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第6話

Author: 迷い魚
紗和は電話に出た。

「もしもし、望月様でいらっしゃいますか。こちらは中央総合病院です。お祖母様の望月雪江(もちづき ゆきえ)様の容体が本日急変し、先ほど救命処置を行いましたが、現在、危篤状態です。

今、お祖母様はどうしてもあなたとご主人に会いたいとおっしゃっています。できるだけ早くお越しいただけますか。そうでないと、もう間に合わなくなってしまいます」

「え?」

紗和ははっとして身を起こした。すぐには現実を受け入れられなかった。

「そんなはずない!そんなの嘘ですよね」

電話口の医師も痛ましそうだった。彼女が受け入れられないのだと分かったうえで、続けた。

「望月様、お伝えしていることは事実です。どうか、ご主人と一緒にすぐお越しください。これ以上遅くなると……本当に間に合いません」

紗和はどれほど受け入れられなくても、受け入れるしかなかった。泣き崩れるように言った。

「おばあちゃんがいなくなる……私、おばあちゃんまで失うの……」

祖母は彼女にとって唯一の肉親だった。彼女を育ててくれた人であり、彼女がこの世で最も気にかけている存在だった。

紗和はすぐに出ていこうとした。涙はこらえきれず、次々と頬を伝って落ちていく。

だが、医師が祖母は最後に自分と怜央に会いたがっていると言っていたことを思い出した。

紗和はかすれた声で、怜央の手をつかんだ。

「一緒に来てくれない?おばあちゃんに、最後に会ってあげて」

流産して以来、祖母は紗和と夫の間に深い亀裂があることをずっと分かっていた。結婚した当初、祖母は紗和が心から喜んでいるのを見ていた。だからこそ、孫娘が幸せになれるならと、祖母も喜んで結婚を認めてくれたのだ。

その後、紗和が妊娠すると、祖母は栄養のあるものを何度も届けてくれた。だがすべては、莉乃によって壊された。

子どもを産めなかったあと、祖母はひどく彼女を痛ましく思っていた。けれど離婚すれば、彼女がさらに頼る人を失ってしまうのではないかと心配し、できることならもう一度子どもを授かる機会があることを願っていた。

だから紗和は、自分を誰より大切にしてくれる祖母に結婚生活を心配させたくなくて、本当に怜央に一緒に行ってほしかった。

怜央は彼女を見つめたまま、何も言わなかった。

次の瞬間、男はその手を引き抜いた。

紗和の胸が、不意に空洞になったように感じた。

「午後は用がある。お前一人で行け」

怜央は言った。

「悪い。本当に外せない用がある。あとで行く」

怜央は立ち上がり、ドアへ向かった。出ていったきり、二度と戻ってこなかった。

紗和には、彼がもう出ていったのだと分かった。

涙がゆっくりと頬を伝った。

もし怜央が一緒に病院へ行ってくれたら、祖母はきっと心残りなく逝ける。そう思っていた。

祖母がいちばん心配していたのは、これから私のそばで面倒を見てくれる人がいなくなることだったからだ。

けれど怜央は、彼女にも、彼女の祖母にも、何の関心もなかった。

この結果は、予想外ではなかった。

紗和はすぐに階下へ下り、運転手の車に乗って、中央総合病院へ向かった。

病室に入った瞬間、紗和は固まった。手にしていたバッグが突然床に落ち、彼女は慌てて駆け寄った。

「おばあちゃん!」

祖母はもともと体が弱く、ずっと入院が必要だった。だが、呼吸器をつけているのはこれが初めてだった。

呼吸器は裂けた肺のように、耳障りで乾いた音を立てていた。まるで、死を目前にした呻きのようだった。

紗和は涙を堪えられず、そばへ駆け寄って必死に呼びかけた。

「おばあちゃん……どうしたの、どうしてこんなことに、どうして急にこんなに悪くなったの?」

祖母は苦しげに目を開けた。年老いた瞳に、ふっとかすかな光が宿る。

「紗和……来てくれたのね……」

「おばあちゃん、来たよ。紗和だよ」

紗和は泣きながら言った。

「ごめんなさい、おばあちゃん。私がこの間ずっと海外にいたから、こんなに悪くなっていたのに気づけなかったのね。分かっていたら、海外へ連れて行って治療を受けさせたのに。向こうの医療のほうが、ここよりずっといいから」

