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ー久しぶりの帰還②ー

last update Last Updated: 2025-04-03 23:00:00

小隊長になって2年。アドルフに切られた髪もいつの間にか元の長さに戻っている。

この2年は初めの半年と同様、ちぎっては投げちぎっては投げを繰り返して魔物を討伐してきた。

そのお陰もあってテントも1人で使えるようになったり、食事が以前より豪華になったり、色々なところで優遇されるようになった。最近は隊員の数も増えている。

そして私にも副隊長という部下ができた。それがずっと私に引っ付いてきていたルエルだ。書類仕事などが苦手な私はすごく助かっている。

「ルエル、今日の魔物討伐は何体倒せばいいんだ?」

「今日はBランクの魔物を50体ですね。」

「なんだか最近少なくないか?」

以前よりも魔物はへってきているもののまだまだ安心できるほど減っている訳では無いはずだ。

ここで何とか抑え込めているから、農村などの被害は今のところないが…。

「少なくないですよぉ!聞いてましたか?Bランクですよ?」

確かにBランクはほかC.Dランクの魔物よりも強いが、そんなに警戒する程だろうか…

私はルエルの話を聞き首を傾げる。

「あっ、そうっすよね…アドルフさんからしたら…Bランクの魔物も塵芥同然でした。でもこれだけは覚えておいてくださいね!あなた以外の隊員からするとBランクの魔物は相当強いんですよ!」

例えるならDランクが1とすると、Cランクが20、Bランクが50、Aランクが80、Sランクが100以上の強さらしい。

「そうだったのか…いつもランクとかあまり気にしていなかったから、知らなかったわ。」

いつも目の前にいる魔物を倒し続けてきただけにそこまで細かいことは気にしていなかった。

「はぁ。やっぱりそうでしたかぁ。まぁ、隊長は好きに動いてくださった方が合ってるんで今日それで行きましょう。好きなだけ討伐していただいていいんで。」

溜息をつきながら話すルエルに少しばかり申し訳ないと思ったが…まぁ倒す数が少ないよりは多い方がいいだろう。

「いつもありがとな。」

弟にするように頭を軽く撫でてやると、「隊長のためなんで…」なんて可愛いことを言うものだからワシャワシャと撫でてやった。

ルエルと話し終え、1人で歩いていると団長が近づいてくるのが見える。

「エルヴィール。」

こいつはこの2年ところ構わずエルヴィールと呼ぶのでバレないかいつもドキドキした。

「なんですか。外ではアドルフと呼ぶようにいつも言ってるじゃないですか。」

「少し話がある。今時間あるか?」

これから魔物を討伐しに行くくらいだし、少し時間があった私は「少しなら…」と返して団長のあとをついていく。

「それで、話ってなんですか。」

「お前これまで全然休んでないだろ。今回の任期は長いからな。一旦帰って家族に顔を見せてやれ。」

急な帰還命令に思わず吃驚してしまう。

「えっ!?いや、でも、まだ魔物も多いですし、残りますよ!」

正直帰れと言われてもどうしていいか分からない。家から追い出されたわけだし…

「いいから帰れ。まだ結婚したばかりだっただろ?」

「確かにそうですね。」

結婚してほとんどこっちに来ているからあっちがどうなっているのかは分からない。何度か手紙を送っているが返ってくる気配もない状態だ。

「明日から1週間やるから。ルエルに引き継いでから行けよ。」

「えっ。ちょっ…と…」

それだけ言うと、団長はこの場を去って行く。話そうと思ったのに聞く気はないらしい。

私は頭をガシガシと掻きながら、「わかりました」と返した。

確かにこのままずっとという訳にも行かないし仕方ない。一度アドルフと話した方が気持ち的にも楽になるだろう。そこまで深く考えてはいなかったが…

⟡.·*.··············································⟡.·*.

翌日。

私はルエルに一旦帰ってくることを伝えてから、戦場を離れた。

戦場を離れるのも数年ぶりだ。女騎士として働いていた時もここまで離れることは無かったし、出来れば実家にもよりたいところだが…

「実家に行ったらあの二人に何言われるか怖いところだな…」

馬車に揺られながら家までの帰り道をひたすら進む。

朝一で馬車に乗ったが、帰宅する頃には日が沈み始めていた。

馬車のおじさんに挨拶をして降りると、軽く伸びをする。

「長かったな…とりあえず帰るか…」

アドルフと住んでいた家へと進んでいく。

数年前に出た時と少しばかり道の雰囲気が変わっているが、そこまで大きな変化はなかったことに安心した。

そして家の前に着いた時…

アドルフが丁度扉を開けて家を出てくるところだったようで驚かしてやろうと体を隠す。

タイミングを見計らってアドルフの名前を呼ぼうとしたら…

「アド…」

アドルフに続いて、一人の女性と、二人の子供が扉から出てきた。

「…ルフ…」

4人でこちらへ進んでくる。

「パパ!今日の夜ご飯はなあに?」

「ママ!はやくはやく!」

戸締りをしていたのかあとから歩いてくる母親を呼ぶ2歳くらいの子供と、父親と手を繋いでご飯を聞いている5歳くらいの子供だろうか。

「今行くからパパと先行ってなさーい!」

そんな声が街中に響いていた。

そしてパパの顔は数年前に結婚したはずのアドルフだった…

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