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第7話

Author: 妖精魔女
和美が帰ったあと、星音は一人、涙を流しながらお昼ご飯を食べた。頬を伝って口に流れ込んだ涙が料理と混ざり、ひどくしょっぱい味がした。

午後、約束していた明日香と会うと、彼女は一目で星音が泣きはらしたことを見抜き、さっと険しい顔つきになった。

「どうしたの?」明日香は血相を変えた。「またあの莉愛が何かしたんでしょ!あんな女のために泣くなんてバカバカしい!どうしても腹の虫が治まらないなら、私が一緒に月城家へ乗り込んで、あのピンクダイヤのネックレスをむしり取ってきてやるわよ!」

赤く腫れた目で、星音はふっと笑った。

「今回はあの子、関係ないわよ」星音は小さく鼻をすすった。「和美さんが辞めちゃうの。あの人のご飯、すごく美味しかったのに、もう食べられないんだなって思ったら、なんだか悲しくなっちゃって……」

明日香は星音をじっと見つめ、胸を痛めた。

彼女の周りには、泣きたくなるほど悲しいことや理不尽なことが山ほどある。

暁の、莉愛への度を越した肩入れ。

鷹司家と月城家から受ける理不尽な扱い。

ここ数年、毎日続く息の詰まるような生活。

そういう本当の絶望にはじっと耐えているのに、家政婦がいなくなるという日常のささやかな変化をきっかけに、彼女の心の堰が切れてしまうのだ。

明日香は星音の向かいに座り、優しく問いかけた。「星音、前に私が紹介したカウンセラーのところ、行ってみた?」

星音は言葉を濁した。「私、病気じゃないもの。お医者さんになんて用はないわ」

「……」明日香は心配そうに彼女を見た。「病気じゃなくても行っていいのよ。例えば、何か嫌なことがあった時とか、誰に話していいか分からない時とか、ただ話を聞いてもらうだけでいいんだから」

「結構よ。お医者さんの顔を見ただけで、どんな病気も逃げていっちゃうから」

星音は頑なだった。

昔から彼女は極端な病院嫌いで、医者に会うことを何よりも恐れていた。注射針を見ただけで、めまいも痛みも吹き飛び、プロボクサーと殴り合えそうなほどの火事場の馬鹿力を発揮するのだ。

明日香はこれ以上言っても無駄だと悟り、話題を変えた。「明日はお父さんに会いに行く日よね?暁も一緒?」

星音は小さく頷きかけ、すぐに首を横に振り、最後には「分からない」と力なく答えた。

以前は毎月、必ず一緒に行ってくれていた。

しかし、そのうちの2回は莉愛を優先してすっぽかされたことがあったのだ。

星音はその時、激しく怒った。暁は「二度としない」と約束したが、今の星音には、彼がその約束を守れるという確信がまったく持てなかった。

明日香は星音が莉愛のことで再び落ち込むのを見たくなくて、あえて明るい声を出した。「それなら、後でお父さんにセーターでも買ってあげようよ。最近寒くなってきたし、お父さん寒がりだったでしょ」

星音が頷き、明日香と一緒にカフェを出たその時だった。正面から歩いてきた男と鉢合わせた。

「星音さん。偶然ですね」歩は穏やかに微笑んだ。

まさかこんな所で歩に会うとは思わず、星音は一瞬驚いたが、すぐに尋ねた。「出張から戻られたんですね」

「はい。昨夜戻って、そのまま鷹司家まで莉愛を迎えに行きました」

星音は心の中で思った。

昨日、暁は莉愛を家まで送らなかったのだろうか?

歩は彼女の胸の内を見透かしたように、こう続けた。「星音さんには、謝らなければならないことがあります」

「何でしょう?」

「あの日、莉愛の健診に付き添ってほしいと暁に頼んだのは僕なんです。星音さんに一言お断りしておくべきでした。誤解させてしまい、そのせいで暁と喧嘩になったと聞きました。本当に申し訳ありません」

