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第85話

Author: 小円満
ある日、私は押し入れの中から自分で出てきて、そっと彼の服の裾を引き、掌にのせた今にも溶けそうなチョコレートを差し出した。

彼は嬉しそうにそれを口に入れ、「今まで食べた中で一番うまいチョコだ」と笑った。

風がレースの網戸をすり抜け、部屋中の風鈴を揺らす。一つひとつの風鈴には、私が書いた願いが結びつけられている。

その願いは子どもの頃からずっと、時生が自分の手で吊るしてくれたものだった。そして彼は、最後の一つを除いてすべて叶えてくれた――

最後の風鈴に託した願いは、「時生と一生幸せに暮らしたい」というものだった。

胸の奥に鋭い痛みが走る。

かつて「守る」と誓ってくれた少年は、もう時の流れに呑まれて死んでしまった。残されたのは、すっかり面影を失った歪んだ男――あれはいったい誰なのだろう。

そのとき、奈央が私の手を取って、静かに言った。「昭乃、夫婦生活はきれいごとだけじゃ済まないのよ。私だってお父さんと長い年月を一緒に過ごしてきたけれど、積もり積もった不満は山ほどあるわ。女はね、時には目をつぶることも必要なの」

私は黙っていた。奈央は続けた。「大事なのは、時生の妻という立場を守
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