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第 7 話

作者: 柏璇
本来ならこういう場には必ず彩乃を同伴させていた。

今回は真理が「久しぶりに華やかな席に出たい」と言ったこと、そして彼女の境遇を思うと断れなかった。加えて、彼女は確かに語学が堪能だった。

「蒼司、帰ったら彩乃に私から説明するわ。ごめんなさい、ちょっと昔のことを引きずっちゃって」

真理がうつむき、寂しげに息を吐く。

昔を引きずる?

その言葉が、これが本来は真理の場所だったことを蒼司に思い出させる。

誰も悪くない。

幼い頃から共に育ち、可愛い子どもを二人も産んでくれた彼女だ。

多少埋め合わせをしても、彩乃ならきっと理解してくれるはず……

「泣くな、化粧が崩れる」

「やっぱり蒼司は優しいわ」真理は笑っ
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