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第7話

Author: 詩音
「そうだ、美月は木島(きしま)社長と取引の話を進めてる。彼は、女を一人一ヶ月そばに置いてくれれば、一千億円を追加出資すると言っている」

和也は一拍置き、言葉を継いだ。「これは美月が初めて担当する案件なんだ。大事な仕事だろ?お前は義姉なんだから、少しくらい力を貸してやってもいいだろ」

雨子の呼吸が一瞬で止まり、血が凍りつくような感覚に襲われた。

木島社長がどんな人物か、彼女は知っていた。脂ぎった顔とだらしない体つき、悪名高く、何人もの愛人たちが不可解な死を遂げたと噂される男だ。

女を痛めつけることを楽しむ、救いようのない変態だ!

雨子の瞳孔が激しく縮み、信じられないというように和也を見つめた。声が震えて止まらない。

「和也……あなた、本当に人間なの!?」

和也は彼女の手を握り、なだめようとしたが、その声には一切の余地がなかった。

「雨子、美月は俺の妹だ。兄として助けないわけにはいかないんだ。

お前が木島社長の相手をひと月だけしてくれれば、それ以降は美月が家に来る回数を減らす。二度と俺たちの邪魔はさせないと保証する」

「だから何!?」

雨子は勢いよく彼の手を振りほどき、崩れ落ちるように叫んだ。

「つまりあなたは、自分の妻をまるで商品のように差し出して、妹のために便宜を図ろうっていうの!?

和也、いったい彼女があなたの妻なの?それとも私が妻なの!?」

美月はその言葉に驚いたように目を丸くし、おずおずと和也の袖を引いた。

「お兄ちゃん、私……何か悪いことしちゃったの?それなら……それなら私が……」

「お前のせいじゃない」

和也は彼女の言葉を遮った。

口にすることさえ、彼は絶対に許さなかったのだ。

雨子を見つめるその目は、すでに冷たく、強い決意を帯びていた。

「この件は話し合いの余地はない。嫌でも行ってもらう」

彼女は、彼がただ自分を愛していないだけだと思っていた。まさか、ここまで冷酷だとは思わなかった。

「出ていって!」

雨子は完全に取り乱し、手に届くものを片っ端から掴んで二人に投げつけた。

そして和也に飛びかかって叩こうとしたが、美月にぐいっと押し倒されてしまった。

美月は見下ろしながら、冷たい目で言い放った。

「雨子さん、少し落ち着いてください。明日、迎えの者を寄こすから」

和也は前に出て彼女を抱き起こした。手首の数珠には、雨子の血が一滴、赤く滲んでいた。

「安心しろ。一か月後、俺が迎えに行く。お前は以前と同様に俺の妻だ」

冷たい顔の仏道修行者――情など一片もない。

慈悲だの無欲だの、そんなものは全部くだらない。

全ては彼の慈悲の仮面に過ぎなかった。その仏のような顔の下には、とっくに腐りきった心が潜んでいた。

雨子は懇願するような目つきで彼を見つめ、その手を取ろうとした。

だが和也は美月の手を取ったまま、振り返りもせず立ち去った。

あまりに速く、その衣の裾さえ掴むことができなかった。

「和也!やめて……私にそんなことするのやめて!」

ドンッ!

雨子は部屋に閉じ込められた。

細い鎖が足首を縛り、ベッドの柱に固定されていた。動けるのは、ベッドの周りほんの数歩だけの範囲だ。

彼女はあらゆる方法を試したが、鎖はびくともしなかった。

絶望がじわじわと、頭から足先まで彼女を包み込んでいった。

夜の帳が降りるころ、再び扉が開いた。

入ってきたのは、美月ひとりだけだった。

彼女は精巧なドレスに着替え、完璧なメイクを施していた。

「兄ちゃんは仏堂で経を読んでるから、見送りには来ないわ」

美月の声は軽やかで、まるですぐそこにある普通の旅に向かうかのようだった。

「雨子さん、言ったでしょ。私を怒らせないでって」

雨子にはもう抵抗する力も残っていない。

美月のボディーガードに乱暴に手足を縛られ、車の中へ押し込まれた。

車は郊外の人目につかない別荘へと入っていった。

彼女はそこから引きずり出され、いやらしく飾られた、目を覆いたくなるようなラブホテルのようなスイートルームへと放り込まれた。

濃厚なアロマの匂いが鼻を突き、吐き気を催すほどだった。

逃げようとしたが、手足を縛られて身動きひとつ取れなかった。

ドアが押し開けられ、太った人影が無理やり中へと入り込んでくる。

木島が細めた目で雨子の体をねっとりと舐めるように見回し、黄ばんだ歯をむき出しにして笑った。

美月はドアの前に立ち、艶やかに微笑む。「木島社長、うちの義姉はまだ童貞なんですよ。思う存分どうぞ」

「秦野社長は太っ腹だな。自分の妻まで差し出すとは。品物を確かめたら契約書にサインする」

美月は満足げに笑い、「ごゆっくり」と言って、そっとドアを閉めた。

木島の笑みがさらに嫌らしく歪み、彼は一歩、また一歩と近づいてきた。

雨子は恐怖に震えながら後ずさり、背中が冷たい壁にぶつかるまで逃げ場を失った。

「怖がるなよ、俺が気持ちよくしてやるからな」

木島はズボンを脱ぎながら、勢いよく飛びかかった。

生き延びようとする本能が爆発し、雨子は全身の力を振り絞って横へ転がる。

ドンッ!

木島の太った体が、彫刻の施された堅いテーブルの角に激しくぶつかり、苦痛に顔を歪めた。

「このアマ!逃げるつもりか!?」

激怒した彼は立ち上がり、雨子の髪を乱暴に掴み上げる。

ベルトを引き抜き、そのまま彼女の顔を何度も打ちつけた。口角が裂け、鮮血が滴り落ちる。

彼はむしり取るように彼女の服を引きちぎった。布が裂ける鈍い音が、静かな室内に鋭く響いた。

混乱の中、雨子は必死に膝を立て、最後の力を振り絞って男の急所へ膝蹴りを喰らわせた。その反動を利用し、今度は足を振り上げ、分厚い胸板を強く蹴り上げた。

「ぐあっ!」

木島は悲鳴を上げ、胸を押さえて目を見開いたまま、体をふらつかせて、そのまま意識を失って倒れ込んだ。

全身の激痛も、むしろ裸同然の姿も顧みず、雨子は体に巻き付いた縄をもがくように解き放つと、よろめく足取りで部屋から飛び出した。

別荘の中は人影ひとつない。あの獣のような男は、事を済ませるためにメイドたちをすでに追い出していたのだろう。

半裸のまま彼女は走り続けた。素足の裏は既に擦り切れ、道に血の筋が細く延びていた。

それでも止まれない。止まった瞬間、そこは地獄になる。

その時、彼女は今夜ここで命を落とすかと思った。次の瞬間、別荘の正門の外から二筋のヘッドライトが差し込んできた。

雨子は最後の力を振り絞り、大通りの真ん中へ飛び出した。両腕を広げ、何もかも捨てて車の前に立ちはだかった。

タイヤがキーッと地面を擦り、車体が彼女の目前わずか半メートルで、悲鳴をあげるように急停止した。

ライトに照らされながら、雨子はゆっくりと目を閉じた。血と涙が入り混じった顔が、淡い光の中で静かに震えていた。彼女は極限まで疲れ果て、意識が遠のいていった。

もしも――もしも今夜、生きてこの場を抜け出せたなら、和也と美月を決して赦さない、と彼女は心に固く誓った。
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