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第830話

Author: 夜月 アヤメ
花はウキウキしながら、成之の家に向かった。

玄関で使用人に尋ねると、彼は部屋にいるとのことだった。

花はすぐに階段を駆け上がり、部屋の前で扉を叩く。

「おじさん!おじさん!」

扉が開き、スーツ姿の成之が姿を現した。

「どうした?」

「おじさん!若子が出産しました!男の子です!母子ともに元気です!」

「......本当か?」

成之の顔がぱっと明るくなる。だが、すぐに表情を引き締めた。

「......なぜ俺に知らせがなかった?」

「えっと......今、私が知らせに来ました!」

「そうじゃない。西也がなぜ電話をよこさなかったんだ?」

成之は思案する。

―前に西也に言ったあの言葉のせいで、まだ怒っているのか?

「お兄ちゃんが私に知らせるようにって......でも、どうして自分で連絡しなかったのかはわからないんです。たぶん、彼も忙しかったんでしょ。治療を受けながら、若子の世話もしなきゃいけないので......」

そう言いかけて、花自身も少し言葉に詰まった。

―でも、電話一本くらいならすぐできるのに......お兄ちゃんはやっぱり少し変だ。

成之はそれ以上追及せず、穏やかに頷いた。

「まあ、どちらにせよ、無事に生まれたのならそれでいい」

「おじさん!若子は私のいとこだから......若子の子どもは私の......えっと......」

花は目をくるくるさせながら考え込んだ。

―なんて呼べばいいの!?

成之はくすっと笑い、優しく答える。

「お前は従叔母になるな。そして、若子の息子はお前の甥だ」

「ああ、そうそう、それです!」

花は頭をぽりぽりとかきながら苦笑する。

「こういう呼び方、ややこしくておじさんじゃなきゃわからないですね......あ、じゃあその子はおじさんのことを何て呼ぶんですか?」

このあたりで完全に混乱してきた。

成之は落ち着いた口調で答える。

「若子が俺の兄の娘だから......彼女の子どもは俺にとって甥孫にあたる。そして、俺は大叔父だな」

「うぅ......なんかもう頭がこんがらがってきました......!」

花は頭を抱えながら、複雑すぎる親族関係にめまいを感じていた。

「でも、お兄ちゃんの奥さんってだけなら、若子が私のいとこで、つまり
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