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6話. 鷹城家の会食、危険な視線

Auteur: YuIm
last update Date de publication: 2026-10-05 00:10:17

障子の向こうに、佐伯の影が細長く伸びる。

綾香の心臓が跳ねた。

寝台の上には緩めた着物が重なり、背にはまだ灸の温もりが残っている。

呼吸が近い。

危うい距離だった。

遼真は取り乱すことなく、綾香の耳元へ囁いた。

「大丈夫です。扉はこちらで対応します」

そして障子へ向け、凛とした声を出す。

「治療中です。患者さんの衣服も整っていません。プライバシー保護のため、扉は開けられません。終わり次第、母屋へお送りします」

外で佐伯が一瞬言葉を詰まらせた。

「か、かしこまりました。白石先生。では、お支度が整い次第お願いいたします」

足音が遠ざかる。

完全に気配が消えると、遼真は綾香から少し離れた。

それから、確かめるように綾香を見た。

綾香が先に彼の袖を掴んだ。

次の瞬間、唇が重なった。

障子一枚向こうに人の気配があった緊張が、そのまま熱へ変わってしまったようだった。

***

午後七時。

鷹城家本邸、大広間。

豪華な懐石料理が並ぶ大きな食卓には、鷹城家当主、鷹城美津子、司、そして専属医という立場で末席に座る遼真がいた。

酒を立て続けに飲んでいた司が、向かいの綾香を舐めるように見る。

「白石に灸でも据えてもらったら、木偶みたいだった顔に色気が出たじゃねえか。まあ、子供も産めない空っぽの女なのは変わらないけどな」

親族たちが小さく笑う。

司は綾香の手首を掴み、強く捻った。

「今夜くらいベッドで役に立てよ。外で金使うのも飽きたんだ」

以前の綾香なら、俯いて震えるだけだった。

だが今日は違う。

綾香は冷たい目でその手を払いのけた。

「私の身体を心配する前に、ご自分の検査結果を確認したらどうですか。肝機能も酷いでしょう。人を責めていられる状態じゃないはずです」

一瞬で食卓が静まり返った。

美津子の顔が歪む。

司が怒鳴ろうとした、その時。

さらり――。

テーブルクロスの下で、遼真の足先が綾香の足首に触れた。

白い足袋越しの、ほんの短い接触。

それは淫靡な合図というより、

――一人じゃない。

そう伝えるための合図のように感じられた。

綾香がわずかに彼の足へ触れ返す。

遼真は何事もなかったように茶を飲んでいる。

だが目が合うと、その視線だけがいつもより長く留まった。

会食が終わったあと。

暗い廊下で、遼真が綾香を柱の陰へ引いた。

薬草の香りと体温が近づく。

「明日の夜、西麻布のタワーレジデンスで薬物使用があるという通報が入っています。捜査班も動きます。奥様は、提出できる資料だけ準備してください」

その時、廊下の向こうから司の酔った足音が聞こえ始めた。

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