เข้าสู่ระบบ伏見の重い言葉と、叱責するような声に音羽はぐっと唇を噛み締めた。 そんな音羽を見て、伏見は抱きしめていた腕を緩めると噛み締めている音羽の唇に優しく触れた。 「……傷が付く。噛むのはやめてくれ」 「──うん、蓮夜……」 少し落ち着いたのだろう。 伏見が腕の力を緩めても、音羽は駆け出そうとはしなかった。 そんな音羽に伏見はほっとした。 冷静になったのだろう。 だが、音羽の瞳には涙が沢山溜まっており、伏見はそっと優しく音羽の目元に口付けた。 「飯野運転手が来たら、ちゃんと話を聞こう。腹が立っても、怒りに乗り込まれたら駄目だ。落ち着くのは難しいと思う。だが、感情に呑まれて暴走したら、胸を張って恭と会えなくなる。……そんな未来、音羽は望んじゃいないだろう?」 「ええ、そうです……。蓮夜の言う通りだわ……。ごめんなさい、興奮して訳が分からなくなりました……」 「そうなるのは分かる。だが、地獄に落ちるのはあいつらだけだ。音羽が付き合ってやる必要は無い」 伏見の言葉にこくり、と頷く音羽。 今はもう落ち着いた様子の音羽に、伏見は安堵した。 手を引けば、大人しく伏見に着いて来る。 「飯野運転手が恭を連れてくるまであと少し時間がある。少し座って待っていよう。水を飲むか?」 「ありがとうございます、蓮夜。飲みます」 「分かった」 伏見は椅子に音羽を座らせ、冷蔵庫から水のペットボトルを取り出す。 グラスに水を注ぎ、音羽に手渡した。 ぐっ、とグラスの中身を一気に煽り、小さく息をついた音羽の隣に座った伏見は、音羽の肩を抱き寄せる。 お互い無言で、ただ寄り添う。 言葉がなくとも気まずさなんて何1つ無い。 音羽の肩を抱き寄せる伏見と、伏見に身を任せる音羽。 2人が暫く無言でそうしていると、ふと伏見が時計に視線を向けた。 「──そろそろ到着する頃だ。外で出迎えよう」 「──はい!」 伏見の言葉に、音羽は強く頷く。 グラスをテーブルに置いて、2人は椅子から立ち上がった。 玄関先までやって来た音羽と伏見。 外は真っ暗で、周囲には誰も通っていない。 夜は車通りも殆どない、静かな場所だ。 2人が表に出て、少し。 真っ暗なこの場所に車の明るいヘッドライトが見えた。 「──っ!」 「飯野運転手の車か?」 光に反応した音羽がぱっと顔を上げる
焦った口調の飯野の言葉に、音羽と伏見はその場から立ち上がった。 明らかに何か良くない事が起きたのだろう。 「──何が起きたんですか!?いや、ひとまず家へ。キャンプの時に来た家の実家を覚えていますか。俺も、音羽もそっちに居ます」 〈お、覚えています……!〉 「なら、すぐに家へ。──恭も、飯野さんも無事ですか?」 伏見の言葉に、飯野は言葉に詰まる。 言い淀んだ飯野に、音羽は嫌な予感がむくむくと湧き上がった。 ぽつり、と飯野が言葉を返した。 〈私は、大丈夫です……。ですが、坊っちゃまが……〉 暗く沈んだ飯野の言葉に、あまり状況が芳しくないのだと言う事が窺える。 音羽は自分の口元を手で抑え、震えていた。 そんな音羽を安心させるために伏見は音羽を抱き寄せると背中を叩いて落ち着かせる。 「──分かりました。詳しい話は家に着いてから。あとどれくらいで着きますか」 〈あと、20分ほどで……〉 「分かりました。焦らず、気を付けて来てください」 〈はい、ありがとうございます……!〉 電話を切った伏見に、音羽は信じられない思いで言葉を紡ぐ。 「恭ちゃん……恭ちゃんに何が……。もしかして、裕衣が?それとも、樹が……!?」 「──落ち着け、音羽。詳しい事は分からない。だが……飯野運転手の焦りようから、ある程度の予測は出来る」 伏見はそこで言葉を一旦切ると、苦しそうに顔を歪める音羽を抱きしめた。 きっとこれから自分が発する言葉は、音羽に衝撃を与えるだろう。 取り乱さないよう、取り乱して怪我をしないように音羽をぎゅっと強く抱きしめる。 