Short
冬に囚われた秋海棠

冬に囚われた秋海棠

By:  大食いかぐや姫Completed
Language: Japanese
goodnovel4goodnovel
9Chapters
7.4Kviews
Read
Add to library

Share:  

Report
Overview
Catalog
SCAN CODE TO READ ON APP

結婚式の三日前、古い荷物を整理していた私は、十年前に神崎湊(かんざき みなと)と一緒に埋めたタイムカプセルのことを思い出した。 彼はそれを聞くと表情を強張らせ、「もう行くのはやめよう」と私を止めた。 「もう随分前のことだし、誰かに掘り返されてるよ」 私は気にせず、一人で母校へと向かった。 しかし、埋めたはずの場所から出てきたのは、大小さまざまな五つのタイムカプセルだった。 二つは私と湊が十年前に埋めたもので、すでに錆びついている。 余計な三つのうち、一つは同じように錆びていて、残りの二つはまだ真新しい。 古い方には、小野寺結衣(おのでら ゆい)の名前が刻まれていた。 そこにはこう書かれていた。 【私の片思いは、一人きりの嵐だった。湊、幸せになってね】 思い出した。彼女は私たちの後ろの席に座っていた、あまり目立たない女子生徒だ。 そして、二つの新しいのには、それぞれ湊と結衣の名前が刻まれている。 埋められた日付は、まさに今日だった。 湊のタイムカプセルにはこうある。 【俺の人生最大の後悔は、お前に結婚式を挙げてやれないことだ】 結衣のタイムカプセルにはこう書かれていた。 【私の人生最大の後悔は、堂々とあなたに『結婚おめでとう』と言えないこと】

View More

Chapter 1

第1話

結婚式の三日前、古い荷物を整理していた私は、十年前に神崎湊(かんざき みなと)と一緒に埋めたタイムカプセルのことを思い出した。

彼はそれを聞くと表情を強張らせ、「もう行くのはやめよう」と私を止めた。

「もう随分前のことだし、誰かに掘り返されてるよ」

私は気にせず、一人で母校へと向かった。

しかし、埋めたはずの場所から出てきたのは、大小さまざまな五つのタイムカプセルだった。

二つは私と湊が十年前に埋めたもので、すでに錆びついている。

余計な三つのうち、一つは同じように錆びていて、残りの二つはまだ真新しい。

古い方には、小野寺結衣(おのでら ゆい)の名前が刻まれていた。

そこにはこう書かれていた。

【私の片思いは、一人きりの嵐だった。湊、幸せになってね】

思い出した。彼女は私たちの後ろの席に座っていた、あまり目立たない女子生徒だ。

そして、二つの新しいのには、それぞれ湊と結衣の名前が刻まれている。

埋められた日付は、まさに今日だった。

湊のタイムカプセルにはこうある。

【俺の人生最大の後悔は、お前に結婚式を挙げてやれないことだ】

結衣のタイムカプセルにはこう書かれていた。

【私の人生最大の後悔は、堂々とあなたに『結婚おめでとう』と言えないこと】

……

私は十年変わらない桜の古木の下に立ち、冷たい五つのタイムカプセルを手に持っていた。

自分が徹頭徹尾、滑稽なピエロのように思えた。

風が吹き抜け、枯れ葉を巻き上げると同時に、私の全身を冷やしていく。

私の知らない片隅で、別の女の「嵐」が吹き荒れていたなんて。

そして、私の婚約者が決して口にしなかった後悔。

最大の後悔は、彼女に結婚式を挙げてやれないこと。

じゃあ、私は?

明後日の私たちの結婚式は、一体何なの?

大掛かりな嘘?それとも、別の女への愛の償い?

