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第2話

Auteur: 年華
雪は無理やり礼の股の間に座らせられ、その姿は遠くから見るとまるで何かをしているように見えた。

「いい気になるなよ。俺は潔癖症なんだ、汚いのは嫌いだ」

そう言って手を離すと、雪を見下ろしながら、テーブルの上の殻付きナッツが盛られた皿を指差した。

「美羽はこれが大好きなんだ。剥いてやれ」

美羽はこんなところで雪に会うとは思ってもいなかった。彼女は警告するように雪を睨みつけると、テーブルの上の道具を片付け、嘲るような口調で言った。

「じゃあ、お願いね」

礼は美羽を抱き寄せ、バッグから札束を取り出して雪の足元に投げつけた。

「これを全部剥いたら、この金は全部お前のだ」

雪は全身が震えるのを感じた。涙をこらえながら、しゃがみこんで一つずつナッツの殻を剥いていく。

殻で指を切り、破片が刺さり、血が滲み出てきた。

礼と付き合い始めた頃、ナッツを剥いて手を切った時のことを思い出した。

「どうしてそんなに不器用なんだ。これからは俺がやるから、お前は大人しく待っていればいい」

当時の礼は、彼女の手に優しく触れ、消毒をしてキャラクターの絆創膏を貼ってくれた。

あの日から、彼女のバッグにはいつも剥かれたナッツが入っていて、ソファでテレビを見ていると、礼が傍らで一つずつ口に入れてくれた。

がしゃんという音とともに、雪ははっと我に返った。テーブルの上にあったフルーツの盛り合わせが床に落ちて粉々に砕け、果物が美羽のドレスの上に飛び散っていた。

「オーダーメイドの婚約パーティー用のドレスが!」

美羽は雪を指差して叫んだ。

「私は触っていない……」

パンっ!

甲高い平手打ちの音に、騒がしかった部屋は静まり返った。

雪の顔はたちまち赤くなり、焼けるように痛んだ。

「まだ言い訳をするのね!どう見てもわざと果物をひっくり返して私に恥をかかせようとしたんじゃない!」

美羽はそう言うと、礼の胸に飛び込み、顔をくしゃくしゃにして泣いた。

「礼、仕返しをして!」

礼は美羽を抱き寄せた。

「わかった、お前はどうしてやりたいんだ?」

彼女は体を起こすと、雪を勝ち誇ったように見下ろして、冷たく言った。「弁償するか、土下座して謝るか、どっちか選んで」

周囲の者たちも口々に同意した。

「土下座で済むなんて、甘すぎるだろ。このドレスは男を1万人相手にしても、買えるかどうかわからないものなんだからな」

雪の爪は掌に食い込み、悔し涙がこみ上げてきた。5年ぶりの再会が、こんなにも屈辱的でみじめなものになるとは思ってもみなかった。

一瞬、礼に助けを求めようと思ったが、すぐにその考えを打ち消した。彼は自分を憎んでいるんだ。助けてくれるわけがない。

「早くしろよ。それとも、ストリップでも踊ってくれるのか?そうしたら俺が代わりに払ってやるぜ」

「それはつまらないだろ。この腰つき、ベッドの上じゃさぞかしすごいんだろうな」

爆笑の中、雪は指が白くなるほど握りしめ、唇を噛み締めて泣き声を上げないようにしながら、ゆっくりと膝を曲げた。

今にも跪きそうになったその時、礼は彼女の腕を掴んで引き寄せた。

「雪、お前、人に言われたらなんでもするのか?プライドってもんはないのか?」

しかし、思っても見なかった女の冷たい視線を受けると、彼は思いっきり腕を振り払った。雪はよろめき、足をくじいて床に倒れ込んだ。

礼は美羽を抱き寄せ、優しくキスをした。

「美羽、こんなひざまづいている女なんか、相手にしないでいい。今日は俺たちの大切な日なんだ。こんなやつに気分を害される筋合いはないよ」

「とっとと失せろ!」

礼はグラスを床に叩きつけた。破片が彼女の顔をかすめ、血が滲み出た。彼女は足首の痛みをこらえ、立ち上がって急いで部屋を出て行った。

トイレに駆け込み、鏡に映る自分の姿を見ながら、涙で視界がぼやけてきた。彼女の思考は5年前へと引き戻された。

当時、彼女と礼は7年間の交際を経て、もうすぐ婚約という矢先、彼の会社が競合他社の策略によって倒産の危機に瀕し、いくつもの訴訟を抱えていた。

さらに彼女の母親が癌を患い、彼女が途方に暮れていたところに、美羽が現れた。

美羽は動画を突きつけ、雪に礼と別れるよう迫った。

「わかるでしょ?今彼を救えるのは柳グループだけ。あなたは彼の足手まといになるだけよ。

あなたが彼から離れれば、父に頼んで彼を助けてあげる。そうでなければ、私は手に入らないものは全て壊す。彼を刑務所送りにしたくなければ、従って」

雪は他に選択肢がなく、同意するしかなかった。礼の未来を賭けには出せなかった。

礼に完全に諦めさせるため、彼女は友人に頼んで芝居を打ってもらった。

礼が目を覚ますと、秘書の佐藤潤(さとう じゅん)が興奮した様子で会社が助かったことを伝えた。

「雪はどこだ?」

潤はしばらく迷った後、怒りを込めて言った。「社長、小林さんは金に汚い女です。社長が入院した途端、他の男に走りました」

「そんなはずはない!雪がそんなことをするはずがない!」

礼は点滴の管を引き抜いて病院を飛び出した。しかし、雪を見つけた時、彼女は他の男と寝ていたのだ。

「なぜだ!」

礼は泣き叫びながら彼女を問い詰め、土下座してまで戻ってきてくれるよう頼んだ。しかし、返ってきたのは冷たい言葉だけだった。

「礼、あなたの下着までも含めて全身に身につけているもの全てをひっくるめても、彼が買ってくれたバッグ一つにも及ばないわ。よくそんな姿で私と一緒にいられるわね」

彼女は、あの時自分を見つめていた礼の目が忘れられなかった。その目は、信じられないという目つきから次第に絶望に変化し、最終的には憎しみに変わった。

これまでの間、雪はあの時のことを思い出すたびに、胸が張り裂けそうになった。

あんなにも誇り高い彼が人前で侮辱されたのだ。きっと自分を憎み、二度と許してはくれないだろう。

彼女が乱暴に涙を拭いて立ち去ろうとしたその時、背後から何者かに口と鼻を塞がれ、抵抗する間もなく意識を失った。
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