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第1331話

Author: 夜月 アヤメ
「はあ」

ノラはうなだれて、少しがっかりした様子で言った。

「お姉さん、僕の心を傷つけないでくれませんか。動画がどこにあるか知ってるのは僕だけなのに、僕が怒ったら渡さないですよ。そうしたら、どうやって遠藤さんを始末するつもりです?」

「......」

若子は怒りで声を震わせる。

「じゃあ、どうしたいの?」

「ただ、お姉さんとおしゃべりしたいだけです。今はもう遠藤さんは除外されたし、次は冴島さんと藤沢さん、どっちを選びます?」

「じゃあ、あなた選べばいい?この変態!」

若子は電話をぎゅっと握りしめ、歯を食いしばって言った。

ノラは目を丸くして。

「お姉さん、そんなふうに言われると嬉しいですね」

内心では嘘だと分かっていても。

「ノラ、お願いだから動画を渡して」

若子が懇願する。

「お姉さんは冴島さんのことがすごく好きなんですよね?あの人が死んだ時、絶望して、魂が抜けたみたいになってたんじゃないですか?」

若子の手は小刻みに震えていた。

ノラは続けた。

「ねぇ、そうでしょ?正直に教えて」

「そうだったらどうなの?私は冴島さんが好き。それで満足?」

ノラの顔に満足そうな色はなく、むしろ少し落ち込んで見えた。

「結局、あの人が後から現れて、僕を追い越したんだ。本当にむかつく。死んでくれたらいいのに」

若子はすぐに言い返す。

「彼は死なない。絶対に元気で生きてる!」

「そうですか?」

ノラは皮肉げに微笑んだ。

「お姉さん、これから何が起こるかわかりませんよ。もしかしたら、次こそ本当に死ぬかも。一人の人生で、何回も死線をくぐれるわけじゃない」

「ノラ、あなたみたいな人間、本当に哀れだわ。もし動画を渡す気がないなら、もういい。これが最後、あとはずっと牢屋にいれば?」

若子が電話を切ろうとした時、ノラは慌てて口を開く。

「住所を教えますよ。そこに行けばスマホがあります。中に動画が入ってます」

若子は電話を切る手を一瞬止め、すぐに尋ねた。

「どこ?」

......

若子はノラから住所を手に入れた。

修は車の中で若子を待っていた。

「若子、どうだった?」

「大丈夫」

若子は一枚のメモを差し出す。

「これ、ノラが教えてくれた住所。スマホがそこにあって、中に動画があるらしい。探しに行こう」

若子がどこか上の空なのに
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Comments (5)
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シマエナガlove
生みの真実わかると 若子に執着した 拉致監禁やりそうだし 早く逮捕されて実刑確定して欲しいんだけど
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barairose88
この場に及んで、若子が修と、千景どちらを選ぶか…その展開に不快感です。 暁ちゃんもちゃんと知っています。 パパとママが一緒!なのです。 書き手の方が、今更この選択を蒸し返す意味も分かりません。 千景は、殺し屋です! 千景は本当にとてもとても良い人ですが、あまりにもその手は汚れています。   いずれ若子と暁ちゃんを危険に晒す可能性があります。 若子も命をかけた一連のやり取りで、修への思いを再認識したはず… ノラに誘導されても、惑わされないで! 光莉に関しては、言語道断!怒りしかありません。 読み手が曜より、成之より一番許せない大人です。 さて西也、白日のもとにあなたの罪は暴かれます!
goodnovel comment avatar
むーちゃん
もう、修エンドでいいのでは?
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