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第1295話

Author: 夜月 アヤメ
もし、この出所不明の妊娠報告書とDNA鑑定の結果だけなら、修の心にはまだ少しだけ疑いが残っていたかもしれない。

だが、今こうして千景がはっきりと「暁はお前の息子だ」と告げたことで、そのわずかな疑念も一瞬で消えていった。

残ったのは、果てしない痛みだけだった。

修はかつて、暁が自分の息子だったらどうなるんだろう、と想像したことがある。

もしかしたら、暁が本当に自分の息子かもしれない―そんな淡い希望を抱いたこともあった。

けれど、若子との間に起きたすべてのことを思い出すと、修は怖くなった。

もし自分の思い違いだったら―もし、またひとりよがりだったら、どうしたらいいのか分からなかった。

アメリカで偶然再会したあのとき。

三人でレストランのテーブルを囲みながら、修は目の前で西也と暁がまるで本当の親子のように並ぶ姿を見ていた。

その瞬間、修の中に浮かんだ第一印象は「若子は西也との間に子どもを作ったんだ」ということだった。

若子はあのとき、何も否定しなかった。

修はそれを彼女が認めた証拠だと思い込み、それ以来ずっと暁は西也の息子だと信じ込んできた。

修はこれまで暁と接してきた時間を思い出した。

暁が幼い声で自分を「パパ」と呼んだときも。

きっと子どもだから、意味も分からず適当に呼んだんだろう―そう思っていた。

でも、今になって「パパ」というその言葉が、まるで運命を決める呪いみたいに聞こえた。

本当に自分が父親だったなんて。

修の体はまるで重い石の塊になったみたいに動かなくなった。

顔色は真っ青に変わり、唇はひび割れ、額には冷たい汗がにじみ出る。

ひと呼吸ごとに、胸の奥を針が何本も突き刺すような痛みが走った。

「なぜだ......若子、どうして最初から教えてくれなかった?」

千景が口を開いた。

「なぜ彼女が黙っていたのか―お前だって、本当は分かってるんじゃないのか?噂によれば、お前は他の女のために彼女と離婚したんだろう?離婚しようってときに、自分が妊娠したなんて伝えられるか?」

「それでも、俺に言うべきだった!」修は頭を上げて叫ぶように吠えた。

「もし言ってくれていたら、絶対に離婚なんてしなかった!」

「ははっ」

千景は突然笑った。

「修、お前、まさかこの全てを若子のせいにしようとしてるのか?若子は、そんなに自分のプライドを捨
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Comments (3)
goodnovel comment avatar
ポッポ
成也は確かに闇の人に脅されているけどそれがノラだってことは知らないですよね? 元々が人としてあり得ないことばかりをやってきたけれど暁をどうこうするほど腐った人ではないと信じてます。 そして修は千景とタッグを組んで1日でも早く若子を奪還しノラを監獄へと追いやってください!
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barairose88
この日をどんなに待っていたか… 修、暁ちゃんとの親子関係をやっと知り得ました。 それがノラの作為でも構いません。 修、若子はあなた一筋でした。 暁ちゃんのパパはあなただけです! 千景、若子の悔しい切ない言葉を代弁してくれてありがとう。  修に真実を伝えてくれてありがとう。 修は、まだ若子の最後の言葉から立ち直れない… でも千景のリードで、あの映像から、西也のこと、雅子のこと、すべての真実を知るはずです! 修、その時はもう絶対に間違えない!  リベンジですよ。 千景と手を携え、まずは暁ちゃんを取り戻す! そしてノラを追い詰め、若子を救い出すのです!
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シマエナガlove
修にバレた 若子への憎しみが愛情より深くなりそう 修早く子供引き取って 西也に殺されたり 遠くに放置されるかも 西也は悪魔だよ
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