「──憶測だが、追い詰められた人間は、その対象を排除しようと極端な思考に陥る事が多い。……恐らく、追い詰められたのは玉櫛 裕衣だ。自分が追い詰められた原因は、恭だ。……恭の誘拐さえ上手くいっていれば、と思ったはず。その原因──恭を排除しようとしたのかもしれない」 伏見の低い声が音羽の耳に届く。 その言葉を聞いて、理解した瞬間音羽はその場から駆け出そうとした。 「──玉櫛 裕衣っ、恭ちゃんに……っ!絶対に許せないっ!私が裕衣を殺してやるっ!」 「落ち着け音羽!感情を乱すな!」 今にも伏見の腕の中から飛び出して裕衣のいる玉櫛家に向かいそうな勢いの音羽。 音羽を逃がさないように、伏見は腕の力を強めた。 「感情
部屋の入口に唖然と立ち尽くす樹。 樹の登場に、裕衣は先程までの興奮状態から一気に真っ青になっている。 飯野は恭を抱いたまま、樹の隣をすり抜けた。 樹は微動だにせず、信じられないものを見るように裕衣を凝視している。 部屋を出た飯野は、自分を追って来たお手伝いさんを見つけた。 お手伝いさんもしっかりと裕衣の言葉を聞いたのだろう。 信じられない、と言う様子でおろおろとしている。 「──すまないが、警察に通報しておいてくれ」 「か、かしこまりました……っ」 泣きそうになりながらしっかりと頷いたお手伝いさんを見て、飯野は迷わず外に向かう。 (このまま、坊っちゃまをこんな所に置いておく訳にはいかない……!このままでは本当に殺されてしまう……っ) 飯野は駆け足で玄関に向かうと、迷いない足取りで車に向かった。 車のロックを解除し、恭を後部座席に寝かせて自分は運転席に回り込む。 ロックをして、焦りつつシートベルトをする。 恐怖に手が震え、いつもはすんなりとシートベルトを出来るはずが、何度も失敗してしまう。 焦りつつ何度目かの挑戦でようやくシートベルトをし、車のエンジンをかける。 アクセルを踏み込もうとした所で、家の玄関が勢い良く開き、中から焦った様子の樹が飛び出して来た。 樹は今にも走り出そうとしている車に気付くと、慌てて駆け寄って来る。 乗っているのが飯野と恭だと分かったのだろう。 引き留めようと手を広げ、口を開いた。 「待て、飯野!恭をどこに連れて行くつもりだ!まさか、音羽のもとじゃないだろうな!?」 車の窓を締め切っていてもはっきりと聞こえる樹の怒声。 だが飯野は樹の質問には答える事なく、アクセルを踏み込んだ。 手を広げ、行く手を阻もうとしていた樹を避けて車の速度を上げた。 「坊っちゃまをここに置いておく訳にはいかない……!伏見さんに連絡をしなければ……!」 飯野はそう叫びながら、伏見の電話番号を呼び出し、電話をかけたのだった。 ◇ 「──飯野運転手だ」 「飯野さん?」 「ああ。こんな時間に何だろうな?」 伏見の実家。 夜、夕ご飯を食べ終わったあと、ダイニングでまったりとしている時間だった。 音羽の肩を抱き、他愛のない話をしていると、テーブルに置いてあった伏見のスマホが震えた。 不思議に思い、表示された名前を
「──あっ、ぅあっ」 「このっ、クソガキさえいなければ……!お前さえ生まれていなければっ!そうすれば私が依頼なんてしなかったのに……っ!」 バタバタ、と恭の小さな足が空中を蹴る。 その間にも裕衣の手の力は増して行く。 ギリギリ、と締め付けられる苦しさに恭の目には次第に涙が沢山溜まって来た。 「くそっ、くそ……っ!あの女に返してなんかやらない!あの女は、大事な息子を永遠に失って絶望しろっ!」 裕衣の叫び声が、意識も朦朧としだしている恭の耳にはしっかり届いていた。 どう言う事──。 恭はそう聞きたいが、息ができなくなり目の前が霞んでくる。 だが、その時。 廊下をドタドタと走る大きな足音が聞こえ、半開きだった扉が物凄い音を立てて開かれた。 「坊ちゃん!!」 飯野の悲痛な叫び声が聞こえた。 