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252.それぞれの夜の約束②

last update Last Updated: 2025-09-27 11:03:58

啓介side

「あ、ああ。さっきの……。誤解させてしまったよな。でも、美山とは何でもない。部下であり社員だ。ただ、最近、少しばかり距離が近い気がして、周りに誤解を与えかねないと気になっているんだ。」

俺の言葉に三田はわずかに表情を和らげた。

「そう、なんですね。」

「三田にも誤解されたかもって気にしていたんだ。美山は秘書業務をしてくれているから話す機会が多いけど、決してそれ以上の関係ではないから。」

「分かりました。社長の言葉を信じます。」

「ありがとう。三田が二軒目を断って、こうして誤解だと伝えられる場を持てて良かったよ。」

改札を抜けて、それぞれの路線に乗るために別れようとした時だった。

「社長、待ってください。」

三田が俺のスーツの袖を掴んで引き留めてきた。声は少しばかり震え、袖を掴んでいる手は戸惑いを感じているようだった。驚く俺に、三田は上目遣いで必死に何かを言おうと言葉を探していた。

「あの、今度時間を作ってもらえませんか。お話したいことがあります。……出来れば外で。」

「え、ああ。分かった。」

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