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第84話:待ってた

Author: Sunny
last update publish date: 2026-06-01 21:36:08

金曜日の夜、時計の針が二十一時を少し回った頃。

あひるの支社のフロアには、もうほとんど人が残っていなかった。

昼間は絶えず誰かの声がしていたオフィスも、今は空調の低い音だけが静かに響いている。

遠くの席で誰かが椅子を引く音がして、それもすぐに消えた。

私は、ぼんやりとPC画面を見つめたまま、小さく息を吐いた。

画面に映る数字。

何度見ても、胸の奥が少し重くなる。

ミスをした。

致命的ではない。提出前だったし、浅井さんが最終確認で止めてくれたから。

先方に影響も出ていない。誰にも責められていない。

むしろ浅井さんは、驚くほどあっさりしていた。

「次、気をつければいい」

それだけだった。

声も変わらなかった。責める空気なんて、ひとつもなかった。

なのに、私の中だけが、うまく切り替えられない。

まただ、と思った。

昔からそうだった。

頑張るほど、失敗が怖くなる。期待されるほど、崩れた時の音が大きくなる。

婚約だって、そうだった。

ちゃんとやってきたつもりだった。尽くして、支えて、未来のために頑張ってきたつもりだった。

それなのに、最後には全部なくなった。

“ちゃんとしていれば大丈夫”

そう
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