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選ぶのは私

Author: 影畑凛星
last update publish date: 2026-09-07 09:47:23

 翌日、藤崎から拓也の申し出を聞いた美月は、しばらく何も言わなかった。

「ご主人は、二人だけで直接話す機会を設けるのであれば、離婚について考える、と」

「二人だけで?」

「はい」

 美月は眉を寄せた。

 家庭裁判所で、すでに直接伝えたはずだ。離婚したいことも、もう一緒には暮らさないことも、会いたくないことも。九条や藤崎に言わされているわけではなく、すべて自分の意思なのだとも伝えた。

 それでも、拓也にはまだ足りないらしい。

「会いません」

「分かりました」

「それで拓也が離婚しないと言うなら、裁判を進めてください」

「はい」

 藤崎は淡々と答えた。

「ご主人の同意を得るために、直接会うことを条件として受け入れる必要はありません」

 美月は頷いた。

「前だったら……裁判なんて大変だから、一回くらい我慢した方がいいのかなって思ったかもしれません」

 十分だけ、一度だけ。それで済むなら我慢すればいい。

 そうやって美月は何度も、自分が嫌だと思うことを後回しにしてきた。

「でも、もう嫌です」

「そのご意向でお伝えします」

「お願いします」

     ◇

 その日の夕方、拓也のもとへ藤崎から連
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  • 妊娠中に夫が浮気。お腹の子を守るため離婚を決意したら御曹司に溺愛されました   選ぶのは私

     翌日、藤崎から拓也の申し出を聞いた美月は、しばらく何も言わなかった。「ご主人は、二人だけで直接話す機会を設けるのであれば、離婚について考える、と」「二人だけで?」「はい」 美月は眉を寄せた。 家庭裁判所で、すでに直接伝えたはずだ。離婚したいことも、もう一緒には暮らさないことも、会いたくないことも。九条や藤崎に言わされているわけではなく、すべて自分の意思なのだとも伝えた。 それでも、拓也にはまだ足りないらしい。「会いません」「分かりました」「それで拓也が離婚しないと言うなら、裁判を進めてください」「はい」 藤崎は淡々と答えた。「ご主人の同意を得るために、直接会うことを条件として受け入れる必要はありません」 美月は頷いた。「前だったら……裁判なんて大変だから、一回くらい我慢した方がいいのかなって思ったかもしれません」 十分だけ、一度だけ。それで済むなら我慢すればいい。 そうやって美月は何度も、自分が嫌だと思うことを後回しにしてきた。「でも、もう嫌です」「そのご意向でお伝えします」「お願いします」     ◇ その日の夕方、拓也のもとへ藤崎から連絡が入った。『奥様は、直接の面会には応じないとのことです』「……じゃあ、裁判するんですか?」『今後の手続きについて準備を進めています』「俺、離婚を考えるって言いましたよね?」『伺っています』「だったら普通、会うでしょう」『奥様はそうお考えではありません』「なんでですか?」『朝倉さん』 藤崎の声は変わらない。『奥様は、離婚に応じてもらうために直接会うことを希望していません』「でも、裁判しなくて済むんですよ?」『ご主人が離婚に同意されるのであれば、直接会うことを条件にせず、その旨をお伝えいただければと思います』 拓也は黙り込んだ。「……それじゃ意味ないでしょう」『意味がない、とは?』「俺は美月と話したいんです」『奥様は希望していません』「だから!」 思わず声が大きくなり、拓也は周囲を見回した。まだ会社の近くだ。通行人の視線に気づき、慌てて声を落とす。「俺が離婚を考えるって言ってるんだから、美月だって少しくらい譲るべきじゃないですか?」『そのような条件での面会には応じない、というのが奥様の回答です』「……」『ほかにご用件がなければ、失礼します』

