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第4話

Author: Chloe Laurent
珠莉視点

目覚めると、窓から陽射しが差し込んでいた。隣は、もう空っぽだった。

和也は、いなくなっていた。

私はがばりと身を起こし、シーツを身体に巻きつける。気だるさが全身を覆っていた。

乱れたシーツ、肌に浮かぶ淡い赤み、そして脚のあいだに残るかすかな鈍痛。昨夜の名残は、そこかしこに残っているというのに。

和也はもういない。

私はスマホを手に取る。時刻は午前7時半。父も兄も、もう起きている頃だろう。和也は誰にも気づかれないよう、そっと部屋を出ていったのだろうか。

私は慌ててジーンズとTシャツを身につけた。髪を結ぶ手が、かすかに震えている。これは、どういうことなんだろう。彼はどこへ行ったのか。

忍び足で1階へ降りる。心臓が早鐘を打っていた。

キッチンから話し声が聞こえてくる。父と遼、それに、和也の声だ。

私は思わず廊下で足を止め、耳を澄ませた。

「で、本当に今日発つのか?」

遼が尋ねる。

「ああ。午後2時のフライトだ」

「なあ、全然ゆっくり話せなかったな」

「わかってる。悪いな」

「お前の仕事だ。わかってるさ」

父の声だった。

「誇りに思ってるぞ、和也」

そこで、私は深く息を吸い、キッチンに足を踏み入れる。

3人の顔が一斉にこちらを向いた。父は笑った。遼はうなずいた。和也の表情からは、何の感情も読み取れなかった。

「よう、珠莉」

父が言う。

「何か食べるか?」

「お腹すいてない」

和也の視線が私に向き、すぐに逸らされた。

「大丈夫か?」

遼が尋ねる。

「顔色悪いぞ」

「平気」

私は震える手でコーヒーを注ぐ。

和也の視線を感じた。振り返ると、その目は私を刺し貫くようだった。

「荷造りしてくる」

和也が急に立ち上がって言った。

「朝食、ごちそうさまでした」

「いつでも歓迎だ」

和也はそれ以上何も言わず、私の横を通り過ぎた。目も合わせずに。

まるで、私が見ず知らずの他人であるかのように。

まるで、昨夜のすべてが、何の意味もなかったかのように。

私はその場に凍りついた。コーヒーカップの熱さが、手のひらを焼けつくように刺激した。

「珠莉?」

父の声が、私の思考を遮った。

「本当に大丈夫か?」

「うん。ちょっと疲れてるだけ。よく眠れなかったの」

遼が鼻を鳴らす。

「お前はいつも寝不足だろ。夜中の3時まで絵なんか描いてるから」

私が夜中の3時まで何をしていたか、遼が知ったら――

私は適当にごまかして、2階へ引き返した。廊下に立ち尽くし、和也が泊まっているゲストルームのドアを見つめる。

そっとしておくべきだ。距離を置くべきだ。「一度きり」という彼の言葉を、尊重するべきだ。

でも、できなかった。

私はそっとノックする。

「入れ」

ドアが開いた。彼は服をボストンバッグに押し込んでいた。私を見ようともしない。

「話がしたいの」

私は小さな声で言った。

「いや、その必要はない」

「和也、お願い」

「言っただろう。一度きりだって。それだけだ」

その言葉は、覚悟していた以上に深く私を傷つけた。

「それだけ?何もなかったみたいに、このまま行っちゃうつもり?」

「ああ」

「そんなの、公平じゃない」

彼はようやく私を見た。しかしその目は、とても冷たかった。

「世の中は公平じゃないんだ、珠莉。現実を受け入れろ」

私の目の前が、真っ暗になった。

それでも、彼は荷造りを続けた。

「もう行け。遼かおじさんに見られたら、勘づかれる」

「別にいいよ、私は気にしないわ」

「ふたりは気にする。お前の兄貴は俺の親友だ。おじさんは俺を息子みたいに扱ってくれた。一度お前に手を出したせいで、ふたりを失うわけにはいかない」

「誰も失わないよ。私たちはもう大人でしょ。自分で選べる」

「お前は19歳だ。自分が何を言ってるのかも、まるでわかってない」

「子ども扱いしないで」

「なら、子どもみたいに振る舞うな」

彼の声は険しかった。

「ただ一度、関係を持っただけだ。それだけのことだ。大げさにするな」

こらえる間もなく、私は涙がこぼれた。

彼はそれを見た。顎に力が入る。けれど、言葉を撤回することはなかった。

「もう行かないと」

彼は言った。

「1時間後に遼が空港まで送ってくれる」

「……今度、いつ会えるの?」

「もう会うことはない」

「え?」

「これ以上、こんなことがあってはいけない。昨夜は間違いだった。大きな間違いだ。全部、忘れてくれ」

「どうやって忘れろっていうの」

「知らない。でも、お前ならできる。学校に戻って、同い年のいい男に出会って、前に進むんだ」

「前になんて進みたくない」

「残念だな」

彼はバッグを閉じ、肩にかけた。それからドアへ――私のほうへと歩いてくる。

私は動かなかった。行く手を塞ぐように立っていた。

「お願い、こんなふうに終わらせないで」小さな声で言った。

「どけ、珠莉」

「嫌」

彼の目に、何かがよぎった。痛みだろうか。後悔だろうか。けれど、それも一瞬で消えた。

「お前が欲しいわけじゃない」

彼ははっきりと言った。

「昨夜は間違いだった。お前がたまたま近くにいて、俺は出発前に発散したかっただけだ。それだけのことだ」

その言葉は、想像していたよりもずっと深く突き刺さった。

「嘘つき」

「嘘なんかついてない」

「完璧だって言ったじゃない。私といると最高の気分になるって」

「そういう最中は、いろんなことを言うものだ。全部が本当とは限らない」

私は彼の頬を叩いた。

平手打ちの音が、狭い部屋に響いた。手のひらが熱く痛んだ。

それでも、彼の顔はほとんど動かなかった。

彼は、冷たく凪いだ目で私を見た。

「これで気が済んだか?」

「ううん」

「そうか。じゃあ、どけ」

私は身を引いた。彼が私の横を通り過ぎていく。

ドアのところで、彼は足を止めた。

「これだけは言っておく」

振り返らずに、彼は言った。

「お前には、俺よりずっといい男がふさわしい」

そして、彼は消えた。

私はがらんとしたゲストルームに取り残され、その場で泣き崩れた。

1時間後、玄関のドアが閉まる音がした。遼の車のエンジン音が聞こえた。ふたりが出ていく気配がした。

私は、見送りに降りなかった。

……

2週間後、私は震える手の中にある妊娠検査薬を見つめていた。

陽性だ。

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