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第10話

Author: 妖精魔女
涙が止まらなくなった星音を見て、暁はそっと彼女を抱き寄せ、思わず眉をひそめた。

最近の彼女は、やたらと泣くようになった気がする。出張から帰宅してからの二日間だけで、すでに二度も涙を見ている。

以前の星音は、めったなことでは泣かない性格だった。

月城家の人間たちに殺されそうになったあの時でさえ、目を真っ赤にしながら「ごめんなさい」と繰り返すだけで、決して涙は見せなかったのだ。

暁は彼女の頬を撫で、親指でそっと涙を拭ってやった。

「どうした?まだ悔しいのか?」

麗子に頬を打たれたことをまだ引きずっているのだと思い込み、彼は言った。

「明日、一緒に本邸へ乗り込んで、仕返ししてやろう」

星音は赤く腫れた目で彼を睨みつけた。

「口では何とでも言えるわよね。あなたが手を出してくれるの?それとも私にやれって言うわけ?」

「俺と一緒に、あの家をめちゃくちゃにしてやろう」さすがの彼も、実の母親を殴るわけにはいかない。

「本邸をぶっ壊して、中にあるものを全部叩き割ってやろう。母さんが一番大事にしているジュエリーボックスの場所も知ってる。中身を全部出してやるから、お前が好きなだけぶちまければいい。母さんにとっては命の次に大事な代物だ。どうだ?」

それを横で聞いていた明日香は、「とんでもない親不孝者ね」と内心呆れ返った。

星音は、彼が巧妙に話をすり替えているのを聞いて、深い無力感を覚えた。

莉愛の話をしていたのに、彼はまたしても嫁姑問題に話を逸らしたのだ。

嫁姑関係など、星音にとってはとっくにどうでもよかった。幼い頃から麗子に嫌われていることは百も承知だ。昔は暁のために好かれようと努力したこともあったが、無駄だと悟った。むしろ媚びれば媚びるほど、麗子は彼女を見下してきたのだ。

暁はさらに彼女をご機嫌取りのようにあやし続けた。「もう機嫌を直してくれ。泣くのもやめろ。今日買ったものは全部、俺が払ってやるから」

星音は彼を横目で見やった。

「大したものなんて買ってないわ。お父さんの冬物を少しだけよ」

暁は軽く笑った。

「俺は義父さんにマッサージチェアを注文しておいた。D国から取り寄せた特注品で、今日の午後届いたんだ。明日会いに行く時に、業者に運ばせよう。義父さんの体格に合わせてあるし、頭部のマッサージ機能もついている。リハビリの助けになるはずだ」

その言葉を聞いて、星音の胸の内で渦巻いていた苛立ちが、すーっと和らいでいった。

暁は彼女のことを誰よりも理解し、彼女の弱点がどこにあるのかを正確に把握している。父親こそが、彼女の最大の弱点なのだ。

この数年間、暁は本当に彼女の父親に尽くしてくれた。

最高峰の医師団と、手厚い看護体制。どんなに仕事が忙しくても、暁は毎週必ず半日スケジュールを空けて医師たちと会議を開き、誠の回復状況と今後の治療方針について直接話し合っていた。

先週、N国にいた時でさえ、時差をものともせずオンライン会議に参加してくれたのだ。

主治医が電話越しに、感嘆の声を漏らして伝えてきたほどだ。

「奥様、お父様の治療に関しましては、鷹司様が細部までしっかりと確認してくださっております。どうぞご安心ください。

先ほども、2億円の追加予算を承認していただいたところです。24時間の脳波モニタリングに加え、遺伝子検査や細胞検査の結果をもとに、お父様の状態に合わせて薬の組み合わせと投与量を細かく調整いたします。一般的な処方よりも、さらに精密で高度な治療が可能になるはずです」

その報告を聞いて、星音とて、心が揺さぶられないわけではなかった。

彼女の顔から少しだけ険しさが消えたのを見て、明日香はすかさずとりなした。「ほら星音、今日は暁に送ってもらいなよ。お酒もけっこう飲んだし、帰ってもすぐにお風呂に入っちゃダメだからね」

星音は彼女を見た。

「明日香も、運転気をつけて帰ってね」

「任せといて。家に着いたらLINEするから」

「うん」星音は少し間を置いてから言った。「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」

……

親友と、親友の夫。3人でいる時に世界で最も気まずいのは、親友が席を外し、自分と相手の夫がふたりきりで取り残される時間だ。

明日香は、これほど時間の進みが遅いと感じたことはなかった。大げさではなく、1秒が永遠のように長く感じられる。

彼女は1分の間に3回もトイレの方を振り返り、「星音のやつ、どんだけ長いのよ」と心の中で毒づいた。

とにかく、寒くて凍えそうだったのだ。

店の暖房はしっかりと効いているというのに、目の前に座る暁が放つオーラが、背筋が凍るほど冷え切っているせいだった。

明日香は暁と知り合ってから、ふたりきりで言葉を交わしたことなど数えるほどしかなかった。星音の親友として、彼女の夫との距離感はわきまえているつもりだ。誤解を招かないよう、原則として自分から彼に話しかけることはない。しかし……

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