Se connecter「終わっ、たあー!」 私は、ペンを放り投げて課題のレポートに突っ伏した。 ずっと集中してたから、体がバキバキに固まっちゃってる。 小さく声を漏らし、伸びをする。 すると、パキっと音が鳴った。 「──奏斗、お待たせ……。奏斗?」 随分待たせちゃったかな、と思いつつ奏斗に話しかける。 だけど、私が奏斗を呼んでも、奏斗から返事は返って来ない。 あれ?と思って突っ伏していたテーブルから顔を上げると、いつの間にか奏斗もテーブルに突っ伏して眠っていた。 やっぱり、昨日ホテルであまり眠れなかったのだろう。 私は奏斗が用意してくれた飲み物を全て頂いてから、椅子から立ち上がった。 眠っている奏斗の体を揺さぶって声をかける。 「奏斗、奏斗。待たせてごめん。課題終わったよ」 「ん、んん……?ほんと、香月……」 「うん、もう大丈夫。自分の部屋に上がって寝た方がいいよ?」 「うん……そうする」 もそり、と体を起こした奏斗に、私は安心して離れようとした。 だけど、私の腕を掴んだ奏斗に止められてしまって──。 「──え?」 「さっき、香月を抱き枕にするって言ったでしょ……?俺の部屋行って一緒に寝よ……」 「えっ、え!?あれって本気だったの!?──ひえっ!」 まさか、奏斗が本気で言ってたなんて。 私が戸惑っていると、奏斗はひょいっと私を軽々と抱き上げてそのまま歩き出す。 「かっ、奏斗!階段あるから!危ないから下ろして!」 「んー、大丈夫だよ、香月軽いし……ちゃんとぎゅって掴まってて……」 「ちょっ!」 ぽやぽやとした口調のまま、奏斗が階段を上り始める。 私はひやっとして、思いっきり奏斗に抱きついた。 すると、どこか嬉しそうに笑いながら、奏斗が私を抱く腕に力を込める。 階段を上りきった奏斗は、私を抱き上げたまま自分の部屋に進み、そのまま扉を開けて中に入ってしまう。 「か、奏斗──?」 「ああ、もう限界かも……」 「えっ、あっ、ちょ──っ」 そのまま奏斗は自分のベッドに倒れ込む。 もちろん、私を抱いたまま──。 ぼすんっ!と音を立てて私を巻き込み、ベッドに横になる奏斗。 離してもらおうと身動ぎしたけど、奏斗は目を瞑ったままで。 「ちょっ、奏斗、寝苦しくないの?」 「んー……へいき……」 奏斗はむにゃむにゃとした口調でそれ
「香月?鍵は開けてるから入ってきて」 「本当?分かった、お邪魔するね」 インターホンから奏斗の声が聞こえて、私はそのまま玄関の扉を開けて中に入る。 すると、玄関を入ったところで奏斗が待っていてくれて。 「奏斗、わざわざここまで来たの?」 リビングで待っていてくれれば良かったのに、と私が奏斗に言うと、奏斗は照れ臭そうに笑った。 「さっきまで会ってたのに、待ちきれなくってさ」 「ええ、奏斗ってそんなに寂しがり屋だったっけ?」 私が奏斗を揶揄うように笑うと、奏斗は照れ隠しをするように私の頭をぐしゃぐしゃと撫で回した。 「俺も自分で自分に驚いてるよ!くそっ、恥ずかしいっ!」 「ふっ、ふふっ!奏斗の顔真っ赤になってる!」 「ああ、もううるさいうるさい!香月、大学の課題やるんだろ?早くリビングに行こう!」 奏斗に手を取られ、そのままリビングに向かう。 奏斗は私を椅子に座らせると、飲み物を用意してくれて、私の向かいに座った。 「大学の課題って、どれくらいで終わるの?」 奏斗に飲み物のお礼を告げて、私は考える。 「うーん……どうだろう。