私は自分のものではない三つのタイムカプセルを埋め戻し、私と湊の二つだけを持って帰った。

家に帰った頃には、すっかり日が暮れていた。

リビングの明かりがついており、ソファに座っていた湊は、私が入ってくるなり立ち上がった。

「遅かったね、どこに行ってたんだ?」

私は靴を脱ぎながら、平静を装って答えた。

「母校に行ってきたの」

「中学へ?」

彼は一瞬慌てたが、すぐに落ち着きを取り繕った。

「どうしてまた?声をかけてくれれば一緒に行ったのに」

「なんでもないわ。ちょうど近くを通ったから、先生に会いに行っただけ」

彼は明らかに安堵し、後ろから私を抱きしめた。

顎を私の肩に乗せ、水のように優しい声で囁く。

「驚かせないでくれよ。逃げ出したのかと思った。明後日は結婚式なんだ、もう勝手に出歩かないでくれ」

私は彼に抱かれるがままにしていた。

沈黙が空気に広がり、息が詰まるようだ。

しばらくして、私は小声で彼に尋ねた。

「湊、本当に私と結婚したいの?」

彼の体が強張ったが、すぐに腕の力を強めた。

「当たり前だろ。俺たち十年も一緒にいるんだ、結婚以外に何がある?

澪、変なこと考えすぎだよ」

そう、十年だ。

けれど私、西園寺澪(さいおんじ みお)の脳裏には、制御できないほど鮮明にあのタイムカプセルの文字が浮かび上がってくる。

【俺の人生最大の後悔は、お前に結婚式を挙げてやれないことだ】

彼は私を離すと、楽しそうに明日のリハーサルの細部について話し始めた。

牧師が誓いの言葉を述べる真似をする。

「貧しき時も、富める時も……」

「西園寺澪を妻とし……」

「……に嫁ぎ」

その言葉が、針のように私の心に突き刺さる。

「このブーケ、気に入った?それとも白バラがいい?」

彼はスマホを掲げ、期待に満ちた目で私を見ていた。

正体不明の怒りが底から湧き上がり、私の理性を焼き尽くした。

「なんでもいいわ」

私は顔を背け、冷たく言い放った。

「好きにすればいい、私にはどうでもいいことだから」

湊の笑顔が凍りついた。

「澪、どういう意味だ?どうでもいいって。俺たちの結婚式だぞ!」

「私たちの?」

私は冷笑し、思わず彼を振り返った。

「本当に、私たちのものなの?」

彼は問い詰められて一瞬呆然としたが、すぐに眉をひそめた。

「今日一体どうしたんだ?帰ってきてからずっと嫌味っぽいぞ。

俺が二人の結婚式のために駆け回ってるのに、その態度はなんだ?」

「私の態度?」

胸のつかえがひどくなるのを感じた。

「じゃああなたは?あなたの態度は……」

私は言葉を飲み込んだ。危うく全てをぶちまけるところだった。今言えば後悔する。

湊は目を赤くし、私に怒鳴った。

「俺の態度がどうした!俺はずっと結婚式のために尽くしてきただろ!

澪、頭おかしいんじゃないか?結婚したくないならやめちまえ!」

彼は背を向け、ドアを叩きつけるようにして出て行った。その衝撃で部屋全体が揺れたようだった。

私は一人、がらんとしたリビングに立ち尽くし、いきなり涙がこぼれ落ちた。

Expand
Next Chapter
Download

Latest chapter

More Chapters

reviews

eurynome.v.j.3618
eurynome.v.j.3618
友達2人と主人公、それぞれの幸せを掴んでよかったね しょうもない浮気男をよそにこの先も羽ばたいていってほしい
2025-12-17 13:40:58
0
0
ノンスケ
ノンスケ
そんな身近なところで浮気してればバレるって。二兎を追うもの一兎も得ずってことだね。
2025-12-16 21:14:49
2
0
松坂 美枝
松坂 美枝
結婚式前日に浮気は… アフォなタイムカプセルなんぞを一緒に入れたりバレたかったんじゃないのと言いたくなるわ せっかくの金づるを自分で手放して目も当てられない 主人公は眩しく輝いてった
2025-12-16 10:27:35
3
0
9 Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status