小隊長になって2年。アドルフに切られた髪もいつの間にか元の長さに戻っている。
この2年は初めの半年と同様、ちぎっては投げちぎっては投げを繰り返して魔物を討伐してきた。
そのお陰もあってテントも1人で使えるようになったり、食事が以前より豪華になったり、色々なところで優遇されるようになった。最近は隊員の数も増えている。
そして私にも副隊長という部下ができた。それがずっと私に引っ付いてきていたルエルだ。書類仕事などが苦手な私はすごく助かっている。「ルエル、今日の魔物討伐は何体倒せばいいんだ?」
「今日はBランクの魔物を50体ですね。」
「なんだか最近少なくないか?」
以前よりも魔物はへってきているもののまだまだ安心できるほど減っている訳では無いはずだ。
ここで何とか抑え込めているから、農村などの被害は今のところないが…。「少なくないですよぉ!聞いてましたか?Bランクですよ?」
確かにBランクはほかC.Dランクの魔物よりも強いが、そんなに警戒する程だろうか… 私はルエルの話を聞き首を傾げる。「あっ、そうっすよね…アドルフさんからしたら…Bランクの魔物も塵芥同然でした。でもこれだけは覚えておいてくださいね!あなた以外の隊員からするとBランクの魔物は相当強いんですよ!」
例えるならDランクが1とすると、Cランクが20、Bランクが50、Aランクが80、Sランクが100以上の強さらしい。
「そうだったのか…いつもランクとかあまり気にしていなかったから、知らなかったわ。」
いつも目の前にいる魔物を倒し続けてきただけにそこまで細かいことは気にしていなかった。「はぁ。やっぱりそうでしたかぁ。まぁ、隊長は好きに動いてくださった方が合ってるんで今日それで行きましょう。好きなだけ討伐していただいていいんで。」
溜息をつきながら話すルエルに少しばかり申し訳ないと思ったが…まぁ倒す数が少ないよりは多い方がいいだろう。
「いつもありがとな。」 弟にするように頭を軽く撫でてやると、「隊長のためなんで…」なんて可愛いことを言うものだからワシャワシャと撫でてやった。 ルエルと話し終え、1人で歩いていると団長が近づいてくるのが見える。「エルヴィール。」
こいつはこの2年ところ構わずエルヴィールと呼ぶのでバレないかいつもドキドキした。「なんですか。外ではアドルフと呼ぶようにいつも言ってるじゃないですか。」
「少し話がある。今時間あるか?」
これから魔物を討伐しに行くくらいだし、少し時間があった私は「少しなら…」と返して団長のあとをついていく。「それで、話ってなんですか。」
「お前これまで全然休んでないだろ。今回の任期は長いからな。一旦帰って家族に顔を見せてやれ。」
急な帰還命令に思わず吃驚してしまう。
「えっ!?いや、でも、まだ魔物も多いですし、残りますよ!」
正直帰れと言われてもどうしていいか分からない。家から追い出されたわけだし…
「いいから帰れ。まだ結婚したばかりだっただろ?」
「確かにそうですね。」
結婚してほとんどこっちに来ているからあっちがどうなっているのかは分からない。何度か手紙を送っているが返ってくる気配もない状態だ。
「明日から1週間やるから。ルエルに引き継いでから行けよ。」
「えっ。ちょっ…と…」
それだけ言うと、団長はこの場を去って行く。話そうと思ったのに聞く気はないらしい。
私は頭をガシガシと掻きながら、「わかりました」と返した。確かにこのままずっとという訳にも行かないし仕方ない。一度アドルフと話した方が気持ち的にも楽になるだろう。そこまで深く考えてはいなかったが…
⟡.·*.··············································⟡.·*.翌日。
私はルエルに一旦帰ってくることを伝えてから、戦場を離れた。 戦場を離れるのも数年ぶりだ。女騎士として働いていた時もここまで離れることは無かったし、出来れば実家にもよりたいところだが… 「実家に行ったらあの二人に何言われるか怖いところだな…」馬車に揺られながら家までの帰り道をひたすら進む。
朝一で馬車に乗ったが、帰宅する頃には日が沈み始めていた。
馬車のおじさんに挨拶をして降りると、軽く伸びをする。「長かったな…とりあえず帰るか…」
アドルフと住んでいた家へと進んでいく。
数年前に出た時と少しばかり道の雰囲気が変わっているが、そこまで大きな変化はなかったことに安心した。そして家の前に着いた時…
アドルフが丁度扉を開けて家を出てくるところだったようで驚かしてやろうと体を隠す。 タイミングを見計らってアドルフの名前を呼ぼうとしたら…「アド…」
アドルフに続いて、一人の女性と、二人の子供が扉から出てきた。 「…ルフ…」4人でこちらへ進んでくる。
「パパ!今日の夜ご飯はなあに?」
「ママ!はやくはやく!」
戸締りをしていたのかあとから歩いてくる母親を呼ぶ2歳くらいの子供と、父親と手を繋いでご飯を聞いている5歳くらいの子供だろうか。「今行くからパパと先行ってなさーい!」