レポートだから、早くは終わらないかも?」 「そっかー……」 「少し待たせちゃうと思うから、奏斗はテレビでも見てたらどう?それか、奏斗眠そうだから少し自分の部屋で寝て来たら?」 私はとろんとしている奏斗の目を見てそう話す。 何だかすっごく眠そうに見えて、私は奏斗に寝てきたら、と勧めたんだけど私の提案を奏斗は首を横に振って断る。 「いや、いい……。寝るなら香月も一緒に寝よ……」 「えー?私は結構ぐっすり寝たから多分眠くならないよ」 「それじゃあ、俺の抱き枕になってよ。香月抱きしめたらぐっすり眠れそう」 「だ、抱き枕って……」 まさか一緒に寝よう、なんて提案されるとは思わなかった私は、ついつい課題のレポートから顔を上げてしまう。 すると、とろんと眠そうな目をした奏斗がじっと私を見つめたまま、ふっと笑った。 「あ、もちろん変な事はしないから安心して。大人しく普通に寝るだけだから」 「そ、そんな心配はしてないよ……!」 「そう?期待してたら悪いかなって」 「期待もしてない!」 「──ははっ」 眠いからだろうか。 奏斗が嫌に色っぽく見えてしまって、落ち着かない。 きっと、私の顔は赤くなってし
ホテルを出た私と奏斗。 昨夜は凄い雨で、電車が停まっちゃっていたのが嘘のように、空は快晴。 「凄い気持ちいい天気だな」 「ね。昨日の悪天候が嘘みたいだよね」 私と奏斗は、会話をしつつ駅に向かう。 自然に、無意識に。 私と奏斗はどちらからともなく手を繋ぐ。 指を絡ませる、所謂「恋人繋ぎ」 今まではこんな風に奏斗と手を繋ぐと、私はすぐ照れてしまって顔が赤くなってしまったのだけど。 今はもう、こうして奏斗と並んで歩く事も。 手を繋いで外を歩く事も。 嬉しさの方が勝っていて、恥ずかしさを感じない。 朝の爽やかな空気と、気持ちの良い天気も多分関係しているとは思う。 「香月は今日家に帰ったら何か予定あるの?」 手を繋いで、並んで電車を待っている時。 奏斗から問われた私は、首を横に振った。 「ううん、特に無いよ。強いて言えば、大学の課題をやる予定くらいかな?」 「ならさ、家に帰って少し休んだら、俺の家で課題をやればいいよ。まだ香月と一緒に居たいから」 「わ、分かった。着替えたら奏斗の家に行くね」 「うん。待ってる」 帽子を目深に被っているけど、それでも奏斗がとても嬉しそうに笑っているのが分かる。 繋いだ手をきゅっと握られて、奏斗の指先がゆっくりと私の手の甲をなぞる。 「もうっ、擽ったいからやめて、奏斗」 「ごめんごめん、嬉しくてさ。早く2人きりになって思いっきりいちゃいちゃしたい」 「──ばっ、馬鹿な事言わないで!」 「え?香月変な事想像した?ただ俺は、香月とくっついていたいな、って思っただけだけど?」 ひょい、と私の顔を覗き込む奏斗の目が、揶揄うように笑っている。 私は奏斗の背中をべちん!と叩き、ちょうどやってきた電車に乗り込んだ。 電車を降りて、帰ってきた私達は、私の家の前で奏斗と別れる。 ただいま!と声をかけて家の中に入るけど、両親は出かけているみたいで、不在だった。 それなら丁度いいや、と私は急いで着替えを終え、大学に持って行っているトートバッグに課題を詰め込んでいく。 髪の毛を整え直して、軽くメイクも直す。 新作のリップを塗って、鏡の前で全身をもう一度確認する。 「──よしっ、洋服も可愛い!メイクも上手く直せた!完璧!」 アイドルの奏斗は、可愛い子なんて見慣れてる。 だけど、奏斗にはやっぱり可愛い
