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第373話

Author: 十一
「……?」早苗がきょとんとした顔をする。

凛はビスケットを一枚手に取った。「ありがとう」

「どう?美味しい?」

彼女は凛の顔をじっと見つめながら、まるで褒めてもらいたくてたまらない子どものように目を輝かせていた。

「おいしい。甘すぎなくて、ちょうどいいわ」凛がそう答えた。

「でしょ!いろんなの試してみたけど、このブランドのチョコビスケットが一番だったの!」

そう言ってから、早苗はふと思い出したように学而のほうへ視線を向ける。

「ねえ、あなたも一枚どう?」

学而は首を軽く振った。「いや、いいよ。ありがとう。カロリー高いし、太りやすいから」

その口ぶりはあくまで穏やかで、悪気なんてまったくなかった。最近ジムに通い始めて、食事管理をしているだけなのだ。

しかし——

身長160センチ、体重145キロの早苗は黙り込んだ。

こいつ、どういうつもり?

これから仲良くやっていけるの?!

凛がタイミングよく口を開いた。「早苗、もう一枚もらえる?」

早苗はすぐに凛のそばに寄ってきて、まるでしょんぼりした小さな……いや、大きな犬のように言った。「凛さん、やっぱり優しいなあ……」

学而は自分がいったいどんな悪いことをしたかは分からなかった。

やがて、ビスケットの袋はあっという間に空になった。凛が三枚食べたほかは、すべて早苗がぺろりと平らげた。

なるほど、元気いっぱいの理由がよくわかる。

よく食べ、よく笑い、おおらかで、そしてふっくら。

そのとき、大谷も戻ってきて、三人分の学生証と食事カードを手にしていた。

「もう五時半ね。一緒に食堂で晩ごはんでもどう?」

三人はもちろん異論などあるはずもなく、すぐに頷いた。

……

人が多かったこともあり、今日は中華の炒め物を頼むことにした。

食堂の五階には専用の個室があり、大きな円卓には十人以上が座れるゆったりとした造りだった。

早苗が南部の出身であることを考えて、凛は注文のとき、わざと甘めの味付けの料理をいくつか選んだ。

その瞬間、早苗の目がまたきらきらと星を宿したように輝いた。

学而はもともとあまり喋るタイプではなく、好き嫌いも特に口にしなかったので、凛はそこはあえて気にしなかった。

代わりに、大谷の好みに合わせて、彼女が好きそうな料理を二品ほど追加した。

肉料理を二つ、野菜料理を二つ、それに
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