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第4話

Auteur: キョウキョウ
意識がぼんやりとしていく。今日は目覚めて二日目だったが、澪はまだ嗄れた声のまま、一言も口をきかなかった。

琴音は、まるで理不尽な仕打ちを受けたかのように目を赤くし、もじもじと立っていた。

「ご……ごめんなさい!」

「でも、最初にいじめてきたのはあなたのほうよ!」

涼介が琴音の背後に立ち、口を開いた。

「今回のことは、琴音にも分別が足りなかった」

それでも澪は無反応で、呼吸さえ浅くなっていた。

「琴音は若くて血の気が多いから、多少の過ちは仕方ない。家は離婚協議の中でお前に譲渡する」

澪はベッドに座ったまま、虚ろな目で泣き笑いを浮かべ、手に届くものを次々と叩きつけた。かすれた声で叫ぶ。

「出て行って!出て行け!」

涼介は無理に抑えつけようとはせず、反射的に琴音を背後に庇った。

その後、一日中、涼介は澪のそばにいた。殴られて青あざだらけになり、どれだけ罵倒されても、彼は昔のように澪の発音練習に付き合い、夜になるとベッドサイドにランプを灯して、眠ることなく昔話を語り聞かせた。

まるで、かつての時間が戻ってきたかのようだった。だが澪は知っている。涼介という男は、誰よりも「迷惑をかけられること」を嫌う人間なのだということを。

つまり、今の彼は「罪悪感」で動いている。琴音のために。

涼介は点滴のボトルを懐で温め、苦い薬のあとにはそっと飴を添える。その気遣いは細部にまで行き届いていて、澪は思わず錯覚しそうになる。

もしかして、涼介はまた私を――愛してくれているんじゃないか、と。

しかしその夜。喉の痛みで目を覚ました澪は、水を探して立ち上がった。部屋は真っ暗で、微かな光が漏れているドアのほうへ、反射的に足を向けた。

けれど、次に聞こえてきた賑やかな声に、澪はその場で立ち止まった。友人たちの笑い声のなか、涼介の低い声が混じっていた。

「騒ぐのは構わないけど、彼女を起こすな」

気を利かせた友人たちは頷き、動きを控えたが、琴音は唇を尖らせ、不満げに言った。

「ねえ涼介、あんなに長く彼女に付き添ってるのに、いつになったら私のそばにもいてくれるの?」

涼介は答えず、代わりに琴音の小さな顔を優しくつまんだ。友人たちはそれを羨ましそうに見て、冷やかしの声を上げた。

王様ゲームのルーレットが涼介の番で止まり、友人たちは顔を見合わせながら、ずっと聞きたかった質問をぶつけた。

「ねえ涼介、発話練習を最初から手伝わなくても、復讐の計画って成立したでしょ?なんでわざわざあんなことを?」

涼介の表情は変わらず、琴音を見つめる目にはただ優しさが宿っていた。

「だって、しゃべれなかったらベッドの上で声も出せない。そんなの、つまらないじゃないか」

その瞬間、友人たちは沸き立ち、部屋の空気が弾けるように盛り上がった。

涼介は勝者のようにその中心に座っていたが、彼の目の届かない場所に、一つの震える影があった。

澪はドアの向こうで、必死に自分の口を押さえていた。そんな姿だけは、見せたくなかった。

涼介が自分を愛していないことなんて、とうに分かっていた。もう、好きになってはいけないと分かっていたのに。なのに、なぜ――こんなに痛い?

心を抉られるような痛み。涙が止まらない。

かつての美しい記憶は今や刃となって澪を貫き、麻痺したまま、ベッドへと引き返した。

――結局、最後まで騙されていたのは、私だけだった。涼介は最初から、復讐のために近づいてきたのだ。

その夜、澪はベッドの上で、ずっと座ったまま朝を迎えた。翌日、涼介が部屋に入ってきたとき、その顔色の悪さにさすがの彼も微かに目を揺らした。

澪はもう、かつて記憶の中にあった少年ではない涼介を見て、ゆっくりと口を開いた。その瞳には静かな嫌悪が宿り、彼に触れられるだけで吐き気を催した。

「涼介。もう、私のために何かしようとしなくていい。気持ち悪い」

涼介は動きを止めた。澪の流暢な言葉に何か言おうとしたが、その次のひとことは、まるで決別の宣告だった。

「四日後、私たちは離婚する」

「星那の養子手続きに付き合って。あんたのような父親を持つなんて、あの子が気持ち悪いと思うだけよ」

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