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第四話

Author: 麻木香豆
last update publish date: 2026-07-03 05:08:02

也夜は病院のベッドに横たわっていた。

体にはたくさんの装置やチューブ、そして包帯が巻かれ、痛々しい姿。処置はすでに終わっているようで、眠っているようにも見えた。

「お兄ちゃんっ……!」

先に到着していた両親のうち、母親は泣きじゃくり、父親はただ呆然と椅子に腰を下ろしていた。

美園は兄のもとに駆け寄ろうとしたが、母親に腕を掴まれた。

「ダメよ、装置が繋がってる。触っちゃいけない」

來は、也夜の真正面に立ち尽くしたまま、息を詰めていた。

「也夜……也夜っ」

そう呼びながら手を伸ばした瞬間、看護師に制止された。

「ダメですよ!」

「だって、也夜が……也夜!」

「落ち着いてください!」

その声に、來は聞き覚えがあった。電話のときの声だ。

「……あなた、也夜さんの彼氏さんですね」

「は、はい……也夜は……也夜はどうなんですか……?」

「落ち着いてください。というか、あなた――家族じゃないのに、どうしてここに?」

家族じゃない。

その言葉が、胸に突き刺さった。

明日、パートナー協定を結ぶ予定だった。だから――まだ、來と也夜は“家族”ではない。

「明日には、僕ら家族になるんです……」

「そうです! 兄は明日、この人と結婚するんです! 一日前倒しでもいいじゃないですか!」

美園は涙を浮かべながら、強い口調で看護師に言い返した。

だが看護師は、困ったように首を横に振る。

「規則は規則です。あなたが中に入れたのですか?」

「はい、私が入れました。一緒に入りました。この人は、もう私たち上社家の一員です!」

その言葉に、來の胸が少しだけ温かくなった。

美園は、ふたりの関係を最初に受け入れてくれた人だった。少し時間はかかったけれど。

看護師は小さく息をついた。

「……規則は規則ですが、今回はいいでしょう。あとで先生から説明があります。みなさん、一旦外に出てください」

四人は促され、病室を出る。

來は振り返り、眠る也夜の姿を見つめた。

胸が締めつけられる。心電図の光が規則的に動いているのが、唯一の救いだった。也夜は生きている。それを信じるしかなかった。

病室の外のベンチに腰を下ろすと、ようやく父親が口を開いた。

「……きっと、死んだ婆さんがな。結婚をやめさせるために、也夜を天国に呼び寄せたんだろう」

あまりに突飛な言葉に、來は何も言えなかった。美園も口を開きかけたが、母親が先に声を荒げた。

「お父さん、何馬鹿なことを。來くんもいる前で……!」

それでも父親は黙ったままだ。

「そうよ、お父さん! お兄ちゃんと來くんのこと、認めてくれてたじゃない。『家族みたいだ』って!」

美園の言葉にも、父親はわずかに顔をしかめただけだった。

「……也夜が、もう聞く耳を持たなかった。だから、認めるしかなかったんだ」

その言葉に、來の心がひやりとした。確かに、そんな空気を感じていた気もする。

「私も、お父さんが認めたから……來くんのことは悪く思ってないけど……やっぱり、ねぇ、ねぇ……っ」

母親は泣き崩れ、床に膝をついた。

「お父さん! お母さん! お兄ちゃんと來くんの前でそんなこと言わないで!」

美園が叫ぶ。

上社家の三人。眠る也夜。

そして、まだ“家族”ではない來。

この場で、自分だけが部外者なのだと痛感する。

「上社さん」

医師が姿を現した。

その瞬間、也夜の父が來に向かって深く頭を下げた。

「……今は、ごめん。帰ってくれないか、來君。改めてこちらから連絡する。親戚や友人にも伝えるつもりだ」

あまりに冷たい言葉に、來の目から一筋の涙がこぼれた。

美園が何かを言おうとしたが、母親に肩を押さえられて口を閉じた。

「……ごめん、來くん」

その“ごめん”が、何に対する謝罪なのか。

來には、もうわからなかった。

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