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88:止まらない没落

last update Dernière mise à jour: 2026-01-04 18:06:08

 白河家の屋敷は淀んだ空気に満ちていた。かつて栄華を極めた居間にはもはや異臭が漂っている。花瓶の水は取り替えられずに放置され、カサブランカの花は茶色く干からびていた。

 だが、住人たちは花の世話どころではないらしい。

「嘘よ! こんなの、絶対に嘘よ!」

 義姉の麗華が、金切り声を上げて雑誌を床に叩きつけた。表紙には『冷徹社長の溺愛』という文字が踊っている。

「『愛のメンテナンス』ですって? 『上書きキス』? 気持ち悪い! あの地味で暗い小夜子が、こんな……こんな!」

 麗華はヒステリックに足を踏み鳴らした。その拍子に、脱ぎ捨てられていたブランド服の山が雪崩を起こす。

 義母の緑も目を血走らせて爪を噛んでいた。

「騙されたわ……! あの男、『女になど興味はない』と言っていたくせに! 小夜子を道具として買い叩いておきながら、裏ではこんなに甘やかしていたなんて!」

「そうだ、これは詐欺だぞ!」

 父の清次郎が、酒の匂いをさせながら唸った。

「あいつがいなくなってから、旅館の予約管理がめちゃくちゃだ。ダブルブッキングのクレーム処理で、私の胃に穴が開きそうだぞ!」

 彼らは自分たちの無能さを棚に上げて、すべての元凶を「小夜子の不在」と「黒崎隼人の嘘」に求めた。

 小夜子という便利な歯車を失ったせいで、取り返しのつかないレベルで崩壊しているのだ。

「行きましょう、お母様!」

 麗華が立ち上がった。

「小夜子を連れ戻すのよ。あの子は私たちの家政婦……いいえ、家族なのよ? こんな成金男に騙されているなんて可哀想だわ!」

「ええ、そうね。ついでに慰謝料も請求しましょう。私たちを騙した罪は重いもの」

 緑がギラリと目を光らせた。彼らの思考回路において自分たちは常に「被害者」である。世界は自分たちのために回っているべきものだと信じて疑わないのだ。

 アーク・リゾーツ本社、一階ロビー。洗練された大理石の空間に、下品な怒声が響
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