皆の声が煩いなと思っていたが、どうやらこの騒ぎを聞きつけて団長まで近付いてきた。
「お前たちうるさいぞ。そしてこの騒ぎの中心にいるのは…またお前か?アドルフ…」
「あぁ、ダックワーズ団長じゃないですか。」
なぜご飯をゆっくり食べさせてくれないのか溜息を着いていると、ヘッディーが息を吹き返したのか話し出した。
「お前、ラウルとマウロと兄弟っていうのは本当なのか?」
「あぁ、本当ですよ。私…じゃなかった。ラウルの弟で、マウロの兄ですね。何故か俺のところにだけ手紙が来なくてあとから参加になったんですが…」
「そうか…あの二人もかなり強かったが、あの二人と兄弟だと聞くと納得だな。線が細いのにどこに力があるのかと思っていたが納得だ。」
あの二人の話を信じて魔物討伐をしていたため一日100体は倒さないといけないものだと思っていたが…どうやら違ったらしい…。
帰ったらあの二人にはきちんと制裁をくらわしてやろうと思っていると、先程まで話を聞いていた団長が急に話し出した。
「なるほどな…おい、アドルフ。少し話がある。後で俺のテントに来い。」 「えっ!?夜のお相手はちょっと…」 「んなわけあるか!バカもの。飯が食べ終わってからでいい。」それだけ言うと、団長はテントに戻って行った。
団長がご飯を食べ終わってからと言うので、ゆっくり楽しんだあと、私は団長のテントへ向かった。
「ダックワーズ団長!アドルフです。」「あぁ…遅かったな。入れ。」
テントの扉が開いたので失礼しますと声をかけてから中に入る。
「それで、話とはなんでしょうか!」
「なに…そんな難しい話ではないんだが。お前明日から小隊長になれ。」
「えっ!?俺がですか?」
半年で小隊長とは…スピード出世じゃないだろうか…
「あぁ。あの二人と兄弟ということなら納得だ。あと、1つ…あの2人の真中の兄弟は確か女だったはずなんだがな…エルヴィール。」
「えっ!?なんで私の名前を…!?あっ…違います…俺はアドルフです。」 思わず私の名前が出て焦ってしまった。なんで団長が私の名前を知っているんだ?「フン。俺の顔を忘れたとは言わせんぞ。お前ら兄弟に何度殴られてきたと思っている。まぁ、お前のことも何度も殴ったがな…」
色んなやつと喧嘩してきたからそう言われても思い出せない…が…確か1人やたら私のことを殴る奴がいたな。そいつも同じような顔をしていたような…
「も、もしかして隣町の暴力小僧か!?」「暴力と言うな。お前も俺に暴力を振るっていただろうが。全く…で、なんでお前がいる?」
思わず思い出したことをそのまま伝えてしまった私は話したあと、口を押えた。「い、いや、俺はただのアドルフであって、エルヴィールなんて名前じゃありません。」
お互い沈黙の時間が過ぎていきとても気まずい雰囲気の中、団長が話し出した。
「もういい。ここに来た理由についてはまた後日聞こう。取り敢えず女性がここにいるのはまずいんだが…まぁ、お前のことだ。帰れと言っても帰らんのだろ?」
「はい!任期満了まで居ます。」
「わかった。なら早めに隊長になって名前を上げておけ。そしたら女とバレてもそこまでバカにされることは無いだろう。」
自分のこめかみをおさえながら話す団長は、眉間にシワがよっているものの、かっこよく感じる…はずなのだが、昔の暴力ぐあいをしっているからか全くときめかなかった。
「ありがとうございます。団長。」
女性とバレてしまったことは仕方ないが、周りに伝えないでおいでくれるのがありがたい。 とりあえず素直にお礼だけ伝えて、テントを出た。 そして小隊長となり、あっという間に2年という月日が流れた。 ⟡.·*.··············································⟡.·*.オディロン・ダックワーズ視点
「本当にこのままでよかったんですか?」
「ルエルか。とりあえずこのままで構わないが引き続きエルヴィールが無茶しないか見張っててくれ。」
あいつを初めて見かけた時、なんでここにいるのかとびっくりした。しかも、男としてこの討伐部隊に参加していたのだ。
ラウルから、エルヴィールが結婚をしたと聞いて、あのジャジャ馬娘もついに結婚かと高い酒を飲んで幸せを祈ったものである。
昔から町娘の中でも顔が整っているにもかかわらず、ガサツで女らしさの欠片もなかった。
ブラウンの髪をポニーテールにして青い目を眠たそうに半開きにしながら歩いている姿が印象的な少女だ。喧嘩の時だけは意気揚々と動き出し始めるので、そこに惚れるやつはいたかもしれないが…。きっと男よりも女にもててる方が多かっただろう。
「バルコ。お前には申し訳ないが一度戻ってアドルフについて調べて欲しい。なんであいつがここに来ることになったかもな…」
「わかった。オディの頼みだ。調べてくるよ。」
「毎回悪いな。あとこの手紙もラウルに渡してきて欲しい。」
手紙を渡すとバルコはテントを出て早速動いてくれるようだ。
俺は目を隠しながら