恭は聞きなれた飯野の声に「助かった」とほっとした。 だが、安心したからか恭の意識はそこでふつり、と切れてしまった。 ◇ 恭が危ない、とお手伝いさんに呼ばれた飯野は、急いで使用人部屋を出て恭の部屋に駆け付けた。 途中、樹と裕衣の夫婦の寝室の前を通る時、あまりの想像しさに樹が顔を出した。 だが、飯野は説明している余裕もなく、雇い主を無視して恭のもとへ走った。 嫌な予感に逸るような気持ちになりつつ、恭の部屋が見える所まで来た飯野は、部屋の扉が薄っすらと開いている事に気付き、最悪な結果を想像した。 「──奥様!」 叫びながら恭の部屋に転がり込んだ飯野は、信じられない光景を目にする。 裕衣が恭のベッドに乗り上げ、幼い子供を亡きものにしようとしているのだ。 幸い、恭は意識があったのだろう。 飯野が部屋に入るなり、恭の顔が僅かに自分に向いたのが分かった。 その事に安堵した飯野は、突然乱入してきた自分に驚いている様子の裕衣に体当たりをして突き飛ばした。 ドタン!と大きな音を立てて裕衣が床に落ちる。 その隙に飯野は気を失ってしまった恭を素早く抱き上げた。 「──飯野!」 「このまま、坊ちゃまをここに置いておく事は出来ません!!」 「お前っ!待て……!」 裕衣が物凄い形相で立ち上がり、飯野が抱いている恭に手を伸ばす。 飯野は裕衣から距離を取ると、その場から逃げ出そうとした。 「待ちなさい飯野!そのクソガキを寄越せ!殺してやる!」 裕衣は
──そうだ、あのガキさえいなければ。 ──誘拐が成功していれば。 (そうしたら……私がこんな思いをしないで済んだのに……っ) 裕衣はぎりっと奥歯を噛む。 ぐしゃぐしゃと髪の毛を掻き乱し、恨みの籠った視線を恭の部屋に向け続ける。 「……私がやってやる」 ぼそり、と呟いた声は信じられないほど低く、冷たい。 血走った目を恭の部屋に向け続けている裕衣を、この家にいるお手伝いさんは心配そうに見つめている。 樹は既に寝室に戻り、自分は締め出されてしまっている。 着替える事も出来ない。 だからといって、リビングで腫れ物に触るように扱われるなど裕衣のプライド的にそれは許せなかった。 「……私が、やってやるんだから」 「お、奥様……?」 何だか鬼気迫る。 そんな様子の裕衣に、お手伝いさんは恐る恐る裕衣に声を掛けた。 だが、裕衣の耳にお手伝いさんの声は届いていないのだろう。 ふらり、と体を揺らしながら裕衣が歩いて行く。 歩いて行く先は、恭の部屋がある。 「──〜っ」 お手伝いさんは顔を真っ青にすると、急いで飯野が寝泊まりしている使用人用の部屋に駆けて行った。 ◇ ぎいい、と扉が開く音が聞こえ、眠りに落ちていた恭は微睡みの中ぼんやりと目を開けた。 真っ暗な部屋の中、開いた扉から廊下の明かりが細く入り込んでいる。 「……だれ?」 恭は幼さの残る微睡んだ声で問いかける。 だが、恭の問いに扉を開けて入ってきた人物は返事をしない。 「……だれ、ですか」 その瞬間、恭の意識が一気に覚醒する。 何だか、怖い──。 急いでベッドから起き上がり、抱いていたぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。 逆光になってしまっているのか、扉から入ってくる人物は影に覆われていて誰だか顔が分からない。 だが、その影の華奢さや髪の毛が長い事が分かる。 (裕衣お母さんだ……) 恭はすぐにそれが誰か分かると、更にぬいぐるみをぎゅうっと抱きしめ、そっとベッドの端に向かう。 いつでもベッドから降りて、掛け出せるように。 もしもの時は、抱きしめているぬいぐるみを投げつけて、隙が出来たら走り出そう。 そして、大きな声で叫ぶのだ。 (今、僕が逃げ出そうとしたりしたら……あの人はきっと凄く怒る……だから、今はまだ様子見だ……。あの人が怖い事をしたら、逃げるんだ……!)
