「邪魔よ!」 「痛っ」 突然、突き飛ばされてバランスを崩した。恐る恐る義姉の顔を見上げる 「な~に? その顔は! あなた、まさか文句でもあるの?ほんっとにその顔を見ると虫酸が走るわ! さっさと私の視界から消えてちょうだい!」 「申し訳……ありません」 「ほんっとにトロいんだから」 はぁ 義姉の八つ当たりと癇癪はいつものこと、 ただ黙って耐えるしかない。 私は10歳の時にこの家に引き取られた。それまで母と2人暮らし。決して裕福とはいえなかったけれど、優しい母と穏やかに過ごしていた。いつも忙しい合間をぬっては私との時間を作ってくれた。 気軽に新しいお洋服を買うことは出来ないので、ほつれてるところを修繕してくれたり、野菜の切り方を教えてくれたり、一人で生活するために必要なことを教えてくれた。 嫌なことがあった時は、一緒に歌を歌って明るい気分になれるように励ましてくれた。 今なら分かる。 母は私の前では無理をしていたのだと思う。 心配をかけまいと。 倒れるその瞬間まで……。 私もどこかで働きたかったけれど、子供のうちは遊ぶのが仕事だからと言われていた。 それでも、働いて母を少しでも休ませてあげればよかった。 気づかなくてごめんなさい……。 母が亡くなりしばらくすると、知らない人が迎えに来た。 父親の遣いだと名乗るその人が言うには、母は以前勤めていたお屋敷の主に見初められ、私を身籠ったと。 そのことが知れて奥様は激怒。 母は身重の体で屋敷を追い出されたのだそうだ。 そのお屋敷の主が私の父親だと。 母の訃報をどこから知ったのか、父親が私を引き取りたいと言っているから一緒に来て欲しいと。 その時の幼い自分の行動を思い出すと後悔するばかり。どうして、なんのためらいもなくついて行ってしまったのか。 知らない人に付いていってはいけない、と言われていたのに。 その方に連れられて、このお屋敷に来たときはあまりの広さ、豪華さに驚いた。今までの家とは比べ物にならなかったから。 目を輝かせて興奮する私の心を打ち砕いたのは、初めて対面する父親の一言だった。 「お前はここで死ぬまで働くのだ。まずは躾が必要だな。」 部屋を出て行ってすぐに戻って来た父の手には、鞭が握られていた。
Last Updated : 2025-11-15 Read more