祖母はそれを聞くと、淡く笑い、首を横に振った。

「紗和、人は生まれて、老いて、病んで、死ぬものよ。おばあちゃんはもう長くない。自分の体のことは、よく分かっているの。どこへ行っても、この体はもう持たないわ」

「違う、違うよ、おばあちゃん。頑張って。私が必ず治す方法を見つけるから。おばあちゃんを失うなんて無理なの……おばあちゃん、いや……」

紗和の涙は堰を切ったようにあふれ出した。

胸を刃物で切り裂かれるようだった。

祖母は彼女にとって唯一の肉親であり、この世でいちばん彼女を愛してくれた人だった。

「紗和、泣かないで。おばあちゃんには、あなたみたいに孝行な孫娘がいて、この一生に悔いはないの。ただ、あなたのことだけが少し心残りで……」

祖母は慈しむように彼女を見つめた。

「あなたと怜央さんは……仲直りしたの?」

祖母の言葉がそこで途切れた。視線は紗和の背後にある、がらんとした病室の入口へ向けられた。けれど、孫娘の夫の姿は最後まで現れなかった。

紗和は、枯れ枝のように痩せ細った祖母の手を両手で包み込んだ。

その瞬間、こらえていた胸の痛みが一気にあふれ出した。

涙で声を詰まらせながら、これまで誰にも言えず胸の奥に押し殺してきた苦しみを、すべて吐き出した。

「おばあちゃん、怜央はきっと、一生私を愛してくれない。私は8年もあの人を愛してきたのに、結局、自分で自分を傷つけ続けていただけだった。怜央が愛しているのは莉乃だけ。あの人はいつだって、私なんか莉乃に及ばないと思っている。あの人たちは、最初から私を見下していたの」

祖母の慈愛に満ちた顔に、深い痛みが浮かんだ。

「そんなことになっていたなんて……紗和、それはおばあちゃんが悪かった。あの人たちが、そんなふうにあなたを苦しめていたなんて知らなかった。初めから分かっていたら、おばあちゃんは絶対にこの結婚を認めなかったよ。紗和……あなたは、あまりにも長いあいだ耐えてきたのね」

皺だらけの手は、それでも変わらず優しく紗和の頬を拭い、そして彼女の手を握った。

年老いた声が、ゆっくりと告げる。

「でも、泣かないで。この世に、絶対に悪いだけのことなんてないのよ。これは、もしかしたら良いことなのかもしれない。

彼があなたを愛していないと分かったのなら、もう彼を手放しなさい。人生には何度か越えなければならない坂があるものよ。あなたは強い子。転んだら、また立ち上がって、前へ進みなさい。

あなたをもっと大切にして、もっと愛してくれる人が、きっと待っているわ」

紗和は思いもしなかった。これまでずっと彼女と怜央が仲直りすることにこだわっていた祖母が、この瞬間、怜央から離れるよう励ましてくれるなんて。

その時、紗和ははっと悟った。

祖母はただずっと、心から彼女に幸せになってほしかっただけなのだ。

紗和が呆然としている間にも、祖母の瞳は少しずつ光を失い始め、声にも力がなくなっていった。

「紗和、おばあちゃんには、もう一つ大事なことを伝えなければならないの。あなたの生い立ちについて……」

紗和は衝撃を受けた。

「おばあちゃん、言って!」

祖母の声は、消え入りそうな囁きになった。

「紗和、自分があの人たちより劣っているなんて、決して思ってはいけないよ。あなたはこの世の誰にも劣っていない。本当は、あなたが怜央さんに釣り合わないなんてこと、少しもないの。あなたの本当の両親は……」

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