パーティー会場では、音羽と伏見の周囲には沢山の人が集まっていた。 大々的に噂を流してくれている波多野夫妻のお陰だろう。 彼らは、いかに音羽が息子を大切にして愛しているか。 そして、そんな音羽を大切に慈しむように支え、音羽の息子さえ包み込むように愛情深い伏見がどれだけ出来た人間か。 それを、大袈裟なほど周囲に語って聞かせていたのだ。 その話を聞いた参加者達は、音羽と伏見と少しでも話したい、と思い。 そして話してみると噂通り音羽は思慮深く、愛情に溢れ、出来た女性だ。 伏見もそんな彼女を丸ごと愛しているようで、愛おしそうに音羽を見つめている。 それに。 伏見の経営している会社は、最近急成長を遂げている。 玉櫛と付き合いのある取引先を次々買収していく財力と、豪胆な経営手腕。 その裏にあるのは、恐らく伏見が愛して止まない音羽のためだろう。 それは、誰が見ても明らかだ。 それらに興味を引かれ、野次馬の如くわらわらと群がる。 地位も財力もある人間は時間を持て余している。 刺激を欲している。 ようは、人生が退屈なのだ。 だからこそに刺激的な話を投げ入れてやれば、すぐに噂は広まるし、圧倒的な悪に対して正義感が強まる。 そこを刺激してやればいいのだ。 「我々も音羽さんの味方ですよ、息子さんを取り戻しましょう!」 「あなたの罪だってでっち上げだ」 「そもそも、玉櫛 樹、彼は昔から酷い荒れた生活をしていた。私の娘や妻も彼に酷い言葉を投げかけられた事だってある」 「玉櫛 樹と裕衣の罪を明らかにしてやりましょう!」 音羽と伏見はにこやかに答える。 「ありがとうございます」 「ですが、その気持ちだけ受け取らせていただきますね」 「彼らにきちんと罰を受けさせるのは、私たちが直接……」 音羽がそう口にすると、周囲の人間は「確かにそうですな」と納得してくれる。 音羽の心情も分かっているのだろう。 「それでは、我々は噂を流し、広める程度に抑えておきます」 「我が社は、玉櫛ホールディングスとの提携を見直させていただきます」 「そうだな、それがいい。我が社も玉櫛ホールディングスとの取引を見直します」 誰かが口にすれば、右に習えとばかりに同調する。 (反応は上々だな。これ以上ここに居る必要は無い) そう考えた伏見は、音羽の肩を抱き寄せてに
◇ 「恭ちゃん?」 「恭、どうした?」 「──あっ」 1年ほど前の事を思い出し、ぎゅうっと痛む胸を押えていた恭を心配そうに覗き込む音羽と伏見に、恭はぱっと顔を上げた。 今の自分には、名前を呼んでくれる人がいる。 心配をしてくれる人がいるんだ、と恭の胸は温かくなった。 自分を大切な宝物のように優しく、愛おしそうに抱きしめてくれている音羽にぎゅっと抱きついた恭は「すみません、何でもないです」と笑顔で答えた。 「お父さんが持っているテント、すっごい大きいですね!僕達、明日はこのテントで眠るんですか!?」 恭の表情が明るくなった事に胸を撫で下ろした音羽。 音羽は微笑みつつ「そう
「お母さん!お父さん!早く来てください!」 「待って恭ちゃん、手を繋いでおかなきゃ、迷子になっちゃうわ」 「早く早く!」 ショッピングモールの駐車場。 一足先に降りた音羽と恭。 恭は楽しくてしょうがない、といった様子でショッピングモールに早く入りたい!と駆け足をしている。 とても広いショッピングモールだ。 恭が迷子になってしまう可能性がある。 だから音羽は、先に行こうとしている恭に優しく声をかけると、しゃがんで恭と同じ目線になった。 「恭ちゃん。室内で走っては駄目よ?私達以外にも沢山お客さんがいるからね。もし恭ちゃんが誰かとぶつかってしまったら?恭ちゃんより小さい子とぶつ
◇ 恭が誘ってくれた、バーベキュー。 その日まで、あっという間に時間が過ぎた。 バーベキュー会場は、郊外にある大きな公園らしい。 その公園は週末になると沢山の家族連れが遊びに来て、バーベキューを楽しんだり、公園内にある川で川遊びをする人達で賑わうらしい。 その公園にはテントを張る事も出来るらしく、もし良ければ家族でテントを張り、お泊まりをしないか、と誘われたのだ。 バーベキューの準備に、テント泊の準備。 最初は全て伏見が手配してくれようとしていたが、電話をしていた恭が音羽と伏見と一緒に買い物をしたい、と可愛らしいお願いを口にしたのだ。 そんな可愛いお願いをされて、音羽が断る
◇ 「バーベキュー?」 「ええ、そうなんです蓮夜」 夜、離れ。 音羽は伏見が帰宅すると、彼を出迎えつつ夕方に恭から電話があった事。 それと、誘拐事件の時に巻き込まれた園児のお父さんからバーベキューに誘われた事を伝えた。 恭には、伏見の予定も聞いてからまた折り返し電話するね、と伝えていた。 音羽としては、せっかくの恭からのお誘いだ。 きっと、今まで「家族で出かける」と言う経験をした事がないだろう。 恭のお誘いにすぐに頷きたかった音羽だったが、3人で遊ぶのとは違う。 翔のお父さんは、音羽と伏見を「恭の両親」だと思い誘って来ているのだ。 音羽と伏見は「玉櫛 樹」と「玉櫛 裕