そんな声が街中に響いていた。そしてパパの顔は数年前に結婚したはずのアドルフだった…
騎士団に入ってから3年が経った。この3年は他の領地にある騎士団が魔物討伐に向かっているため、比較的平和な時間を過ごしていたように思う。騎士団に入ってから知ったことだが、この国では魔物討伐を率いる騎士団は領地ごとで順番になっていたようだ。たまたま私が行った時の魔物討伐部隊を率いていたのが自領のダグワール騎士団だったらしい。「団長、エルヴィール・アルデンテです。失礼いたします。」朝一で団長から呼び出された私は、急いで団長室へ向かう。「あぁ。待っていた。そこに座ってくれ。」団長に促されてソファに腰を掛けると、団長も前のソファに座った。「それで…話とは、何でしょうか?」最近、これといって呼び出されるようなことはしていないと思うのだが…確かに以前は訓練で女だとバカにしてきたやつを片っ端から倒していたが、それもかなり前の話で今は落ち着いている。今でも喧嘩を吹っかけてくるのは新兵くらいだ。「魔物討伐遠征に行くことになりそうなんだ。」「なんだ…そんなことか…また、何かしたのかと思っていたので安心しました。それで次の遠征期間はどのくらいでしょうか。」また5年とかかるのだろうか…それなら父さんたちに伝えてから行かないとまた大変なことになりそうだ。「…次は1年の予定だ。以前のように魔物が活性化しているわけではないし、調査してもし活性化しそうであれば早めに対処しておこうということになった。」1年なら、全然問題なさそうだ。活性化していないということであればそこまで強い魔物もいないだろう。「その、お前は寂しくないのか?ほら、俺に死んでほしくないと…以前言っていたじゃないか。」「なんで寂しくなるんです?それに今回の魔物討伐で死んでしまう予定があるのでしょうか…?」この人は何を言っているんだろうか。私も行くわけだし、寂しいも何もないと思うのだけど…確かに魔物討伐に行くのだ。急に
騎士団に入団してから1年が経った。入団してからすぐのころは確かに女だからとバカにされることが多かったが、いつからかバカにされることはなくなっていた。恐らく、アルデンテと家名を伝えれば初めからバカにされることはなかったのだろうと今になっては思う。「バルコ副団長。私のわがままで申し訳ございませんが、家名は伏せておきたいと思っています。」「どうして?エルの家名を伝えればほとんどの人が黙るはずだよ。」「だからですよ…やっぱりこれから長い付き合いになるわけですし、自分自身のことを見てほしいと思いまして…」アルデンテ一家の名前が偉大なのはここ数か月で何となくわかった気がするが、「アルデンテ家だから」と思われるのは少し嫌だったし、やっぱりエルヴィールとして見られたい。そう思ってこの一年はがむしゃらに頑張っていたら、いつの間にか、部隊長にまでなっていたのである…。そして、もう一つ…この一年は団長と約束していた通り、休みの日は一緒に食事をしたり、出かけたりした。この1年間で気づいた事といえば、団長は思っていた以上に抜けていることが多いということだった。仕事の時は皺やシミのない制服をきちんと着飾っているような人が、休みの日になると少しヨレっとした服を着ているという感じだろうか。きっと女性たちはこういったギャップに弱いのだろう。あとは食べ歩きをしているとトマトなどのシミがついてしまうことが多い…そんな姿もかわいいと感じる部分なのかもしれないが…普段のしっかりとした団長を知っている手前、なんだか少し恥ずかしい気持ちになってしまうことが強かった。今日もそんな団長と休みがかぶっているため、一緒に食事に行
「え?結婚ですか?」就職先がやっと決まり、明日から念願の騎士団で働けると喜んでいたのも束の間、団長が他にも話があると言うので待っていると、まさかの話だった…。「結婚ってあの結婚ですよね?」単刀直入過ぎて頭がショートする。離婚して半年は経ったが、まさか自分が告白されるなんて思っていなかった。いや、告白なのか?好きと言われた訳でもないが…「そうだ。その結婚だ…」もしかして早く結婚でもしろと言われているのだろうか。でも団長ならモテそうだし、女性が放っておかなさそうだが…「なぜ私なのでしょうか。団長でしたら引く手数多でしょう。」私はそのまま疑問に思ったことを直接聞く。バツイチだし、とうが立っているしどこもいい所がないと思うが…「お、お前のことが昔から好きなんだ。」好き!?私を?!昔って喧嘩しかしてなかったけど…。「はぁ。昔って喧嘩しかしていなかったと思いますが…そんな話とかしましたっけ?」「確かに、昔は喧嘩ばかりだったが、喧嘩の理由だってお前のことが多かったんだ。それにお前が楽しそうに喧嘩したり、魔物討伐している姿をみると胸が高鳴るというか…」え…?それはさすがに…「私に殴られたいってことですか?もしかしてそういう趣味をお持ちなんですか?」「ちがう!そうじゃない!ただお前の戦い方は清々しいほど真っ直ぐでかっこいいんだ。お前が戦っている姿を見てさらに惚れた。だから結婚してほしい。」何となく団長が言いたいことは、わかった。兎に角好きだから結婚したいということなのだろう。「私は、1度結婚に失敗しています。なのでもし次結婚するなら失敗はしたくないと思っています。」「あぁ…」結婚してみて思ったが、我慢する生活は良くないとつくづく思った。言いたいこと言ってお互いのことを尊重し合えるようなそんな関係がいい
