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第9話

Autor: ピース・ピジョン
それからさらに一週間が過ぎた。

探偵からは、相変わらず何の進展もない。

奏多の我慢も、とうとう限界だった。

眠れない夜が続き、彼は毎晩のようにリビングに座り込んでは、スマホに残った春名との昔の写真を眺めていた。

写真の中の彼女は、あんなにも幸せそうに笑っていた。目を細めると、まるで三日月のようだった。

彼女は、それほどまでに彼を愛していた。

八年分の思い出があった。大学時代から卒業まで、賃貸の部屋で暮らしていた頃から、自分たちの家を買うまで、恋人から夫婦になるまで。

春名は彼のために料理を覚え、彼のためにこの街に残った。自分のやりたかった仕事も、いつの間にか諦めていた。

それなのに、彼は何をしたのか。

春名が何よりも自分を信じていたそのときに、春名が何よりも大切にしていた人を抱いた。

奏多は突然、スマホを壁に叩きつけた。画面が砕け、破片が床に散らばった。

遥はその音で目を覚まし、裸足のまま駆け出してきた。散らかった床を見て、怖くて近づくこともできなかった。

「奏多……どうしたの……」

奏多はゆっくりと彼女のほうを振り向いた。その目つきは、ぞっとするほど陰鬱だっ
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  • 夫が妹との隠し子を告白した夜   第12話

    奏多は、私がこんな反応をするとはまったく思っていなかったらしい。彼は一瞬呆然としたあと、改めて口を開いた。「仕事は辞めた。家も売った。遥とはもう完全に縁を切った。今の俺には何もない。ただお前に会いに来たんだ」私は書類を置き、振り返って彼を一目見た。「何もないくせに、よく私にいい暮らしをさせるなんて言えたわね。本当に図々しい」彼の顔から、さらに血の気が引いた。「春名、俺が悪かったのはわかってる……」「何が悪かったの?」私はデスクにもたれ、腕を組んだ。「言ってみて」彼は口を開いたが、そこで詰まった。「ほら。自分が何を間違えたのかさえ言えないのに、どうやって二度としないと保証するの?」「二度としない!」彼の声が急に大きくなり、膝で少し前へにじり寄った。「俺が人生で一番後悔してるのは、あの夜、酔ったことだ。いや、違う。あの飲み会で、あんなことを言ったことだ。お前に恥をかかせるつもりじゃなかった。あんなこと、言うべきじゃなかった……」「もういい」私は彼の言葉を遮った。やっぱり、聞きたくなかった。「奏多。あなたは今ここで跪いて、会いたかった、悪かったって言ってる。だから何?私にどうしてほしいの?あなたのところに戻れって?やり直せって?全部なかったことにしろって?」「俺たちは、やり直せる……」「何を根拠に?」その一言が、彼に深く突き刺さった。彼の涙が、ついにこぼれ落ちた。三十を過ぎた男がオフィスで跪き、子どものように泣いていた。周りでは、小声でざわつき始める人たちもいた。私の社員たちは、きっとこんな光景を見たことがなかったのだろう。自分たちの社長が、跪いて泣く男を冷めた目で見下ろしている光景を。「お前は俺を愛しているからだ」彼はかすれた声で言った。「昔は、あんなにも俺を愛していた」そうだ。昔は、あんなにもあなたを愛していた。あなたのために料理を覚えるほど。あなたのために、自分が愛していた仕事を諦めるほど。あなたのために、吐き気に耐えながら薬を飲み続け、市内の病院をすべて回るほど。けれど、あなたはどうだった?「奏多」私の声はとても静かだった。「昔は確かに、とても愛していた。でも、知ってる?それは昔の話よ」彼の目が、わずかに大きく見開かれ

  • 夫が妹との隠し子を告白した夜   第11話

    奏多が私の会社のビルの下に現れたとき、私は四階で会議の真っ最中だった。受付から内線が入った。「高瀬社長、ご主人だと名乗る男性がお見えです。ご予約はないのですが、どうしてもお会いしたいと……」ご主人。奏多がここまで来たのか。離婚判決が下りてからもう一年以上経つというのに、よくもまだそんなことが言えたものだ。「通して」私は言った。彼がいったい何をするつもりなのか、見てみたかった。扉が開いたとき、私はコピー機のそばで書類を取っていた。白いシャツにスラックス。髪は適当に束ねているだけ。けれど奏多の目には、私はただの事務員に見えたらしい。「春名、本当にここにいたんだな!」彼は私に歩み寄ってきた。低く切羽詰まった声だった。胸の奥にため込んでいた言葉が、ようやくあふれ出したようだった。私は背筋を伸ばし、彼を見た。痩せて、老けていた。目の下には濃いクマがあり、長いことまともに眠っていない人のようだった。「どうやってここを見つけたの?」「ずっとお前を探していた……」「見た感じ、俺といた頃より苦労してるみたいだな。意地張らないで、俺のところに戻ってこいよ。大丈夫だ。今度こそ絶対に泣かせない。遥とはもう切った。これからはお前だけを大事にする……」彼は声を落とした。その口調には、かつて私が愛した、どこか傷ついたような甘えが混じっていた。「俺のところへ戻ってくれないか?」帰る。彼が私の妹と一緒に、私を裏切ったあの場所へ?私が黙ったままでいると、彼は私が迷っているとでも思ったのか、手を伸ばして私の手首をつかもうとした。「行こう。車は下にある。お前に悪いことをしたのはわかってる。でも、意地を張って自分をこんなふうにすることはないだろう……」彼の手が私に触れる前に、村上が彼のそばに立っていた。「お客様」村上の声は丁寧だった。「手をお放しください」「誰だ、お前は?」奏多は眉をひそめた。村上は彼を相手にせず、私のほうへ向き直って、軽く頭を下げた。「高瀬社長、会議開始まであと五分です。投資家の皆様はすでにお見えです」高瀬社長。奏多の手が宙でこわばり、顔の表情が少しずつ崩れていった。「わかった、村上さん」私は袖口を軽く直した。「この方にお引き取りいただいて

