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第4話

Author: リィワイ
警察官が、事故当時のドライブレコーダーの映像を見せてくれた。

運転席には渉。

助手席には莉愛が座っていた。

そこは、私が長年かけて一番くつろげるように調整した、私だけの特等席だったはずなのに。

映像の中の莉愛は、シートを何度もガタガタと動かしながら不満げに文句を言っている。

「てか、このシート位置低すぎじゃない?やっぱおばさんになると、腰痛めちゃうからこういう設定なのかなぁー?」

そう言ってケラケラ笑いながら、今度は勝手にダッシュボードを開け漁る。

中に入っていた私のコスメを指差し、「うわ、いつの時代のメイク?ダサすぎぃ」と鼻で笑う。

そして極めつけに、見覚えのある小瓶を取り出した。

1年前、渉が私の誕生日にプレゼントしてくれた高級な香水。

もったいなくて、ずっと開けられずに大切にしまっていたものだ。

莉愛はためらいもなく封を切り、自分の首筋にプシュッと吹きかけた。

「ねえ渉さん、これどんな匂い?嗅いでみてよぉ」

運転中の渉に無理やり身を乗り出し、顔を近づける。

そのじゃれ合いの隙に――前方不注意になった車が、交差点の角を曲がっていた父をはね飛ばしたのだ。

映像が終わり、私と渉の間に重苦しい沈黙が落ちた。

やがて、渉がゆっくりと頭を垂れる。

「……悪かった」

バサッ!!

私は握りしめていた診断書を、渉の顔面に力一杯叩きつけた。

「謝罪なんか要らない。必ず起訴する。

手術費、治療費、後遺障害の慰謝料に精神的苦痛への損害賠償……一円たりとも負けてあげるつもりはないから」

すると、莉愛がバンッと机を叩いて立ち上がった。

「ちょっと、やりすぎじゃないですかぁ!?

こっちだってわざとぶつけたわけじゃないんだし、示談で十分でしょ!なんでわざわざ起訴とか大げさなことするんですか!

渉さんはSNSで数百万人もフォロワーがいる有名人なんですよ!?もし炎上でもしたら……」

「莉愛、黙れ」

冷たく、ドス黒い怒りを孕んだ声が莉愛の言葉を遮った。

渉は「俺のことに口出しすんな」と莉愛を睨みつけた後、私に向き直る。

その声には、必死で私を宥めようとする焦りが滲んでいた。

「賠償金は、どんな額でも絶対に全額払う。

……本当に、すまなかった」

そして最後に、恐る恐る口を開く。

「おじさん……無事、なのか?」

私は何も答えなかった。

彼らとの間に示談などあり得ない。絶対に法廷で裁きを受けさせる。

その権利だけを、私は決して手放さなかった。

警察署を出た後、私はすぐに動画アプリをダウンロードし、渉のアカウントを検索した。

アイコンは、彼が愛車の大型バイクに寄りかかっている写真。

私が撮ってあげたものだ。クールでワイルドなバイク乗りを気取っている。

フォロワー数は、なんと8百万人超え。

投稿一覧には様々な動画が並んでいた。

手慣れた様子でカクテルを作る動画。バイクで夜の街を走り抜ける動画。

あるいは、流行りの曲に合わせて歌ったり踊ったりしている動画。

コメント欄は、ファンたちの熱狂的な書き込みで埋め尽くされていた。

【渉様、今日もカッコよすぎ!】

【こんなイケメンにカクテル作ってもらいたい】

私は元々こういう動画アプリには一切興味がなかった。

インフルエンサーの界隈にも疎く、彼がこんな活動をしているなんて知る由もなかったのだ。

毎月末には口座が空っぽだとぼやいていた渉が、まさかこんな大物インフルエンサーだったなんて。

2千万円なんて、彼ならあっという間に稼げる額じゃないか。

都心に駆けつけてきた母は、病院で涙に暮れていた。

私は事故の件はすべて自分が引き受けるからと母を慰め、弁護士事務所へと足を運んだ。

しかし、事務所から病室に戻ると、目を真っ赤に腫らした母が私を引き止めた。

「琴音、もう終わりにしましょう。起訴なんてしなくていい。示談で済ませられるなら、それで……」

私が何度か問い詰めると、母は泣き崩れながら口を割った。

「渉くんがね、ここに来たのよ。

自分が轢いたって……深く反省して、謝罪してくれたわ」

怒りで頭がおかしくなりそうだった。

私はベッドに横たわる、片足を失った父を指差して叫んだ。

「お父さんを見てよ! 足を一本奪われたんだよ!? 私の恋愛感情なんて、そんなものと比べたら何の価値もないでしょ!」

母は溢れる涙を拭いながら首を振る。

「お父さんが……お父さん自身が、彼を許すって言ったのよ」

私は深く息を吸い込み、吐き捨てるように言った。

「私は絶対に許さない!」

母は掠れた声で私にすがりつく。

「でも、お腹の赤ちゃんはどうなるの?

生まれてくる子に、前科持ちの父親を持たせるつもりなの!?」

渉が幼稚で身勝手な人間だということは、もう十分すぎるほど分かっていた。

でもまさか、男としての最低限のプライドすらないクズだったなんて。

自分の罪を軽くして両親から示談の同意を得るためだけに、私のお腹にいる子供の存在まで利用するなんて。

ベッドの上の父が弱々しく咳き込み、自らの手で示談書を書こうとした。

私は強引にその紙とペンを奪い取り、ビリビリと引き裂いた。

「この件は私が決める」

きっぱりと言い放ち、私は病室を飛び出した。

その日の午後、渉が再び病院にやって来た。

私は病棟のエントランスで彼を待ち伏せし、行く手を遮った。

彼の手には、見栄えの良い高級メロンのフルーツバスケットが提げられている。

私はそれを見て、冷ややかに言い放った。

「私の両親、メロンアレルギーなんだけど。

初めて実家に挨拶に来た時にも教えたよね。あなたは私の家族のことなんて、これっぽっちも気にかけていなかった。

よくもまあ、どの面下げて許しを請いに来れたものね」

少し疲れが見える渉の顔が、一瞬だけさっと青ざめた。

彼は酷く申し訳なさそうな顔を作って懇願する。

「ごめん……

おじさんが退院したら、俺たち結婚しよう。

おじさんの介護も、俺が責任を持って手伝うから。

それに、俺たちには子供もいるだろ?

これからは……もっと大人になるよう努力するからさ」

渉の口から出た結婚という言葉。

以前の私なら、夢にまで見た言葉だった。

けれど今の私には、そんな未練は微塵も残っていない。

私はバッグから一枚の書類を取り出し、彼の手元に突きつけた。

「子供?もういないわよ。

……渉。あなたが大人になるのを、永遠に待ち続けてくれる都合のいい女なんて、どこにもいないの」

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