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第1109話

Author: 雪吹(ふぶき)ルリ
和也はここで洋子を見るとは思ってもみなかった。「どうしてここに?」

洋子は一枚のデザイン図稿を手にしている。「ここで仕事しているの。ちょうど出てきたらあなたを見かけてね」

洋子は司と真夕に視線を向けた。「あなたの友達を紹介してくれないの?」

和也「俺の親友の堀田司、そして仲のいい友達の池本真夕だ」

洋子は司を見て挨拶した。「堀田社長、こんにちは」

続いて真夕に向き直った。「池本先生、お名前はかねがね伺ってる。お会いできて光栄だ」

本物の美女と才女のあいだには、いつだって互いを認め合う空気がある。真夕は洋子にとても良い印象を持ち、洋子も真夕に好感を抱いている。

真夕はにこりと笑った。「林さん、こんにちは」

星羅が甘えた声で言った。「お姉さん、こんにちは。私は星羅だよ」

和也「星羅、彼女をお姉さんと呼ぶのに、俺のことはおじさんって呼ぶのか?それじゃあ順序がおかしくなるだろ」

星羅「でもそう呼びたいんだもん」

和也「わかった。星羅が好きにすればいい」

真夕「林さん、せっかくのご縁だし、今夜一緒に夕食はいかが?」

司「ここは俺がおごるよ」

洋子は和也を見た。「私は時間あるけど、あなたは?」

和也「いいよ。一緒に行こう」

五人はレストランに行き、窓際の席に座った。司、真夕、星羅が並び、和也と洋子は向かい合うように座った。

真夕「林さん、デザイナーなの?」

洋子は頷いた。「はい。実は私の林家は代々デザインの家系で、私も小さい頃からずっとデザインを学んできたわ」

和也は彼女を見つめて言った。「そこまで無理しなくてもいいのに」

洋子は仕事に熱心で、毎日のように遅くまで働いている。

洋子は和也をちらりと見た。彼は羨むほど恵まれた人間だ。常陸家の長男であり一人息子である彼には、危機感などあるはずもないだろう。

自分は違う。努力しなければならない。進まなければならない。

司が笑った。「和也の言いたいことは、多分ね、奥さんなら彼が養ってあげられるってことだよ」

洋子は口元を上げた。「女性には自分のキャリアが必要よ。誰かに養われるなんて、私は御免だわ」

真夕も大きく頷いた。「私も同じだ。仕事に打ち込む女性こそ一番美しいと思う」

真夕と洋子は視線を交わし、互いへの敬意がその目に浮かんでいる。

和也は少し驚いた。この二人がここまで気が合うとは
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Hashimoto Miyuki
またクセのありそうなのが出てきたな… もういい加減に司の呪を解いてからにしてよ
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