「あいつが死ぬことは無いと思うが…もしなにかあったらあの兄弟が怖いな…」あいつらがキレるとろくな事にならないことを知っている俺は何事も無く残りの時間を過ごせるようにただ祈ることしか出来なかった。
騎士団に入ってから3年が経った。この3年は他の領地にある騎士団が魔物討伐に向かっているため、比較的平和な時間を過ごしていたように思う。騎士団に入ってから知ったことだが、この国では魔物討伐を率いる騎士団は領地ごとで順番になっていたようだ。たまたま私が行った時の魔物討伐部隊を率いていたのが自領のダグワール騎士団だったらしい。「団長、エルヴィール・アルデンテです。失礼いたします。」朝一で団長から呼び出された私は、急いで団長室へ向かう。「あぁ。待っていた。そこに座ってくれ。」団長に促されてソファに腰を掛けると、団長も前のソファに座った。「それで…話とは、何でしょうか?」最近、これといって呼び出されるようなことはしていないと思うのだが…確かに以前は訓練で女だとバカにしてきたやつを片っ端から倒していたが、それもかなり前の話で今は落ち着いている。今でも喧嘩を吹っかけてくるのは新兵くらいだ。「魔物討伐遠征に行くことになりそうなんだ。」「なんだ…そんなことか…また、何かしたのかと思っていたので安心しました。それで次の遠征期間はどのくらいでしょうか。」また5年とかかるのだろうか…それなら父さんたちに伝えてから行かないとまた大変なことになりそうだ。「…次は1年の予定だ。以前のように魔物が活性化しているわけではないし、調査してもし活性化しそうであれば早めに対処しておこうということになった。」1年なら、全然問題なさそうだ。活性化していないということであればそこまで強い魔物もいないだろう。「その、お前は寂しくないのか?ほら、俺に死んでほしくないと…以前言っていたじゃないか。」「なんで寂しくなるんです?それに今回の魔物討伐で死んでしまう予定があるのでしょうか…?」この人は何を言っているんだろうか。私も行くわけだし、寂しいも何もないと思うのだけど…確かに魔物討伐に行くのだ。急に
騎士団に入団してから1年が経った。入団してからすぐのころは確かに女だからとバカにされることが多かったが、いつからかバカにされることはなくなっていた。恐らく、アルデンテと家名を伝えれば初めからバカにされることはなかったのだろうと今になっては思う。「バルコ副団長。私のわがままで申し訳ございませんが、家名は伏せておきたいと思っています。」「どうして?エルの家名を伝えればほとんどの人が黙るはずだよ。」「だからですよ…やっぱりこれから長い付き合いになるわけですし、自分自身のことを見てほしいと思いまして…」アルデンテ一家の名前が偉大なのはここ数か月で何となくわかった気がするが、「アルデンテ家だから」と思われるのは少し嫌だったし、やっぱりエルヴィールとして見られたい。そう思ってこの一年はがむしゃらに頑張っていたら、いつの間にか、部隊長にまでなっていたのである…。そして、もう一つ…この一年は団長と約束していた通り、休みの日は一緒に食事をしたり、出かけたりした。この1年間で気づいた事といえば、団長は思っていた以上に抜けていることが多いということだった。仕事の時は皺やシミのない制服をきちんと着飾っているような人が、休みの日になると少しヨレっとした服を着ているという感じだろうか。きっと女性たちはこういったギャップに弱いのだろう。あとは食べ歩きをしているとトマトなどのシミがついてしまうことが多い…そんな姿もかわいいと感じる部分なのかもしれないが…普段のしっかりとした団長を知っている手前、なんだか少し恥ずかしい気持ちになってしまうことが強かった。今日もそんな団長と休みがかぶっているため、一緒に食事に行
「え?結婚ですか?」就職先がやっと決まり、明日から念願の騎士団で働けると喜んでいたのも束の間、団長が他にも話があると言うので待っていると、まさかの話だった…。「結婚ってあの結婚ですよね?」単刀直入過ぎて頭がショートする。離婚して半年は経ったが、まさか自分が告白されるなんて思っていなかった。いや、告白なのか?好きと言われた訳でもないが…「そうだ。その結婚だ…」もしかして早く結婚でもしろと言われているのだろうか。でも団長ならモテそうだし、女性が放っておかなさそうだが…「なぜ私なのでしょうか。団長でしたら引く手数多でしょう。」私はそのまま疑問に思ったことを直接聞く。バツイチだし、とうが立っているしどこもいい所がないと思うが…「お、お前のことが昔から好きなんだ。」好き!?私を?!昔って喧嘩しかしてなかったけど…。「はぁ。昔って喧嘩しかしていなかったと思いますが…そんな話とかしましたっけ?」「確かに、昔は喧嘩ばかりだったが、喧嘩の理由だってお前のことが多かったんだ。それにお前が楽しそうに喧嘩したり、魔物討伐している姿をみると胸が高鳴るというか…」え…?それはさすがに…「私に殴られたいってことですか?もしかしてそういう趣味をお持ちなんですか?」「ちがう!そうじゃない!ただお前の戦い方は清々しいほど真っ直ぐでかっこいいんだ。お前が戦っている姿を見てさらに惚れた。だから結婚してほしい。」何となく団長が言いたいことは、わかった。兎に角好きだから結婚したいということなのだろう。「私は、1度結婚に失敗しています。なのでもし次結婚するなら失敗はしたくないと思っています。」「あぁ…」結婚してみて思ったが、我慢する生活は良くないとつくづく思った。言いたいこと言ってお互いのことを尊重し合えるようなそんな関係がいい
