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番外編SS集《3》

Author: 砂原雑音
last update Last Updated: 2025-08-28 19:45:51

いつもなら、暫く指で内側を広げてから彼が抱きしめてくれて、身体を繋げる。

だけど、今夜は違った。

「寂しい思いさせて、すんません」

「ふあ?」

「もう二度と、別れたいなんて思わずにすむように、身体ももっとゆっくり、愛させてくださいね」

……え?

どういう意味だ、と考える間もなく。

「あああああっ!」

指を埋めながらもう片方の手で襞を広げ、また舌を這わせ始めた。

も、むり!

むりだむりだ、しっかり愛は受け取ったから!

必死でそう伝えようと思うのだが。

「ああっ! あん! あう、」

ただひたすら甘い嬌声が響くだけだった。

きもちいのか苦しいのか。

どちらも間違いではないけれど、もう身体の方が限界で。

なのに確かに高まっていく快感に翻弄されて、背中を逸らせながら喘ぐ中。

ちょっとだけ、とろけずに残っている理性が、必死に警告している。

だめだ。

このまままじゃ、まずい。

だって、まだ繋がってもない前段階で

もうすでに満身創痍の状態なんて、どういうことだ。

大体なんで、苦痛と快楽をごちゃまぜに感じるほどに、僕はじらされてるのか。

優しい顔をしていたけれど、「もう別れたいなんて言わずにすむように」とは、つまりこれが罰だということなんだろうか。

もう、喘ぎ過ぎて擦れた声しかでない。

身体がいうことをきかない、疲れ切ってるはずなのに、愛撫に反応して腰が揺れる。

これじゃあ、陽介さんは誘ってるとしかとらえないだろう。

もっとってせがんでるように思われてるかもしれない。

―――もっとゆっくり、愛させてくださいね

プリンを買ってきてくれた時のような

邪気のない顔でそう言われたのを思い出し、身体は熱いのにゾッと寒気を感じた。

まずい

このままじゃ確実に

抱き潰される。

早く次の段階に進んでもらわなくては、僕の身体がもたない。

防御なんてまるで役に立たない今、何か攻撃を考えなければ。

もう限界だから今日は止める!

ではなくて、早く入れてもらおうと考える辺り、僕も相当におかしくなっていたのは間違いない。

後から考えれば、の話だけれど。

手のひらはやんわりと、けれど逃げられないくらいに腰に絡んだ陽介さんの腕を掴む。

「陽介、さん、」

身体が悶えるのを強引に抑えたからか、声も手も震えてた。

顔を上げた彼と目が合うと、なんだか急に泣きたくなった。

事実、涙が浮かんだ。

これが中々、良い後押しになっ
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