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第4話

Penulis:
直哉のマンションで、私はそのまま暮らすことになった。

それからの一週間、恒一からの連絡は一切なかった。

まるで、私という存在が、最初から彼の世界になかったかのように。

……それでいい。

直哉は、毎日顔を出した。

美味しいものを差し入れてくれたり、どうでもいい話をしたり、気分転換だと言って、外へ連れ出してくれたり。

彼の手配で、私は正式に彼の会社へ入社し、チーフデザイナーとして働き始めた。

「この日を、ずっと待ってた」

そう言って向けられた視線が、あまりに真っ直ぐで、私は少しだけ居心地の悪さを覚える。

視線を逸らし、窓の外を見た。

「……期待に応えられるよう、ちゃんとやる」

「信じてるよ」

昼時、社員食堂に入ったときだった。

直哉は自分で配膳口に並び、私の分までトレーを受け取る。

周囲が、一斉にざわついた。

遠慮のない視線が、あちこちから突き刺さってくる。

私は思わず声を落とした。

「藤堂さん……こういうの、あまり良くないんじゃ……」

「何が?」彼は気にも留めず、軽く笑う。

「知里は、うちのチーフデザイナーだ。それに……大切な、友人でもある」

そのとき、食堂のテレビに速報が割り込んだ。

経済ニュースだった。

【神谷グループ、中核技術の情報流出により主要プロジェクトが中断。株価は急落……】

画面には、記者に囲まれた恒一の姿が映し出されている。

頬はこけ、かつての余裕は、影も形もなかった。

箸を持つ手が、止まる。

中核技術の流出。

あの技術は、私が何度も徹夜して完成させたものだ。

彼に渡した、いわば「持参金」だった。

私は箸を置き、それ以上、食べる気になれなかった。

直哉が何も言わずにリモコンを取り、テレビを消す。

「見なくていい。

知里のせいじゃない」

私は小さく頷いた。それでも、胸の奥に引っかかるものが残る。

午後、一本の電話がかかってきた。相手は、静子だった。

「知里!このくそ女!

会社の機密を売ったんでしょ!

恒一をあそこまで追い詰めて、まだ足りないっていうの!?

いい?恒一が破産でもしたら、私は、死んでもあんたを許さないから!」

最後まで聞かず、私は通話を切った。

胸の奥が、重く塞がる。

仕事を終え、直哉が車で送ってくれた。

マンションの前で、見覚えのある姿が目に入る。恒一だった。

彼は車にもたれ、煙草を吸っている。足元には、吸い殻がいくつも転がっていた。

一目で分かるほど、疲れが顔に出ている。

私と直哉が並んで車を降りるのを見ると、彼の目が、さっと赤くなった。

駆け寄ってきて、私の腕を乱暴に掴む。

「もう次かよ。ずいぶん早いな」

そして直哉を指さし、怒鳴る。

「こいつのために、俺の会社を潰したのか?」

直哉が一歩前に出て、私を背中に庇った。

「神谷さん、発言には、気をつけてください。

彼女は、うちの社員です」

「社員?」恒一が鼻で笑う。「ベッドまで一緒の、そういう社員か?」

下劣な言葉だった。

直哉の表情が、すっと硬くなる。

「それ以上言うなら、こっちも黙っていないぞ」

「図星を突かれて、怒ったか?」

恒一は、私だけを睨みつける。

「知里……本当に、見損なった。

いつからだ。いつから、あいつと出来てた?」

信じられなかった。

かつて、愛していると言い、信じると言った男が。こんな目で、私を見るなんて。

「神谷恒一……あなたは最低よ!」

「最低?」彼は私の手首を掴み、引き寄せる。

「浮気して、男を乗り換えた女が言う台詞か?」

彼は顔を近づけ、私の耳元で囁く。

「そうだ、言い忘れてた。澪の腎臓、見つかった。

優花が、あちこちに頭を下げて、海外から手配したんだよ。手術も成功したし、医者も、もう大丈夫だって言ってる。

俺たち家族は、みんな優花に感謝してる。来月、俺は彼女と婚約するさ」

私は、彼の顔を見つめたまま、笑った。

「そう?それは、良かったじゃない。

おめでとう。末永くお幸せに。子どもにも、恵まれるといいわね」

そう言って、私は力いっぱい腕を振りほどく。

そして、自分から直哉の腕に手を絡めた。

「直哉。帰ろう」

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