応接室の中で待っているとガチャりと扉が開く音が聞こえる。私はその音が聞こえた瞬間立ち上がった。「待たせたな。」「とんでもないことでございます。こちらこそ、お忙しい中、急遽面接を行って頂きありがとうございます。」一言挨拶をしてから頭を下げる。「いい。頭をあげてくれ。それでは面接を始めようか。」「は…い…?あれ?だ、だ、だんちょう?」頭をあげると目の前には昨日も一緒にお酒を飲んでいたはずの団長が座っていた。「魔物討伐部隊では挨拶をしたが、ここでは初めてだったな。改めてオディロン・ダックワーズだ。ダックワーズ辺境伯領にあるダックワーズ騎士団長をしている。」団長が目の前にいることにびっくりしたが、自分も改めて挨拶しなくてはならないと思い、気を持ち直して挨拶をする。「改めまして。ダックワーズ団長。この度は面接の機会を頂きありがとうございます。私、エルヴィール・アルデンテと申します。先日、名誉なことに騎士爵を賜りました。特技は戦闘全般です。よ、よろしくお願いいたします。」「こちらこそよろしく頼む。仕事内容を話したいので座ってくれ。」いつも団長は鎧を着ていることが多かったからか、スーツを着ているのが少し新鮮だ。「失礼します。」私は団長に言われた通り、ソファに座ると団長も私の前に腰を下ろした。⟡.·*.··································&m
「いたたたたた…」昨日途中までは皆で騒いでいたのを覚えているけどいつの間にか寝てしまっていたようだ。椅子で寝てしまったせいか腰と頭がすごく痛い。頭は二日酔いのせいだろう…。周りにもそのまま寝てしまったのかイカつい男たちが店の中で雑魚寝している。少し伸びをしてから立ち上がり首や肩を軽く回すと、隣で眠っていたルエルが目を覚ました。「すまん、起こしたか?」「そんなことないですよ。おはようございます。隊長。」ルエルも横で伸びをする。そろそろ仕込みが始まる時間なのか、父さんたちも起きてきたようだ。「おい、お前らそろそろ起きろ。」「あぁぃぃ。おはようございます。」少し大きい声でみなに聞こえるように声をかけるとのそのそと起き上がる。団長と副団長が居ないところを見ると昨夜のうちに帰ったようだ。「そろそろ開店準備をする時間だから帰れ。」少し眠いのか目が空いていない人や二日酔いで頭を押えているものがいる。「ルエルは大丈夫なのか?」「僕は大丈夫ですよー!隊長こそ、昨日話したこと覚えてますか?」ルエルは昔からやたらと酒が強かった。皆が酔っ払っていてもそれを見ながら笑っているくらいでケロリとしている。「あぁ、準備が出来たら地図のところに向かうよ。」「よろしくお願いしますね!門番に僕の紹介できたことを伝えてもらえれば入れますんで!それじゃあ、そろそろお暇します。」「わかった。こちらこそよろしく頼む。また後でな。」面接の時に会えるか分か
「アドルフの話はこのくらいにしておいて、そろそろ隊長の話を聞きたいです。隊長は仕事決まったんですか?」「わ、わ、私か!?仕事はな…見つかりそうではあるのだが…」4人がこちらを同時にみて「やっぱりまだ見つかっていないのか…」というような顔をしてくる。失礼な奴らだ。今まで全く求職活動をしてこなかったわけではないんだ。ただ、自分に見合う仕事がなかった…というだけのこと。「そうなんですねー。見つかりそうだったならよかったです。もし見つかっていないのであれば、以前お話していたお仕事を紹介しようかなと思っていたんですけど…」ルエルはこちらをチラチラ見ながら話してくる。この顔は本当は紹介してほしいんでしょ?という目だ。「ゴホン。ル、ルエルもしよければ参考までに、その仕事の内容だけでも教えてくれないか?」「えぇ。参考ですか?そんなの面倒くさいですよ!守秘義務というのもありますし、ここではお伝えは難しいですね。それに隊長は仕事見つかりそうなんですよね?でしたら必要ないじゃないですか。」「た、たしかにそうなんだが…な…その…すまない…仕事はまだ決まっていないんだ…」正直言ってルエルが仕事を紹介してくれるというのは渡りに船だった。半年間色々面接は受けたもののうまくいかず、最近では本当に仕事ができるのかさえ不安になってくる始末だ。「最悪、自分で傭兵団を作るのかもありかなと思っていたところだ。」傭兵団に入ることも何度か考えたが、女性が入れる傭兵団は限られておりあまりいい噂を聞かな