翌朝。 私は奏斗の腕の中で目が覚めた。 「──っ」 奏斗の寝顔を見て、自然と視線が奏斗の唇に行ってしまう。 昨夜、奏斗とキスをした事を思い出した私の顔が熱を持つ。 きっと今の私の顔は真っ赤だろう。 だけど、こんな真っ赤になっている事を奏斗に知られたくなくて。 私は必死に微動だにしないよう、じっと奏斗の腕の中で息を殺していた。 少しでも身動ぎしたら、奏斗が起きてしまいそうで。 今奏斗の目が覚めてしまったら。 至近距離で目が合っちゃう。 目が合ったら、恥ずかしくてどうにかなってしまいそうだ。 早く奏斗の腕の中からどうにか奏斗を起こさないように抜け出して、着替えたい。 私がそんな事をぐるぐると考えていると、頭上から押し殺したような笑い声が聞こえて来た。 「──っ、くくっ」 「か、奏斗起きて……っ!?ひっ、酷い……!起きてたなら言ってよ!」 「ごめんごめん。香月が百面相してるのが可愛くて」 「──っ」 奏斗の口から「可愛い」って言葉が出てきて。 しかも、それは私に向けられた言葉。 ぼわっと私は自分の頬が熱くなったのを感じる。 ぱちり、と目を開けた奏斗が嬉しそうににんまりと笑っていて。 「ああもう、香月は本当に可愛いな。いや、いつも可愛いんだけど、今日は特別に可愛い」 「……奏斗、目が悪くなったんじゃない?」 私は恥ずかしくて、ついついぷいっと顔を逸らして憎まれ口を叩いてしまう。 だけど、奏斗はそんな私を見ても嬉しそうに笑っていて。 「香月」 「──なに、んっ」 奏斗に名前を呼ばれたから、ちらりと視線を戻したらさっと唇を奪われる。 彼女が出来たのは初めてって言うのに、やっぱり何だか奏斗の行動がスマートで手馴れてる……。 私がじとっとした目を向けていると、奏斗は笑いながら抱きしめていた腕を解いて、起き上がった。 「そろそろ起きよう。着替えて帰らなきゃ。おばさんもおじさんも心配してるだろう?」 「お母さんもお父さんも、奏斗が一緒だから安心だって言ってたよ。昨日、返信きてた」 はい、これ。と私がスマホの画面を奏斗に見せると、奏斗は何とも言えない顔をした。 「いや、まあ……信頼してもらってるってのはいい事だけど……」 でもここまで信頼されてしまうと手を出すのも……。 なんてぶつぶつ言っている奏斗をベッドに残し
◇ 「かっ、奏斗……!?どうしたの!?」 「ごめん、ちょっとだけ抱きしめさせて」 寝ている時に、奏斗の声が聞こえた気がして。 それに、奏斗が動いた気がした私は、目が覚めた。 そしたら。 奏斗が辛そうな顔をしていて。 やっぱり雨に濡れたから、体調を崩してしまったのだろうか。 奏斗は昔から体調が悪くても、それを隠してしまう癖があるから。 辛そうな顔をしている奏斗に、そんな風に悲しそうな顔をして欲しくなくて。 奏斗の頬を包んだら、くしゃり、と奏斗の表情が歪んだ。 そして、奏斗に強く抱きしめられて──。 私は、辛そうにしている奏斗の背に、手を回す。 私がそうすると、奏斗の体がぴくりと反応した。 そして、更にぎゅうっと強く抱きしめられる。 それと同時に、奏斗に引き寄せられて。 奏斗の膝の上に乗っかってしまう体勢になってしまい、私は慌てて奏斗から離れようとした。 「かっ、奏斗……っ!重いからっ、降ろして……!」 「重くなんてないよ。むしろ、香月はちょっと軽すぎる……。頼むからもっとご飯を食べて、体重増やして」 「体重増やす、って……!