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第510話
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元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった 第513話
隼人は、静真が怖いもの知らずであることを知っていた。幼い頃から、達也に殴り殺される危険を冒してまで、彼にちょっかいを出してきた男だ。静真は、相手に傷を与えるためなら、たとえどんな犠牲を払っても厭わないような性格で、彼の逆鱗に触れたとなれば、どんな無謀な賭けにも出るだろう。それを知っているからこそ、隼人は、不意にある傲慢な考えが頭に浮かんだ。月子が自分と出会ったのは、幸運だったのかもしれない。もし彼女が、静真に対抗できない男と一緒になったら、二人とも静真の復讐に巻き込まれ、人生をめちゃくちゃにされるに違いないだろう。しかし、隼人は命知らずのギャンブラーではない。そう言った面から言うと彼は静真よりも幾分か穏やかだ。守りたい人がいる。守るべきものがある。だから、彼は命を懸けて戦うようなことはしないのだ。「お前が月子にした仕打ちは、俺の逆鱗に触れた」それを聞いて静真は冷たく笑った。それを言うなら、隼人が月子に近づいた時点で、とっくに自分の逆鱗に触れていたのだ。男同士、今更こんなごたくを並べたところで何の意味がある？結局は相手を破滅させたいだけだろう？と隼人と静真は二人とも同じ考えだった。「だったら、俺に手を出してみろ」静真は意に介さず、恐れる様子も見せなかった。自分にも隼人と正面からぶつかるだけの力はあった。本気でやり合えば、共倒れになるだけだ。しかも、そうなれば、自分には失うものなど何もないんだから、さらに無謀な行動に出たって構わないんだ。「お前が俺の弟でよかったな」それを聞いて、静真は逆に眉をひそめた。「だから、俺に手を出せないってわけか？」隼人は冷たく笑った。「手を出せないわけじゃない。意味がないだけだ」静真は笑い、隼人に唾を吐きかけた。「臆病者！」隼人が顔をそらすと、静真は抵抗しようとした。しかし、隼人の威圧に押され屈するしかなかった。静真は、悔しそうな顔で隼人に食らいつこうとした。「月子にした仕打ちの報いは、骨の髄まで味わわせてやりたいくらいだ。だが、俺の本心を知っているか？」隼人は静真に優しく問いかけているようで、冷たい答えを突きつけた。「お前が月子を傷つけた分だけ、俺が癒してあげれる。ある意味、俺が月子と付き合えたのはお前のおかげのようなものだ」静真は一瞬、呆然とした。そして、顔面蒼白になり、全身を震
元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった 第512話
普段は冷たく淡泊で、近寄りがたいオーラを纏い、いつも落ち着いて立ち居振る舞っていた隼人は、若い人のような焦りや興奮といった感情を滅多に表に出すことはなかったのだが、今は息を切らせていた。隼人は焦った様子で、月子のところへ駆けつけてきた。ボディーガードも置いてきたみたいだった。月子は彼を見て、声も出せずに口をパクパクさせた。隼人は、月子の真っ青な顔と血だらけの膝を見るや否や、表情を変えることなく、静真に飛びかかった。静真は、隼人がこんなに早く来るとは思っていなかった。月子を連れて立ち去ろうとした矢先、鉢合わせしてしまったのだ。不思議なことに、気分が悪くなるどころか、むしろこうなると予想をしていたかのように、静真は冷静さを保っていた。もちろん隼人も表情には出していないものの、静真は彼の目から動揺の色を伺えた。そう思うと、静真は思わず笑えてきた。隼人は自身が傷ついても顔色一つ変えないのに、月子のことになると、こんなに取り乱すんだな。そもそも月子は自分のものなんだ。隼人は心配する資格なんてないはずなのに、その気にかけて仕方ない様子は何なんだ？静真からしてみれば、月子に取り繕う相手は誰でも敵だ。ましてや、隼人ともなれば、なおさら許せないのだ。離婚届を出したあの日、静真は隼人の気持ちに気づいていた。だが、あの時彼は隼人の気持ちなんて叶うわけがないと思っていた。だって、隼人が目をつけたのは、自分を3年間も愛してくれた月子だ。だから、静真は自分が隼人に負けることは絶対にないと確信していた。隼人の片思いが叶うはずがないと思っていたから、隼人のことなど気にも留めていなかった。それなのに、隼人は自分に勝った。勝ったんだ。そう思うと、静真は今、目の前で月子を奪おうとする隼人に、激しい憎しみを感じていた。兄弟だから体格も似ているし、鍛え上げた筋肉も負けず劣らずだ。しかも、今日は静真が逆上しているせいで、いつもは優勢の隼人も静真からのパンチを何度か食らわされていた。しかし、二人ともそんなことは気にしていなかった。そんなことより、相手を倒すことだけを考え、まるで、縄張りを巡って争うオス同士のようだった。二人は何も言わず、互いにパンチを繰り出しては、腕でガードし、近くにあるものを掴んでは相手に投げつけた。その凄まじい勢いはまるで、命をかけ
