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第870話

Author: 心温まるお言葉
眼前には黒山の人だかり、霜村東邦を筆頭とする霜村家の人々が立ち並んでいた……

涼平が言っていた三男のお爺さんや叔母さん、そして和泉夕子がよく知らない、結婚式でただ一度会っただけの人々も……

この人々は和泉夕子を見るなり、目に突然憎しみの光を宿した。まるで飛びかかって彼女の血肉を貪り食らいたいかのような憎悪だった。

そのような憎悪の視線に見つめられ、和泉夕子の背中には冷や汗が噴き出し、瞬く間に服を濡らしていった……

霜村東邦は龍の頭の杖をつきながら和泉夕子の前に立ち、鋭い目で彼女を上から下まで眺めた。

「お前を和泉さんと呼ぶべきか、それとも春日さんと呼ぶべきか?」

大野皐月はやはり老人に話したようだ。

和泉夕子はスマホを握りしめながら、振り返って相川泰を見た。

車の中に座っていた相川泰は、すでに霜村冷司にメッセージを送っていた。

彼は和泉夕子が自分を見ているのに気づき、急いで彼女に頷いた。

意思が通じた和泉夕子は、ようやく勇気を奮い起こし、霜村東邦に向き直った。

「おじいさま、まずは中に入りましょう……」

「やめろ!」

霜村東邦は手を上げて制止した。「おじいさまと呼ぶな、お前のような孫の嫁などいらん」

和泉夕子は心が少し詰まったが、良い感情を保ちつつ、穏やかに応じた。「では霜村爺さんとお呼びしましょう」

感謝の気持ちを示さない霜村東邦は、冷たく鼻を鳴らした。「お前が何と呼ぼうと、お前が春日家の者だという事実は変わらん。言え、名前を変え、うちの冷司に近づき、あの手この手で彼の妻になった目的は何だ。霜村家を混乱させるためか、それとも霜村家の全財産を奪うためか?」

和泉夕子は一瞬呆然としたが、すぐに我に返った。「霜村爺さん、私は小さい頃からA市の孤児院で育ちました。名前は院長先生がつけてくれたもので、身分証も院長先生に作っていただいたものです。私は和泉夕子と言い、一度も名前を変えたことはありません。信じられないなら、調べてみてください。すべて記録に残っています」

霜村東邦は全く信じていない様子だった。「春日家の身分偽装は一流だ。一度だまされたが、二度目はないぞ」

一度だまされたとはどういうことか。春日家の誰かが偽の身分で霜村家に潜入したことがあるのだろうか?

和泉夕子は疑問に思ったが、今はそれを深く追求する余裕はなかった。「霜村爺さん、
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Comments (2)
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シマエナガlove
老害や霜村その他使えない奴ら 黙って国外で静かにしてろよ この老人監禁状態だったのに なぜ国内に来てる? 大野も冷司激怒させて 死にたいみたいだから 早く処刑されて下さい
goodnovel comment avatar
シマエナガlove
孤児に責任追及するのは 間違ってる なんの恩恵も受けてないけど 追及するなら春日家にしろよ どうせ老害は何にもできないから 夕子に責任転換してるんだろうけど 冷司が来たら 老害消される
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