やだよ、必死にダイエットしてるんだから……!女子大学生に言っていい言葉じゃないよ、奏斗!」 「──ふっ」 「笑い事じゃないのに……!」 「ごめんごめん。だけど、ダイエットなんてしなくていいのに。香月が減るからやめて」 「私が減るって……」 「だってそうだろう?香月の体重が減ったら、地球上から香月の体積が減っちゃう……つまり香月の成分が減るじゃないか」 「せ、成分って……!奏斗はさっきから何を意味の分からない事を言ってるの?」 奏斗に抱きしめられた体勢のまま、私はぺしりと奏斗の頭を叩く。 ちっとも痛くなんてないはずなのに、奏斗は「いてっ」なんて口にする。 そして、もそりと顔を上げると、私を見上げた。 「ごめん……ちょっと、弱気になってさ。俺が自分の気持ちに気付かずにいたら……そうしたら、こんな風に幸せな時間はなかったのかもって」 「──奏斗は、今が幸せだって思ってくれてるんだ?」 「うん、そうだよ。香月は?」 奏斗から真っ直ぐ見つめられて、私も見つめ返す。 そしてこくり、と深く頷いた。 「勿論幸せだし、毎日楽しい。こうやって奏斗と遊びに来る事もできて、嬉しいよ」 「──良かった
「──奏斗?まだ、寝ていないの?」 「香月……」 香月のとろん、とした目が俺を捉える。 まだ、寝惚けているのだろう。 「ごめん香月。起こしちゃったな。寝てていいよ」 俺は香月から離れ、トイレに行こうとした。 自分が情けなくて。 長い間香月を苦しめていた事が本当に申し訳なくて。 俺はベッドから降りようとした。 だけど、ふ、と香月の手が俺の手のひらに触れた。 「なんか……、どうしたの奏斗……?」 「え、なにが……」 俺が香月に振り向くと、香月の腕が伸びてきて。 俺の体がぎくり、と固まった。 「何だか、奏斗……泣きそうな顔してる。嫌な事、あった……?」 「──っ」 香月に言われた言葉に、俺はくしゃりと表情を歪めた。 俺の顔を香月がそっと両手で覆い、心配そうに見つめてくれる。 眠そうにとろんとした香月の瞳が次第に意識がはっきりしてくるように焦点が合ってくるのが分かる。 「奏斗……?奏斗本当にどうしたの、どこか痛い?」 香月はすっかり目が覚めてしまったようで、おろおろとしだす。 「どうしよう、雨に濡れたから?風邪ひいちゃったのかな?」 「いや、違う……。大丈夫、大丈夫だ香月」 「ええ?本当?奏斗、熱があっても我慢して、隠す癖があるでしょ?」 「──ははっ、そんな事もあったっけ」 子供の頃の話だ。 確かに、昔から俺は体調が悪くてもそれを隠していた。 両親は忙しくて、家を長期間留守にする事も多かった。 だから、風邪をひいて体調が悪くても誰も看病なんてしてくれない。 心配もされない。 それなら、誰かと会っている方が寂しさが紛れていい。 だけど──。 そんな俺の体調の変化に、いつも気が付いてくれるのは決まって香月だった。 俺が風邪を引いて熱を出していると、すぐに香月が気付いてくれた。 それで、俺の両親が不在の時は香月の家で看病してもらった。 香月のおばさんも、おじさんも仕事をしてたから。 香月の部屋のベッドで休ませてもらって。 香月が学校に行っていても、すぐに俺の看病をしに急いで帰ってきてくれた。 昼間はしんと静かな部屋で、1人で寝ているけど、そこが香月の家だから少しも寂しくなくて。 香月が学校から帰って来ると、学校で何をしたとか、どんな宿題が出た、とか色々話してくれて。 それで、夕ご飯も香月がお粥を