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10.婚約解消?迷う啓介

last update Dernière mise à jour: 2025-05-19 18:40:58
「今日、うちに泊まらない?」

佳奈から誘われて家に行くことになった。

リビングのソファでワインを飲みながら二人はくつろいでいた。テレビは消され静かな時間が流れている。

しかし、啓介は母と食事に行くことを伝えたが「楽しんできてね」と自分は行く気がない素振りをした佳奈に対して、啓介はこのまま結婚を進めることに不安を持っていた。

「さっきから何を考えているの?」

啓介が何か考え事をしていることに気づき、佳奈は尋ねた。

「いや、何でもない」

「嘘。はっきり言って」

「……仕事のことで少し考えていたんだ。」

「そうなんだ?ねえ、婚前契約書の事なんだけれどね」

「ごめん、今日はちょっと疲れてしまったから、また今度でもいいかな?」

「あ、うん。別にいいけど……」

佳奈は一瞬、驚いた顔をしたもののすぐに穏やかな表情に戻った。

「来週から頑張れるように今日はゆっくりしようか。」

啓介の隠された不安とは裏腹に、佳奈は腕を絡ませて抱きついてきた。ソファに座る啓介の上に跨り優しくキスをする。唇はおでこやまぶた、耳、頬と少しずつ場所をずらし労わるように愛撫していく。

「そろそろ寝ようか。」

佳奈は啓介を起こしソファから立ち上がる。指を絡ませ恋人繋ぎをしながら寝室へ向かう。そして、男女の甘い時間が始まった。

土曜日、佳奈を誘うことはやめて啓介は約束の時間に指定された場所へ向かった。

土地勘に疎い母を思い早めに向かうと、遠くから母親が誰かと話しながら歩いてくる姿が見えた。徐々に人影がハッキリしてきたときに啓介は目を疑った。母親の隣に座っていたのは、出来ればもう顔を合わせたくないと思っていた元カノの凛だった。

凛とは数年前に交際していた。知り合った当初、彼女は結婚願望がないと言っていたため安心していた。しかし、交際して1年が過ぎると、凛は次第に結婚して欲しいと強く言ってくるようになった。

「付き合ったら啓介も変わってくれるかもと信じていたのに。」と泣きわめかれた時は自分が詐欺師にでもなったかのような気分だった。後味の悪い破局を迎えたため、啓介はできる限り彼女と顔を合わせるのを避けてきた。

そんな啓介の気持ちを知ってか知らずか、偶然を装ったかのように凛がにこやかに近づいてきた。
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