  • 妊娠中に夫が浮気。お腹の子を守るため離婚を決意したら御曹司に溺愛されました   裁判だけは

     調停が不成立になった翌日。 拓也は仕事中も落ち着かなかった。 書類を確認していても、同じ行を何度も読み返してしまう。「朝倉さん、大丈夫ですか?」「あ……はい。すみません」 慌てて作業へ戻る。 仕事は失いたくない。 せっかく美月のために始めたのだ。 ここで辞めたら、それこそ戻ってきてもらえなくなる。 そう思うのに。 頭から離れない。 ――調停は終了します。 もう次の期日はない。 次に届くのが裁判所からの訴状だったら。「……」 拓也は机の下でスマートフォンを握った。     ◇ 昼休みになると、すぐに藤崎法律事務所へ電話を掛けた。『藤崎です』「美月と話しましたか?」『何についてでしょうか』「裁判です」『今後の手続きについては、朝倉さんと相談しています』「もう決めたんですか?」『個別の相談内容についてはお答えできません』「待ってください」 拓也は早口になった。「裁判する前に、条件を出してもいいですか?」『条件、ですか』「俺、離婚したくないです。でも、美月がどうしてもって言うなら……」 言葉が詰まる。 離婚してもいい。 それだけは言えなかった。「半年待ってほしいです」『半年?』「赤ちゃんが生まれるでしょう?」 拓也は続けた。「生まれて、落ち着いて、それからもう一回考えてほしいんです」『そのご希望を奥様へ伝えることはできます』「お願いします」「ただし、奥様が応じる義務があるわけではありません」「分かってます」 拓也は答えた。

  • 妊娠中に夫が浮気。お腹の子を守るため離婚を決意したら御曹司に溺愛されました   不成立

     家庭裁判所で拓也と鉢合わせてから、美月はしばらくカフェを休んでいた。 体調が悪いわけではない。 ただ、今は無理をしない方がいい。 店長も、「こっちのことは気にしないの~。戻りたくなったら連絡して」 と言ってくれた。 美月はその言葉に甘えることにした。 そして数日後。 藤崎から連絡が入った。『先日の件もありましたので、今後の手続きについて一度お話ししたいのですが』「はい」 美月は藤崎の事務所を訪れた。「前回、ご主人と接触した件については記録に残してあります」「お願いします」「それから、調停についてですが」 藤崎が書類へ目を落とす。「これまでの経過を見る限り、次回もご主人が離婚に応じない場合、これ以上調停を続けても合意の見込みは乏しいでしょう」「……はい」「不成立となれば、次は訴訟を提起するかどうかを決めることになります」 美月は膝の上で手を握った。 裁判。 何度聞いても、重い言葉だった。「時間、かかりますよね」「調停より長くなる可能性はあります」「それでも」 美月は顔を上げた。「進めたいです」「分かりました」「拓也が嫌だと言い続けたら、私はずっと離婚できないんですか?」「訴訟になれば、ご主人が同意しないというだけで結論が決まるわけではありません。ただ、実際に離婚が認められるかは、これまでの経緯や証拠などを踏まえて裁判所が判断します」「はい」「こちらでも、これまでの資料を整理していきます」 美月は頷いた。 拓也からの大量の連絡。 第三者を使った手紙。 病院への問い合わせ。 車を追って住居を突き止めたこと。 住居付近での接触。 蒼真の会社への電話と来訪。 カフェ付近で待っていたこと。 そして、家庭裁判所で待ち、直接話そうとしたこと。 一つ一つが記録されている。「私も、必要なことがあれば話します」「お願いします」     ◇ 次の調停期日。 美月は、いつもと同じ答えをした。「離婚を希望します」「お気持ちに変わりはありませんか?」「ありません」「ご主人と夫婦関係を修復するお考えは?」「ありません」 調停委員が頷く。 美月の答えは、それだけだった。     ◇ 一方。 拓也は調停室へ入るなり言った。「離婚しません」「ご主人のお気持ちは、これまでと変わらないとい

