「リリアーナ嬢、あなたはひとつ重要なことを忘れている。そもそも私以上にソフィアのことを大切にできる者など存在しない! いや、存在できる訳がない! (ソフィアに懸想する者が現れようものなら、問答無用で相手が誰であろうと消すからな だが、万が一、万が一にでも、ソフィアが 私以外の男を…… ダメだ、考えたくない。だが…… もしもソフィアが私以外の男に好意を寄せ、ソフィアのことを大切にしてくれるのならば…… その時は死ぬ‼︎ 生きてる意味などない)」 「最後のその長い間はなんですの? グレッグ殿、私にはあなたの心の呟きが聞こえましたわ。 ソフィアに危害を加えることはなさそうですが、あなたは俗に言う所のやばい人ですわ。 ちょっと顔が整っているからと言って許されることではありませんわ! アレク、あなたと交流があるようですけれど、排除しても構わないかしら?」 「う~ん、殺しても死なないと思うよ。 リリー、できれば短時間でお願いできるかな。ソフィア嬢を休ませてあげたい」 「ご心配なさらずとも、秒で決着つけますわ。ソフィア少しだけ我慢してちょうだいね」 「リリーは一度言い出すと誰の言葉にも耳を貸さないから。ソフィア嬢、立っているとしんどいだろう。こちらへ座るといい」 先程の黒いマントを身に纏った男性が、どこからかソファーを運び入れていた グレッグのマントに身を包んだソフィアは、アレクセイにエスコートされてソファーに腰掛ける 「殿下! ソフィアと離れてください」 「ん?あぁ、分かった……って、グレッグ、お前なぁ。お前こそリリーを傷つけるなよ」 「アレクセイ様、申し訳ありません。」 「いや、ソフィア嬢が謝ることではない」 グレッグの鋭い視線に耐えかねたアレクセイは、ソフィアと距離をとって腰をおろした 「あ、あの……いったいお二人は何を争っているのでしょう?」 ソフィアは、自分のせいでまたグレッグに迷惑をかけているのではないかと自己嫌悪に陥っていた 「ソフィア嬢は何も心配することなない。まぁ、少し見物しようか」 ソフィアは困惑するものの、二人の間に割り込めそうにないので、大人しく様子を窺うことにした