応接室の中で待っているとガチャりと扉が開く音が聞こえる。私はその音が聞こえた瞬間立ち上がった。「待たせたな。」「とんでもないことでございます。こちらこそ、お忙しい中、急遽面接を行って頂きありがとうございます。」一言挨拶をしてから頭を下げる。「いい。頭をあげてくれ。それでは面接を始めようか。」「は…い…?あれ?だ、だ、だんちょう?」頭をあげると目の前には昨日も一緒にお酒を飲んでいたはずの団長が座っていた。「魔物討伐部隊では挨拶をしたが、ここでは初めてだったな。改めてオディロン・ダックワーズだ。ダックワーズ辺境伯領にあるダックワーズ騎士団長をしている。」団長が目の前にいることにびっくりしたが、自分も改めて挨拶しなくてはならないと思い、気を持ち直して挨拶をする。「改めまして。ダックワーズ団長。この度は面接の機会を頂きありがとうございます。私、エルヴィール・アルデンテと申します。先日、名誉なことに騎士爵を賜りました。特技は戦闘全般です。よ、よろしくお願いいたします。」「こちらこそよろしく頼む。仕事内容を話したいので座ってくれ。」いつも団長は鎧を着ていることが多かったからか、スーツを着ているのが少し新鮮だ。「失礼します。」私は団長に言われた通り、ソファに座ると団長も私の前に腰を下ろした。⟡.·*.··································&m
「いたたたたた…」昨日途中までは皆で騒いでいたのを覚えているけどいつの間にか寝てしまっていたようだ。椅子で寝てしまったせいか腰と頭がすごく痛い。頭は二日酔いのせいだろう…。周りにもそのまま寝てしまったのかイカつい男たちが店の中で雑魚寝している。少し伸びをしてから立ち上がり首や肩を軽く回すと、隣で眠っていたルエルが目を覚ました。「すまん、起こしたか?」「そんなことないですよ。おはようございます。隊長。」ルエルも横で伸びをする。そろそろ仕込みが始まる時間なのか、父さんたちも起きてきたようだ。「おい、お前らそろそろ起きろ。」「あぁぃぃ。おはようございます。」少し大きい声でみなに聞こえるように声をかけるとのそのそと起き上がる。団長と副団長が居ないところを見ると昨夜のうちに帰ったようだ。「そろそろ開店準備をする時間だから帰れ。」少し眠いのか目が空いていない人や二日酔いで頭を押えているものがいる。「ルエルは大丈夫なのか?」「僕は大丈夫ですよー!隊長こそ、昨日話したこと覚えてますか?」ルエルは昔からやたらと酒が強かった。皆が酔っ払っていてもそれを見ながら笑っているくらいでケロリとしている。「あぁ、準備が出来たら地図のところに向かうよ。」「よろしくお願いしますね!門番に僕の紹介できたことを伝えてもらえれば入れますんで!それじゃあ、そろそろお暇します。」「わかった。こちらこそよろしく頼む。また後でな。」面接の時に会えるか分か
「アドルフの話はこのくらいにしておいて、そろそろ隊長の話を聞きたいです。隊長は仕事決まったんですか?」「わ、わ、私か!?仕事はな…見つかりそうではあるのだが…」4人がこちらを同時にみて「やっぱりまだ見つかっていないのか…」というような顔をしてくる。失礼な奴らだ。今まで全く求職活動をしてこなかったわけではないんだ。ただ、自分に見合う仕事がなかった…というだけのこと。「そうなんですねー。見つかりそうだったならよかったです。もし見つかっていないのであれば、以前お話していたお仕事を紹介しようかなと思っていたんですけど…」ルエルはこちらをチラチラ見ながら話してくる。この顔は本当は紹介してほしいんでしょ?という目だ。「ゴホン。ル、ルエルもしよければ参考までに、その仕事の内容だけでも教えてくれないか?」「えぇ。参考ですか?そんなの面倒くさいですよ!守秘義務というのもありますし、ここではお伝えは難しいですね。それに隊長は仕事見つかりそうなんですよね?でしたら必要ないじゃないですか。」「た、たしかにそうなんだが…な…その…すまない…仕事はまだ決まっていないんだ…」正直言ってルエルが仕事を紹介してくれるというのは渡りに船だった。半年間色々面接は受けたもののうまくいかず、最近では本当に仕事ができるのかさえ不安になってくる始末だ。「最悪、自分で傭兵団を作るのかもありかなと思っていたところだ。」傭兵団に入ることも何度か考えたが、女性が入れる傭兵団は限られておりあまりいい噂を聞かな