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第34話:最初の線

Author: Sunny
last update publish date: 2026-08-05 06:27:53

「無理であれば、ほかの方にお願いしましょうか」

担当者がそう提案すると、エマはほとんど間を置かなかった。

「はいぜひ、そうしてください」

穏やかな返事だった。

けれど、その声には隠しきれない安堵が混じっていた。

机の上には、複数のメーカーから取り寄せたチョークが並んでいる。

太さや硬さ、発色、粉の飛び方を確かめるため、黒板へある程度の面積を描く必要があった。

題材は何でもいい。

描き終えれば、すぐに水で消す。

写真も画材検証の記録として数枚残すだけで、作品として公表する予定はない。

それでもエマは、自分の手で描くことだけは避けたがっていた。

「では、事務局のデザイナーに——」

「すぐに消しますので」

玲の声が、担当者の言葉へ重なった。

周囲にいた人々が、一斉に玲を見る。

玲自身も、口を挟んでから、自分が何をしたのかに気づいた。

エマが描く姿を見たい。

その欲求が、考えるより先に言葉になっていた。

「発色を確認するための試し書きですよね」

玲はエマを見た。

「一度、描いてみていただけませんか」

声は静かだった。

命じたつもりはない。

それでも、神崎財団はこの企画の主要な出資者だ。

玲の
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