  • 夫が妹との隠し子を告白した夜   第10話

    奏多の顔から、みるみる血の気が引いていった。まるで全身の血を抜かれたようだった。彼は口を開き、何かを言おうとした。けれど、自分には何も言えることがないと気づいた。彼女の言う通りだった。最低なのは、彼女ではなく自分のほうだった。あの夜を境に、二人のあいだに入った亀裂は、二度と埋まることがなかった。奏多は意識的に遥を避けるようになった。朝早く出て夜遅く帰り、ひどいときには何日も家に戻らなかった。遥は関係を取り戻そうとした。彼の好きな料理を作り、彼の好きな酒を買い、かつて彼が綺麗だと褒めたワンピースを着た。けれど奏多は、彼女に一瞥さえくれなかった。「奏多、ちゃんと話そう?お願い」彼女は彼を引き止めた。その声には、痛々しいほどの必死さがにじんでいた。奏多は冷たく彼女を見た。「私たち三人のこれからの生活だって、続けていかなきゃいけないでしょう。どうせ……」「これからなんてない」奏多は彼女の言葉を遮った。「俺は一度もお前を愛したことがない。お前が誰よりもわかっているはずだ」遥の目から、また涙があふれ出した。「じゃあ、どうして私をそばに置いたの?私のこと、少しも好きじゃなかったの?」「春名が戻ってくると思っていたからだ!」奏多は怒鳴った。「俺がお前を大事にしているように見せれば、春名は嫉妬して、俺のところに戻ってくると思っていた!なのに、戻ってこなかった!」彼の声は、ひどくかすれていた。「春名は行ってしまった!俺を捨てて、俺たちの子どもまで堕ろして、俺の前から完全に消えたんだ!全部お前のせいだ!お前のせいなんだ!」遥は全身を震わせ、大粒の涙をぼろぼろと落とした。「じゃあ……私に優しくしてくれたのは……全部嘘だったの?」奏多は答えなかった。沈黙が答えだった。遥は突然笑った。涙を飛ばしながら、体を震わせて笑った。「奏多、あなたって本当に可哀そうな人ね。誰よりもあなたを愛してくれた人を失って、今度は愛してもいない私に縛られている。自業自得よ」奏多の顔から血の気が引いていった。けれど、何も言い返せなかった。彼女の言う通りだったから。自業自得だった。さらに一か月が過ぎた。探偵がようやく、わずかな手がかりをつかんだ。私が最後に姿を見せたのは海都で、ある文化系

  • 夫が妹との隠し子を告白した夜   第9話

    それからさらに一週間が過ぎた。探偵からは、相変わらず何の進展もない。奏多の我慢も、とうとう限界だった。眠れない夜が続き、彼は毎晩のようにリビングに座り込んでは、スマホに残った春名との昔の写真を眺めていた。写真の中の彼女は、あんなにも幸せそうに笑っていた。目を細めると、まるで三日月のようだった。彼女は、それほどまでに彼を愛していた。八年分の思い出があった。大学時代から卒業まで、賃貸の部屋で暮らしていた頃から、自分たちの家を買うまで、恋人から夫婦になるまで。春名は彼のために料理を覚え、彼のためにこの街に残った。自分のやりたかった仕事も、いつの間にか諦めていた。それなのに、彼は何をしたのか。春名が何よりも自分を信じていたそのときに、春名が何よりも大切にしていた人を抱いた。奏多は突然、スマホを壁に叩きつけた。画面が砕け、破片が床に散らばった。遥はその音で目を覚まし、裸足のまま駆け出してきた。散らかった床を見て、怖くて近づくこともできなかった。「奏多……どうしたの……」奏多はゆっくりと彼女のほうを振り向いた。その目つきは、ぞっとするほど陰鬱だった。「言え」声は喉の奥から絞り出したようだった。「あの夜、お前はわざとやったのか?」遥の顔から一瞬で血の気が引いた。「な……何のこと?」「三年前のあの夜、お前がわざと俺を誘ったのかって聞いてるんだ!」奏多は立ち上がり、一歩ずつ彼女へ迫った。「俺は酔っていた。何もはっきり覚えていない。だが、お前はどうなんだ?意識ははっきりしていたんだろう?俺がお前の姉の恋人だと知っていながら、春名の服を着て、春名の香水をつけて、お前はいったい何を企んでいたんだ!」遥の目から涙があふれ出し、彼女は必死に首を振った。「違う……違うの……あの日はあなたも飲みすぎていて、私たち、どちらも正気じゃなかった……」「ふざけるな!」奏多が怒鳴った。「防犯カメラを確認した。あの夜、お前が着てきたのは、春名のワンピースだった!」遥は全身をこわばらせ、力が抜けたようにその場に立ち尽くした。彼女は口を開いたが、一言も出てこなかった。「最初からわざとだったんだな」奏多は歯を食いしばった。「わざと妊娠して、俺に罪悪感を植えつけた。俺が責任を取らなきゃいけないと

