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12.*食欲よりも強く②

Author: 鷹槻れん
last update Huling Na-update: 2025-11-08 03:18:18

私のためになおちゃんが新しく取ってくれた部屋は、同じホテル内でも階が違うから、なおちゃんが私の部屋を訪ねても、居残り組の人たちと鉢合わせる可能性は低いみたい。

エレベーターなどで一緒になる危険性もないわけじゃいけれど、幸い残った面々は他部署の人ばかり。

かつて束の間市役所にいた私の顔を知らない人たちだから、出会ったとしても何とかなるだろって言われて。

なおちゃんの、そういう物怖ものおじしない、どこか堂々とした言動の端々に〝浮気慣れ〟の様なものを感じて、私はふと切なくなるの。

だけど、そんな私だって奥様やお子さんからしたら〝浮気相手〟以外の何ものでもないから。

こんな風に妬きもちを妬く資格すら、きっとないんだと思う。

***

菜乃香なのか?」

いつの間にか部屋に着いていたみたいで、なおちゃんがフロントで受け取ったカードキーで部屋の扉を開錠して、怪訝けげんそうな様子で私を振り返る。

「あっ、ご、ごめんなさいっ」

考え事をしていたせいで、気付かないうちになおちゃんから数歩分遅れを取ってしまっていた私は、急いで彼の横に並んで。

なおちゃんにそっと背中を押される様にして部屋に入った。

それと同時――。

荷物を床に置いたなおちゃんに、我慢できないみたいにギュッと抱きしめられた。

まだ背後の扉が閉まり切っていないのに、ってドキドキする気持ちを掻き消すみたいに、なおちゃんが私に深く口付けてくる。

「あ、んっ、……な、おちゃ――」

なおちゃんの腕にギュッとしがみつくようにして、私は懸命に自分の身体を支えながら彼のキスに応えて。

「ねぇお願い。部屋に入ったばっかで悪いけど……先に菜乃香なのかを補充させて?」

唇を離すと同時、甘く切ない声音で耳元にそうささやかれた私は、小さくコクンと頷いた。

仕事から帰宅してすぐ、シャワーを浴びて着替えたのは、私自身彼と再会したらすぐ、こういうことになるかも?って期待していたんだと思う。

私となおちゃんは、どこまでも身体と身体で繋がった関係なのだと。

下腹部にくすぶりはじめた身を焦がすような熱におぼれながら、嫌と言うほど実感させられる。

私は、彼を誘うように情欲に潤んだ瞳でなおちゃんを見上げた。

「ピアス、外さないとな」
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