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第 1082 話

Author: 水原信
州平は膝を片方つき、胸元の青いバラを手に取ると海咲に差し出した。

「海咲さん、あなたが好きです。愛しています。一生、いや来世でもあなたを愛し続けます。どうか僕に、あなたを守り、大切にし、愛し抜く許しをください」

その声は穏やかで優しく、一言一句が心に深く響いた。海咲はすでに涙に濡れた顔でバラを受け取り、何度も頷いた。そしてしばらくして、ようやく声を絞り出した。

「はい、お願いします」

その言葉を聞いた瞬間、州平は立ち上がり、彼女を抱きしめたままその場でくるくると回り出した。この瞬間、まるで時間が二人のためだけに存在しているかのようだった。二人は互いに抱きしめ合い、相手の心音を静かに感じ取ってい
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