  • 夫が妹との隠し子を告白した夜   第8話

    夜、奏多が家に帰ると、キッチンの明かりがついていた。一瞬、春名が帰ってきたのかと思った。昔のように、自分の好きな料理を用意して、待っていてくれたのだと。「奏多、今夜は安奈と一緒に夕飯を食べよう?あの子、ずっとパパに会えていないの」遥がスープを二つ持ち、優しい声で言った。目の前にいる人物を見て、彼ははっと我に返った。奏多はうつむき、投げやりに答えた。「シッターに相手をさせろ」「でも、あの子はあなたに……」「ベビーシッターに相手をさせろと言ったんだ!」彼は突然、声を荒げた。遥はその場に凍りつき、みるみる目を赤くした。彼女は器を置き、彼のそばへ歩み寄ると、肩に手を回そうとした。「どうしたの?仕事で疲れてるの?」奏多はそれを避けた。遥の手は宙でこわばった。空気が数秒、凍りついた。「奏多……」彼女の声が震え始めた。奏多はようやく顔を上げて彼女を見た。その目には、うんざりした色しかなかった。「今夜は書斎で寝る」扉が彼女の目の前で閉まった。遥は廊下に立ち尽くし、声もなく涙をこぼした。彼女はふと、三年前のあの夜を思い出した。あれは彼女と奏多が、初めて一線を越えた夜だった。その日、彼女は姉のワンピースを着て、姉の香水をつけ、奏多が酔っている隙に、自分が春名のふりをした。彼には気づかれないと思っていた。けれど彼女は奏多に一目惚れしていた。彼が姉をこれ以上ないほど大切にする姿を見て、ほんの少しでも自分に向けてほしかったのだ。まさか、子どもができるとは思わなかった。子どもさえいれば、すべては自然とうまくいくと思っていた。けれど彼女は忘れていた。偽物は、どこまでいっても偽物なのだ。

  • 夫が妹との隠し子を告白した夜   第7話

    一方その頃、金に糸目をつけず私の行方を探らせていた奏多のもとに、ようやく報告が入った。「如月さん、高瀬さんはすでにこの街を離れていました」「何だって?」奏多はスマホを握りしめた。手の甲に青筋が浮かぶ。「行き先は?早く言え!」「申し訳ありません。高瀬さんは通常とは違う方法で搭乗されたようで、現時点では行き先まで追えておりません」彼は深く息を吸った。「なら続けろ。いつになっても構わない。必ず見つけ出せ」奏多には、どうしても信じられなかった。あれほど自分を愛していた春名が、このまま本当に姿を消すなんて。かつての彼女は、いつだって誰よりも自分を優先してくれていた。電話を切ったあとも、奏多は苛立ちを抑えきれず、オフィスの中を何度も行き来した。そこへ遥がやって来て、彼にお茶を差し出し、そっと口を開いた。「お姉ちゃんなら、そんなに遠くへは行っていないと思う。お姉ちゃんは昔から責任感が強いし、母に似て、曲がったことを許せない性格でしょう。もしかしたら、いつか自分から戻ってくるかもしれない」奏多はようやく彼女を見た。「そんなに断言できるのか?」遥は眉を上げた。「もちろん。私のお姉ちゃんのことなら、あなたより私のほうがずっとよく知ってるもの」奏多は彼女の青ざめた顔を見るなり、刺々しい空気をふっと緩め、彼女を腕の中に引き寄せた。「あのときは、俺の配慮が足りなかった。春名があそこまで大きく反応するとは思わなかったんだ」遥は目を赤くして、抱き返した。「わかってる。全部、私と安奈のためだったんだよね。お姉ちゃんが見つかったら、一緒に説得しよう」遥の言葉を聞いて、奏多の心はずいぶん落ち着いた。それでも何日経っても何の消息もないと、彼の不安はやはり消えなかった。奏多はオフィスに座っていた。目の前には一枚の書類が広げられていて、そこには乱れた筆跡で彼の名前が書かれていた。だが最後の一画が曲がり、「春」という字の半分のようになっていた。彼は苛立ってそれを破り捨て、もう一度署名した。書き終えてから気づいた。名前の後ろに、また「春」という字が続いていた。「くそっ」彼は低く悪態をつき、契約書を丸めてゴミ箱へ投げ捨てた。秘書が扉をノックして入ってきて、おそるおそる言った。「社長、探偵のほ

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