  • 妊娠中に夫が浮気。お腹の子を守るため離婚を決意したら御曹司に溺愛されました   それでも嫌だ

    「なんで離婚なんだよ!」 拓也の声が、家庭裁判所の前に響いた。 藤崎が美月との間に立つ。「朝倉さん、これ以上近付かないでください」「近付いてないだろ!」 拓也は足を止めたまま、美月を見る。「俺、何もしてないじゃん!」 仕事を始めた。 直接連絡もしなかった。 家にも病院にも行かなかった。 九条の会社にも、あれから行っていない。「悪いところ直しただろ?」 美月は答えなかった。「美月が嫌だったこと、もうしてないじゃん」「……違う」「何が?」「今やってないからって、今までのことがなくなるわけじゃない」 拓也の顔が歪む。「じゃあ、いつまで怒ってるんだよ」「怒ってるから離婚するんじゃない」「じゃあ何なんだよ!」「もうあなたと夫婦でいたくないの」 拓也が黙った。 美月は自分でも驚くほど静かだった。「仕事を始めたのは、いいことだと思う」「だったら――」「でも、それはあなたの生活のために必要なことでしょ?」「美月と赤ちゃんのためだよ」「私は頼んでない」 拓也の表情が固まる。「ベビーベッドも、歯ブラシも、名前の候補も」「だって必要だろ」「私には必要ないの」「赤ちゃんには必要だよ!」「私が用意する」「俺も父親だろ!」 再び声が大きくなった。 建物の警備員がこちらへ向かってくる。 藤崎が美月へ小さく声を掛けた。「車へ行きましょう」「はい」 美月が背を向ける。「待って!」 拓也が動いた。 警備員が間に入る。「すみません。こちらで大声を出すのはおやめくだ

  • 妊娠中に夫が浮気。お腹の子を守るため離婚を決意したら御曹司に溺愛されました   本人から聞く

     次の調停の日。 美月は藤崎とともに家庭裁判所へ入った。「今日はご主人から直接話したいという希望が繰り返し出ていることも、こちらから改めて伝えておきます」「はい」「もちろん、朝倉さんが応じる必要はありません」「会いません」 美月は答えた。 もう迷っていなかった。     ◇ 調停室でも、美月の意思は変わらなかった。「ご主人からは、離婚について一度直接話したいというご希望が出ています」「希望しません」「分かりました」 調停委員はそれ以上勧めなかった。「離婚についてのお気持ちにも変わりはありませんか?」「はい。離婚したいです」 これまで何度も繰り返した答えだった。 そして今回は、調停委員から今後についてもう一段踏み込んだ説明があった。「これまで複数回お話を伺いましたが、双方のご意向に隔たりがあり、現状では合意の見込みが難しい状況です」「はい」「次回までの状況にもよりますが、調停を不成立として終了することも考えられます」 美月は藤崎を見る。 藤崎が小さく頷いた。「分かりました」「その場合の今後については、代理人の先生とご相談ください」「はい」 怖くないわけではない。 裁判になれば、もっと時間が掛かるかもしれない。 それでも。 戻るという選択肢はなかった。     ◇ 拓也の番になった。「奥様は、現在も離婚を希望されています」 また同じ言葉。「直接話すことについても、希望されていません」 拓也は調停委員を見た。「それ、本当に美月が言ったんですか?」「奥様ご本人から伺っています」「藤崎先生じゃなくて?」「はい」 拓也の表情が固まった。

  • 妊娠中に夫が浮気。お腹の子を守るため離婚を決意したら御曹司に溺愛されました   待っていられない

     その夜。 拓也はほとんど眠れなかった。 目を閉じるたびに、昨日の光景が浮かぶ。 カフェから出てきた美月。 その前に停まった車。 蒼真を見て笑った美月。「……俺には会わないのに」 自分とは十分話すことさえ拒む。 それなのに九条とは、当たり前のように一緒にいる。 仕事を始めたことも。 家を整えたことも。 赤ちゃんのために準備していることも。 美月は何も見ようとしない。「一回話せば分かるのに」 拓也は起き上がった。 スマートフォンを手に取る。 藤崎へメールを打った。『もう一度お願いします。美月と直接話す機会を作ってください』 送信。 続けてもう一通。『裁判になる前に一度だけでいいです』 さらに。『俺は美月に危害を加えるつもりはありません』『第三者がいる場所で構いません』『警察署でも構いません』 送ってから、拓也は息を吐いた。「これならいいだろ」 安全な場所。 第三者もいる。 それでも拒否する理由なんてない。     ◇ 翌朝。 藤崎から美月へ連絡が入った。『ご主人から、また直接面会の希望が来ています』「……」『今回は、第三者がいる場所や警察署でも構わないとのことです』「嫌です」 美月は答えた。 自分でも驚くほど、迷わなかった。「場所の問題じゃないんです」『はい』「私は拓也と会いたくありません」『分かりました』「裁判になる前に話したいって言ってるんですよね?」『そうです』「でも、私はもう何度も答えてます」

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