LOGIN静謐な空気が漂う神殿の回廊で、セラは足を止め、じっとその男の後ろ姿を見つめていた。 遠ざかっていく白いローブを纏った男。 血の気がなく極端に唇が薄いその顔は、今朝自らの魔力が紡ぎ出したあの不気味な影と、恐ろしいほど一致していた。 まさか。 いや、でも……。 セラは、緊張が心臓の音を大きくさせるのを感じた。 セラが微動だにせず男を凝視していると、隣で立ち止まっていた侍女のリタが不思議そうに首を傾げた。「セラ様……? あの神官がどうかされましたか?」「あ……」 セラはハッとして、困惑しつつ瞳をリタに向けた。「あの方のお名前を知りたいのだけれど……」 知りたいけれど……。 先を言えず、口をつぐむ。 頭に浮かんだのは、ジェイドとの約束だった。『セラ、今度からは絶対に不審な者を見かけても追いかけたりしないでくれ。きみに危険が及ぶようなことになってほしくないんだ。どんなに平穏に見えても、王宮内ではいつ何が起こるか分からない』 勝手な行動をして、危険を手繰り寄せてはいけない。 けれど、もう、あの男は神殿のどこかへ消えてしまいそうで……。そうなれば、二度と見つけられなくなってしまうかもしれない。 どうすればいいかしら……。 セラは困り果てた気持ちで、ただただ遠ざかる男の背中を見つめることしかできなかった。
セラがカイル王子から、ご令嬢たちのお楽しみについて教えてもらっていると、重々しい扉の擦れ合う音が回廊に響き渡った。 議場の大きな扉がゆっくりと開き、中からぞろぞろと人が出てくる。国政を担う貴族や高官たちだ。カイル王子に気づいて恭しく挨拶を送る者もいるが、仕事終わりだからだろうか、皆一様に足早に立ち去ってゆく。 魔力が見せる特徴ある男と一致する人はいないかしら……。 セラは議場の扉から出てくる男たちに意識を集中させた。 自分の内側に取り込んだ魔力が映し出した、あの不気味な男たちの姿を思い出す。血の気がなく唇が極端に薄い男、そして荒々しい口髭の男——。 すれ違う人々の顔立ちや雰囲気をひとつひとつ観察する。 出てくるのはほとんどが年配の男性だった。若い男性は少ない。出てくる人々の中に、あの魔力の中に見た男たちと一致する人物は見当たらなかった。 出てくる人の勢いが少なくなり、しばらくすると、最後のほうにジェイドが出てきた。セラを見つけて、表情をゆるめ歩み寄ってくるジェイド。彼はセラの隣に立つカイルに気づくと少し驚いた表情を浮かべた。「セラ、待たせたかい?」「いいえ、ジェイド。議会、お疲れ様です」 セラの言葉に微笑んでから、ジェイドはカイルに顔を向ける。「カイル、体調が良くないと聞いた」 ジェイドの言葉に、カイルが悪びれもせず言う。「いいえ、ただのサボりですよ」「……そうか、ならいいが」 セラは、あわてて説明した。「カイル殿下
「——こんなところで、何をしている」 不機嫌そうに声をかけてきたのは、第二王子のカイルだった。 眉間に深い皺を寄せて佇む彼の姿を認めるやいなや、そばにいたリタとレオンは素早く礼をとって数歩下がり、会話が聞き取れないほどの距離へと退いた。 貴族の従者としての作法に即した行動だった。「カイル殿下、ごきげんよう」 セラは丁寧に礼をつくして挨拶を交わした。「ごきげんよう、セラ嬢。で、また、こんな妙なところで何をしているんだ」 王族としての堅苦しさを一切感じさせない、すっかり打ち解けたような、くだけた口調。そのぶっきらぼうな話しぶりに、セラは思わずくすくすと笑ってしまった。「……何がおかしい」 カイルがあからさまに怪訝そうな顔をして、眉をひそめる。「嬉しくて」「嬉しくて? ……分かりかねるな」「あ、昨日はありがとうございました。しっかりと冷やしたので、腕の赤みも痛みも全く残りませんでした。カイル殿下のおかげです」「……そうか」 感謝の言葉を伝えると、カイルはきまりの悪いような顔をして、ふいっと視線を横へ逸らした。視線は逸らしても、会話は続けてくれる。「で、ここでは何をしているんだ」「待っています。ジェイドのことを」「こんな殺風景な回廊で待ち合わせか? 色気もへったくれもないな」 カイルの呆れたような言葉に、セラは「