歩が深々と頭を下げるものだから、星音はかえって戸惑ってしまった。

彼女が暁と口論になる理由は山ほどあり、彼が莉愛の健診に付き添ったという単純な出来事だけが原因ではないのだ。

本当の原因が何なのか、自分でもうまく説明できなかった。

しばらくして、星音はようやく言葉を紡いだ。

「……お気になさらないでください。ただの痴話喧嘩ですから」

歩は上品に微笑んだ。「そうですか。星音さんが暁に腹を立てていないなら、安心しました」

「ええ。では、私たちはこれで」

「はい。また」

星音が明日香の腕を引いて歩き出すと、明日香は振り返り、歩の遠ざかる背中をじっと見つめた。

長身で細身だが、決してひ弱な印象は与えない。小顔で前髪を下ろしているせいかとても上品な佇まいで、俳優顔負けの整った横顔をしていた。

明日香は前を向き直ると、星音に小声で毒づいた。

「本当に、莉愛にあんな素敵な男を捕まえる運があったなんて。あんな旦那がいながら他人の男に色目を使うなんて、どれだけ強欲なのよ。

それにしても九条さんもすごいわよね。何年も都合のいい男扱いされてきたのに、ついにあいつを嫁にもらって、今でもあんなに心が広いんだから」

歩は星音や莉愛たちと幼なじみだった。九条家は鷹司家や月城家ほどではないにせよ上流階級の名家であり、幼い頃から家同士の付き合いで頻繁に顔を合わせていた。

彼は幼い頃から莉愛が好きで、いつも彼女のあとをついて回っていた。莉愛はそんな歩を鬱陶しがり、「金魚のフン」と呼んで邪険に扱っていた。

それでも歩は怒ることもなく、黙って彼女の後ろをついて歩いていたのだ。

一方の明日香は、高校に入ってから星音と知り合った。星音を通じて莉愛や暁たちとも仲良くなり、歩が莉愛に付きまとっては怒鳴られて追い払われる様子を何度も目にしていた。

当時の明日香は、まさか莉愛が本当に歩と結婚することになるとは夢にも思っていなかった。

明日香はかつて、莉愛に忠告したことがあった。歩は根が真面目だし顔立ちも整っているのだから、あんなに冷たくあしらうのはやめるべきだと。

すると莉愛は、鼻で笑ってこう言い放った。「追い払っても怒鳴りつけても、しつこくまとわりついてくる男なんて鬱陶しいだけじゃない?あいつ、男としてのプライドってもんがないのかしら」

明日香は呆れて言い返した。「それは、あんたのことが好きだからでしょ」

心底好きだからこそ、人はプライドさえも投げ打ってしまうものなのだ。

そういえば、あの頃の明日香と莉愛はそれなりに仲がよかった。ネイティブ教師の英語の授業で、各自イングリッシュネームを決めることになった時、偶然二人とも「シンディ」を選んだのだ。

明日香の方が誕生月が早く、背も高かったため、クラスメイトは明日香を「ビッグ・シンディ」、莉愛を「リトル・シンディ」と呼んで区別するようになった。

莉愛は表向きは何も言わなかったが、陰で他の女子に愚痴をこぼしていた。「どうして私がリトルなのよ?私の方が可愛くてお金持ちなのに、明日香みたいな田舎者がシンディを名乗るなんておこがましいでしょ」と。

ところが、それを聞かされた女子が口を滑らせ、その話はあっという間に明日香の耳に入った。

明日香は激怒して莉愛と大喧嘩になり、星音が慌てて間に入り、莉愛に謝罪するよう説得した。

しかし莉愛は謝るどころか、星音が明日香の肩を持ったと逆ギレし、泣きながら静真のもとへ駆け込んだ。

結局、静真が莉愛を連れて謝罪に訪れ、明日香にお詫びの品まで用意して、「妹を甘やかしすぎた僕の責任だから、どうか許してやってほしい」と深く頭を下げたのだ。

あの時、明日香は星音にこう言った。

「莉愛って、本当に恵まれてるわよね。あんなに大事にしてくれる男が何人もいるんだもの。誰か一人からあそこまで無条件に愛してもらうことさえ難しいのに、莉愛には二人もいる。

そのうちの一人は、あんなに素敵なお兄さんでしょ。本当に、羨んでもどうにもならないわよね」

それから何年も経って、星音はついにこの言葉の残酷な重みを思い知ることになった。

そうだ。

どれだけ羨んでも、どうにもならないのだ。

自分の人生は、いつからこんな風に、永遠に莉愛を見上げ、ただ羨むだけのものになってしまったのだろうか。

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