元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった 第511話
「ドン」と静真がドアを蹴り開け、月子を部屋の中に引きずり込んだ。彼は月子をソファに投げ出し、彼女の手からスマホを奪い取ろうとした。だが、月子はスマホを握りしめ、抵抗した。「離せ！」静真は月子の指を一本一本こじ開け、冷静を装う彼女の顔を見ながら、険しい目で言った。「おじいさんの邸宅で俺を出し抜いたと思っていたけど、まさか、あんなにも早くから俺を裏切っていたのか……俺が頭を下げているのを、笑いものみたいに、もう一度やり直そうと頼んでいるのを見て、せいせいしたか……月子、俺をなんだと思っているんだ？」静真は無理やり月子のスマホを奪い、彼女の指紋でロックを解除した。そして、逃げるのを防ぐために、彼女の手首をしっかりと掴んでいた。月子は何かで静真を殴りつけようとしたが、彼はその意図を見抜き、彼女を強く引き戻し、抑えつけた。「動くな！」静真はすぐにアルバムを開き、そこにはもっと多くのツーショット写真があった。月子と隼人の写真だ。彼の額に青筋が浮かんだ。一緒にスーパーに行き、一緒に映画を見て、体を寄せ合っている……こんなこと、自分は一度も月子としたことがなかった。静真は全ての写真を削除し、ゴミ箱からも完全に消去した。そして、ラインを開くと、一番上に隼人のトークルームが表示された。静真の指は思わず強く握りしめられた。トークルームを開くと、背景には隼人の写真が設定されていた。彼女はそんなに隼人のことが好きだったのか？トーク履歴には、数日前のビデオ通話の記録が残っていた。つまり、月子は出張中にも隼人とビデオ通話をしていたのだ。さらに上にスクロールしていくと、彼女が隼人と結衣に会いに行ったメッセージを見つけた。本当に付き合っているのか？家族にも会っているのか？その事実に静真は絶望した。静真は隼人の友達を削除し、怒りをぶつけるようにスマホを叩きつけた。スマホの画面は蜘蛛の巣のようにひび割れた。「月子、彼と別れろ」静真は無表情な月子を見て、心が切り裂かれるように感じた。こんな月子の態度に彼は耐えられなかった。彼は声を荒げた。「お前と相談しているわけじゃないからな。これ以上隼人に会ったら、容赦しないから」静真の脅しは、月子の耳元で炸裂した。彼の表情も、言葉のトーンも、車の中でよりも冷たく、真剣だった。その長身で筋肉質な
元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった 第510話
月子の沈黙に、静真の怒りは頂点に達した。正気を失いそうだった。もし本当に月子と隼人が……考えただけでも彼は気が狂いそうだった。自分が月子の最初の男だった。月子は自分の女だ。自分の初めても月子に捧げた。今も月子以外の女とは関係を持ったことがない。なのに月子はどうして自分を裏切ることができたんだ。静真は鬼のような形相で言った。「いいだろう。ここで話したくないなら部屋で話そうじゃないか！」もし月子と隼人が付き合うようになっているのなら、彼は月子を自分の側に縛り付けてでも、離さないつもりだ。月子の膝の怪我にも気づいていたが、今の静真にはそんなこと構っていられないほど切羽詰まっていた。むしろ、ここで月子のプライドを粉々に打ち砕き、一生自分のもとから離れられないようにしたかった。月子は自分のものだ。隼人だろうと誰だろうと、渡さない。そこは最高級ホテルだった。プレジデンシャルスイートの扉は、宮殿のような重厚な両開きの扉で、豪華な装飾が施されていた。静真が事前に予約したこのホテルは、G市で青木家の縄張りだった。青木家と木村家は長年、水面下で争いを繰り広げており、力は拮抗していた。だから、隼人や亮太がここに辿り着くのは容易ではないはずだ。静真はここまで月子を追いかけてきたんだから、隼人が自分を見張っていることも分かっていた。しかし、静真から見て、自分はそれほど不利な立場ではない。少なくとも今夜、隼人に自分の居場所を悟られることはない。そして月子は……静真は、月子とどう接すればいいのか、まだ分からなかった。しかし、月子が隼人と一緒だと言い放った以上、もう彼女をどこにも行かせられない。ましてや隼人と一緒に行かせるなんて絶対にさせない。隼人が本当に自分から月子を奪おうとするなら、自分も今後のことを考え直さなければならないと静真は思った。ここ数年、隼人とは互いに干渉せずに平和に過ごしてきた。だが、あの男は、生まれつき、自分の持ってるものを奪い自分と張り合う立場なのだ。実力については、静真は自覚していた。隼人にはSグループだけでなく、J市の鷹司家全体がバックについているから、どう考えても敵わない。しかし、隼人が月子のためにすべての力を使うとは思えない。それに、女ひとりのために争いを始めれば、鷹司家の人間も隼人を病気だと思うだろう。J市では、結衣と