空がうっすらと白み始め、窓から静かな光が差し込んでいた。 薄暗いジェイドの部屋のベッドの上で、セラは一人腰を下ろし、自身の指先を見つめていた。その指先から、ゆらめく煙のようにも見える細い魔力の糸が伸びている。 魔力の糸は、かすかな瘴気を孕んでいた。 黒曜宮があるジェイドの所領でセラが自らの体に取り込んだ、ジェイドが身に受けた呪いと同じ性質を持つ魔力。 煙のような糸が空中で揺らめき、ひとつの影をつくりだす。 それは、昨日王妃様のサロンで見かけた口元に傷のある男と似た姿だった。 さらに別の場所で集めた魔力を内側から手繰り寄せると、口元に傷がある男とは違う見知らぬ男の姿が揺らめく。血の気がなく、極端に唇が薄い男。それに、荒々しい雰囲気のある口髭が特徴的な男。 セラは、そのみっつの影が繰り返す同じ動きを、じっと見つめ続けていた。「セラ……?」 すぐ隣で衣擦れの音がして、低い声がセラの名を呼んだ。 ジェイドがゆっくりと身を起こす。「ジェイド、ごめんなさい。起こしてしまいましたか?」「いや、いつも起きる時間だから気にしなくていいよ。……ずっと、それを見ていたのかい?」「ええ。急に気になってしまって……。彼らの動きが、どうにも引っかかるのです」「動き?」 ジェイドがセラの隣で体を起こし、ベッドの背もたれに身を預けた。 乱れた髪をかきあげる、男らしい仕草。 はだけた寝衣の胸元から、彼の引き締まった身体が覗いている。朝の柔らかな光に照らされたその姿は、驚くほど艶めかしく
ベッドの上に開かれて落ちた夜本。 男女が絡み合う、妖艶な絵。 四つん這いになったあられもない姿の女性を、男性が腰をつかんで猛るものを深く差し込んでいる。 そこに描かれている女と同じ格好をさせられているのだと気づいた瞬間、セラの全身にゾクゾクと鳥肌が立った。 天蓋付きベッドの柔らかいシーツの上で、両膝と手をつかされ、腰を高く持ち上げさせられた姿勢。ジェイドは、セラの背後にいる。 寝衣の裾は腰の上まで捲り上げられ、下着を取り払われた下半身は完全に無防備な姿でジェイドの眼前に晒されている。 セラは、夜本の絵を見ながら、シーツをきゅっとつかんで、息を吐いた。 いま、こんな恥ずかしい格好を、しているんだわ……。 後ろからジェイドの熱い視線が、濡れそぼったセラの最も秘められた場所に注がれているのを感じた。羞恥心で胸がいっぱいになり、顔が燃えるように熱くなる。けれど同時に、彼にすべてを剥き出しにされ、無防備に差し出さざるをないという事実が、セラの胸の奥に狂おしいほどの興奮をもたらしていた。「セラ……すごく綺麗だ」 ジェイドの低く掠れた声が、背後から降ってくる。 腰を大きな手で力強く掴まれる。 逃げ出すことなど許さないと言わんばかりの力強い拘束。ジェイドの男らしく太い指先が食い込む感触だけで、セラの身体はキュッと甘く収縮した。「あ……じぇい、ど……っ」 ジェイドの手がセラの腰を引いた。ふたりの肉体が密着する。 太ももの裏に触れるジェイドの肌があつい。彼の一際熱く硬い存在が
耳元で甘く弾ける可憐な声と、自らの胸の中でしなる柔らかな身体。 セラのあまりにも愛らしい反応に、ジェイドの胸の奥で燻っていた火が一気に燃え上がる。 ジェイドは抱きすくめたセラの細い腰を支えながら、空いた手を、そろりとセラの胸元へと伸ばした。薄い寝衣越しに触れる柔らかく温かな感触に、ジェイドの指先がじんと熱を帯びる。「セラ、次を読んで」 耳元で低く囁くと、セラは震える手で夜本を持ち上げ、視線を次のページへと落とした。 そこには、愛らしい女性の美しい胸をどのように愛撫し、開花させるべきかが、挿絵とともに描かれている。「あっ……んっ……ふ……っ」 セラは必死に文字を目で追い、声に出して読み上げようと唇を動かしたようだった。 しかし、ジェイドが耳たぶを優しく口に含み、同時に服の上から胸の膨らみをゆっくりとなでまわすと、その唇からは愛らしく掠れた吐息と切ない声しか漏れてこない。とてもではないが、声にして読み上げられる状態ではないらしい。 ジェイドはセラの横顔に浮かぶ朱色を愛おしく見つめ、甘やかすように言った。「いいよ。そのまま、目で追って読んでごらん。そこに書いてある通りに、きみの胸をさわるから」「……っ」 セラが言葉にならない返事を漏らし、こくりと小さくうなずく。 まずは、服の上から、そうっと優しく。 ジェイドは、セラの柔らかな胸のふくらみに両手をはわせた。 指先にほんの少しだけ力を込め、敏感になりはじめているだろう中央







