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32.決戦

last update Dernière mise à jour: 2025-11-02 19:33:05

美月side

遠藤取締役、お待ちしていました。応接室へどうぞ」

陸の顔を見ることはせず、一歩前を歩いて会議室に案内した。心の中は、高揚感と強い緊張感で満たされていた。

(今日が勝負だ。陸との関係も、会社のことも、全て清算させる!)

陸は終始不機嫌そうで無言で下を向いて俯いている。陸の顔には、この状況が自分の傲慢な行動のせいで引き起こされたという自覚は微塵もなく、ただ屈辱と苛立ちだけが浮かんでいる。

応接室に用意されたソファに、父と私、そして向かい側には陸が座って冷たく対峙する。今日の内容は、事前に父にも全て報告し了承を得ていた。

父が口火を切る。

「先日の発注の件ですが、もう一度御社の意向を聞かせて頂けますか?」

「我々が欲しいのは、三万個だ。よって請求も三万個で出してくれ」

陸は、動揺の色も見せずに当たり前だと言わんばかりに毅然とした態度で言い放ってきた。

「……しかし、頂いた発注書には六万個と書かれており、遠藤取締役、あなたにも電話にて確認と承諾も得ました。大量の注文にもかかわらず、納期は従来の期限までに間に合わせるようにと無茶な要望を通すため、他社の受注よりも御

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