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一見さんお断り

last update Huling Na-update: 2025-05-20 18:08:36

 第7話 一見さんお断り

「お前に会わせたい人がいるんだ、出て来れるか?」

「今、履歴書書いてるんだけど」

 カリカリとボールペンを走らせながら、伝えると杉田のトーンが下がった気がした。楽しそうにケラケラしたかと思うと急に真剣になって、挙げ句の果てには不機嫌になる。ここまで波が激しいのは初めてのことだったから、少し戸惑うのが本音。

「俺と履歴書、どっちが大事なんだ?」

 その言葉を聞くとうまく言っていない恋人に言うセリフなんじゃないかとツッコミを入れたくなったが、この雰囲気で口走ってしまうと後々怖い。言いたい衝動を抑えると、切り替える為に一呼吸置いた。

「……分かったよ、行くから」

 こうでも言わないと彼は納得しないと判断した僕は、書くのを止めて、身支度を始める。指定された場所は大通りから離れているようだった。あまり通らない道だ。少し不安はあるが、気分転換には良いだろうと、納得しきれてない自分を無理矢理押さえ込む。

「なるべくおしゃれしてこいよ。じゃないと後悔するから」

 その言葉の意味を確認しようとすると、強制的に電話が切れた。

 ーーーーーーーーー

 おしゃれと言われても、見様見真似でしか出来ない。派手な服を着る勇気は持ち合わせていない。少し悩んで、諦めた。雑誌を読んで研究するしかないと、頭を抱え行き着いた先はいつもの無難な服装。

「おいおい。いつもと同じじゃん」

「急に言われても分かんないだろ。仕方ないじゃんか」

 一ヶ月ぶりに会った杉田はダメージ加工している黒のロングティシャツと黒のパンツを履いている。ブーツは所々、おしゃれな模様が散りばめられていて、高級そうに見えた。横に並んで歩いていると、自分だけが取り残されている感覚を感じながら、バーの入っているビルへ潜り込んだ。

 一見さんお断りと張り紙が貼られている。どうやら紹介でしか入れないようで、一人だったら追い返されているだろう。その張り紙をモノともしない態度で、勢いよくドアを開け「よっ」とマスターらしき人に挨拶をした。

「すぎちゃん久しぶり。最近顔見せに来ないから連絡しようと考えてたとこ」

「本業が忙しくてね。なかなか」

「あー」

 うんうんと納得したように頷くと、ドアに張り付いている僕と目が合った。そもそもバーなんて行かないし、こういうキラキラした人達との交流がない僕からしたら、全てが初めて
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