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102:見えない敵

last update Dernière mise à jour: 2026-01-11 19:08:37

「待て、小夜子。お祓いなどする必要はない。そんな非科学的なことよりも、これを見ろ」

 隼人は勝ち誇ったように、携帯型の空気質測定器を小夜子の目の前に突きつけた。液晶画面には緑色のランプが点灯し、全ての数値は安全圏を示している。

「見ろ。総揮発性有機化合物もホルムアルデヒドも、基準値を大幅に下回っている。PM2.5に至ってはゼロに近い。測定できるあらゆる数値が、ここを安全だと示している」

 彼は測定器を振ってみせた。

「お前の言う『敵』など、どこにもいない。まして幽靈など存在するはずがない。鼻が過敏になっているだけじゃないのか?」

 小夜子はその数値を全く相手にしなかった。

 隼人に測定機を突きつけられても、軽く首を振るだけである。

(機械は嘘をつかない。けれど、機械は設計された『基準』の中でしか答えを出さない)

 人間の感覚はもっと複雑で、繊細だ。

 小夜子は無言のまま、部屋の四隅へと歩み寄った。空気は循環して重い成分は下に溜まる。そして風の流れによって、部屋の隅へと吹き寄せられる。

 彼女は膝をつき、カーペットの隅を指先でそっとなぞった。

(……やはり)

 指の腹に、わずかにねっとりとした感触が残る。ただのホコリではない。何かの成分が濃縮され、膜を張っているような不快な粘り気だ。

 次に、窓際に掛かる真新しい遮光カーテンの裾を持ち上げた。生地に鼻を近づけて、短く息を吸い込む。

 ツン、と鼻の奥を刺す刺激。

 新品のカーテン特有の糊(のり)の匂いに混じって、甘ったるい何かが潜んでいる。

「何をしている。お前がそこまでする必要はないだろうに」

 隼人が呆れた声を出すが、小夜子は止まらない。

 彼女はデスクの椅子を引き寄せると、軽やかにその上に立った。視線の先にあるのはエアコンだ。

 隼人が慌てて支えようとするが、小夜子は手で制した。

「おい! 危ないぞ」

「失礼いたします」

 小夜子はスマートフォンのライトを点灯させて、エアコンの吹き出し口の奥を照らした。背伸

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