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18.彼女の虜

last update Last Updated: 2025-05-27 17:59:00
佳奈との交際は、温かく穏やかな幸福感に満ちたものへと変化していった。

昇進への強い意欲を持つ佳奈は、週末のデート中でも鋭いビジネス思考を働かせていた。

人気のカフェに足を踏み入れれば、その内装やメニュー構成から隠されたトレンドを読み解き、自身の仕事に取り入れられる要素はないかと分析していた。革新的なサービスを提供する企業を見つければ、そのビジネスモデルや資金調達の方法をネットで徹底的に調査していた。

話題のセレクトショップを見つけた時、佳奈は商品の配置、照明、音楽、店員の接客態度などを詳細に観察し、顧客がどのような体験を求めているのか、どのように購買意欲を高めているのかを真剣に考えていた。そして、そのデータを自身のスマホにメモし後でじっくりと分析するのだ。

人前では優雅なプロフェッショナルを演じていた佳奈だが、一人になるとスマートフォンにごく細かい点までメモを取り、自分の視点からの分析を加えていた。それは起業家である俺自身も一人になった瞬間に無意識に行っている行為であり、彼女のその向上心を痛いほど理解できた。

気になる情報を徹底的に調べ上げ、自身の立場や視点に置き換えて咀嚼し、活用できるものは貪欲に吸収していく。仕事のことを真剣に考え、自己成長への飽くなき向上心を持ち、自分の確固たる軸を持って行動する佳奈はキラキラと輝いていて、俺はますます深く惹かれていった。

また、海外生活が長かった佳奈のスキンシップは、驚くほど積極的だった。公の場では手を繋ぐ程度だったが、二人きりの空間になると自然に密着してきた。

「おはよう」のキス、「行ってきます」のキス、「ただいま」のキス、「おやすみ」のキス、そして「ありがとう」や「ごめんね」の短いキス……最初は、日常生活にこんなにもキスをする場面が存在するのかと驚きを隠せなかった。

朝、まだ眠たそうな目で「おはよう」と囁きながら、自然にキスをしてくる佳奈に、最初は戸惑ったが、慣れてくるとその温かさに包まれる瞬間が一日の始まりを特別なものにしてくれることに気づいた。

セックスも二人で楽しみ愛を深め合うための自然な行為だと捉える彼女は、情熱的そのものだった。仕事のことを理知的に考えている時の凛とした姿は影を潜め、本能のままに求め合う女豹と化した佳奈は、普段とは全く異なる妖艶な魅力に満ち溢れていた。

ベッドの中で見せる彼女の甘えるような仕草や、
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