元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった 第509話
すべては現実なのだ。「月子！」静真の抑え込んでいた感情がその瞬間一気に溢れ出した。頭が真っ白になり、思わず手が出て月子を殴ろうとした。月子はそれを見て覚悟を決めたかのように、歯を食いしばりながら、目を閉じた。すると、激しい風が耳元を掠め、静真の拳は車の仕切りに当たり、凄まじい怒りのこもった音が車内にこだました。運転手も驚き、急ブレーキを踏むところだった。なんとか踏みとどまったものの、車は大きく揺れた。車内は、凍り付いたように静まり返った。月子の顔色は悪く、思わず涙が溢れ出てきた。震える声で、彼女は言った。「これで満足した？」静真は完全に理性を失い、頭は裏切られたという思いでいっぱいになった。どうして月子はこんなことができるんだ。どうして……静真はかつて、なぜ人が精神的崩壊寸前になるとわめき散らかすのかが、理解できなかった。みっともない姿をさらして、まるで負け犬みたいで、見ている方が恥ずかしくなるくらいだ。しかし今、彼はまさに胸の痛みをすべて吐き出したいほど叫び出したかった。苦しい。どうしてこんなことになったんだ。ああ――静真は呼吸さえ困難で、腹の底から煮え立つ思いに駆られていた。ああ――月子――やめてくれ――静真は目を真っ赤に充血させ、涙をこらえていた。彼はこの衝撃的な事実を受け止められず、言葉も出なかった。かつてあんなに愛してくれた彼女が、今、自分をわざと苦しめているのだろうか。怒った自分を、いつも優しくなだめてくれた月子は、どこに行ってしまったんだ？どうして、こんなにも冷酷になれるんだ？なぜだ――ああ――月子は自分の言うことを聞き、自分の気持ちを思いやり、いつも一緒にいてくれるべきだった。一緒にスーパーに行くのも、自分と行くべきだったんだ。なのに、よりによって、自分があんなにも嫌っている男と行くなんて……まさか、月子が彼以外の他の男を選ぶなんて？それは今まで静真が考えもしなかったことだった。まさか、自分が捨てられるなんて……「止まれ」と絞り出すような声で言ったが、その声はなんともか細かった。運転手には届いていなかったようだったので、静真は再び大声で叫んだ。「車を止めろ！」運転手は驚いたが、だけど目的地も間近になっていることを確認すると、車を止めることなく、逆に
元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった 第508話
一方で、月子はそう言って、復讐の快感に浸ることはなかった。ただ、当然のことだと思っただけだ。静真がよりを戻したがっている？また家政婦代わりにされるために戻れだと？自分だってバカじゃないんだから、そんなの、絶対に嫌よ。離婚しただけでは、静真は諦めないだろう。だって彼女はまだ独身だし、隼人とは結衣のために付き合ってるフリをしてるだけだから、この先公表することもないだろう。しかし、月子は静真に対して我慢の限界にきていた。静真には権力でかなわない。彼が使える人脈は彼女にはない。だから、彼に対抗できる人と組むのが一番の近道だった。それで隼人に協力を頼んだ。それは、静真と比べたら、彼女は完全に不利な立場に立っていたから、命を守れる方法は限られていたのだ。だから、彼女もせっかく見つけた命綱を、逃すわけにはいかない。もしかしたら、隼人は最初から彼女を狙っていたのかもしれない。でも、彼女からすれば、それも結果的には狙い通りなわけだ。静真をこれほどまでに苦しめる男は、他にいないのだから。隼人が静真に対して抱く嫌悪感は、彼女が関わっていなくとも、変わらないだろう。それを考えると、彼女が今、隼人とこうして付き合うようになったのも必然なことなのかもしれない。そう思うと月子は幾分か心強くなった。自分は一人じゃない、隼人がいるのだ。だから、静真が偏執的だろうと、もう関係ない。月子も我慢せずに、意地悪を言ってみたかった。それも、とことんね。長い間、月子はずっと自分を抑えてきた。でも、静真がついに彼女の中の何かを解き放ってしまった。車はきらびやかなG市の街を走り続けていた。最終目的はどこなのか、月子には分からなかった。しかし、今の彼女は何かが変わったように、静かな顔で黙っていた。きっと無事にここから離れられる。彼女はそのチャンスを待てばいいだけなのだ。一方、静真は大きなショックを受けていた。月子は彼を罵ったわけでもなかったし、入江家の屋敷で見せたような攻撃的な態度でもなかった。しかし、その言葉は今までにないほど鋭く、静真の心に深く突き刺さった。あまりにもの衝撃で、彼はとっさに反応できなかった。これは本当に、あの月子が言った言葉なのか？激しい苦痛に静真は耐えられなかった。それは、今のこの出来事だけではない。幼い頃からずっと、隼
