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第521話

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つまり、こうなったのも彩乃の言った通り、二人は最終的には一緒になる運命だったのかもしれない。

今日、静真が取り乱した様子を見て、月子は恐怖を感じた。そして隼人が現れた時、心臓が激しく高鳴った。それで、月子は突然、悟ったのだ。どうせいずれ一緒になるなら、早めに気持ちを伝えよう、と。

まだ十分に育っていない感情を無理に進展させたのだから、ある程度必然的な結果を招くことはあるだろう。

現に今の月子の隼人への想いは、隼人の彼女への想いほど深くない。

もしかしたら、一緒に過ごす時間が長くなれば、彼女の隼人への気持ちも深まるかもしれない。

しかし、月子は確信していた。自分は隼人のことが好きなのだ。そうでなければ、彼女から告白しようなんて思わないはずだ。

想いの度合いが違うから、もし隼人に断られたとしても、月子はそれを受け入れる準備はできていた。

それに、彼女は隼人ほど焦っていなかった。

彼女にはその余裕があった。

隼人が自分のことを好きな分だけ、自分も隼人のことを好きだと100%確信できるようになるまで。

彼女はゆっくり時間をかけていくつもりだった。

しかし、月子は予想もしていなかった。隼人から、これほどまでに強い決意の言葉を聞かされるとは。

彼は本当に、あらゆる手を尽くして、彼女と一緒にいようとしていた。

彼はずっと、このことだけを考えていたのだ。

その思いには確固たるものがあった。

少しの迷いもなかった。

隼人の強い決意に、月子は心を揺さぶられた。彼女が気づかないうちに、これほどまでに自分のことを想ってくれている人がいたなんて。しかも、その人は、彼女が憧れ、尊敬する人だったのだ。

まるで、どん底に突き落とされた時、救い手のを差し伸べられたようだった。

この瞬間、彼女が感じた幸福感は、言葉では言い表せないほどだった。

誰だって、強く求められるのは嬉しいものだ。月子もそうだった。興奮が脳を駆け巡り、一瞬、めまいがした。そして、その興奮がピークに達した時、月子は泣きそうになった。

いや、泣きそう、なんてものじゃない。

声を上げて泣きたい、思いっきり泣きたい、そんな気持ちだった。

なぜだろう?この数年、ずっと張り詰めた日々を送ってきたからだろうか?それとも、ただただ、強く求められたことに感動したからだろうか?あるいは、今日、静真に感じた恐
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