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第2話

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私は由理恵の得意げな顔を見て、思わず笑ってしまった。

笑うと、傷口がズキズキと痛んだ。

「由理恵、忘れた?ここには防犯カメラがあるのよ」

私は部屋の隅を指さした。

由理恵の顔がこわばったけど、すぐにいつもの猫をかぶった表情に戻った。

「莉緒さん、何を言ってるの?ただ心配で来ただけなのに」

「私が死んでるかどうか、心配してくれたってこと?」

私は手の甲の点滴針を引き抜いた。血がぷっくりにじんだけど、眉ひとつ動かさなかった。

「出て行け!」

由理恵は口を曲げて言った。「せっかく心配してあげたのに。これじゃあ直樹が莉緒さんを助けたくなくなるのも無理ないわ。いつも仏頂面で、本当に縁起が悪い」

由理恵が帰ろうと踵を返した時、ちょうどドアを開けて入ってきた直樹とぶつかった。

由理恵は、わざとらしくその場に倒れ込み、「きゃっ」と声をあげた。

「直樹……莉緒さんは機嫌が悪いのね。今押されたけど、私は大丈夫だから。莉緒さんを責めないで」

私服姿の直樹は、険しい顔で眉をひそめていた。

直樹は床に倒れている由理恵を一瞥し、それからベッドに座る顔面蒼白の私に目をやった。

でも、最初の言葉は私の体を気遣うものではなかった。

直樹は由理恵に駆け寄って助け起こすと、私を指さして怒鳴った。

「莉緒!いい加減にしろ!

由理恵は怖い思いをしたばかりなのに、わざわざお前の見舞いに来てくれたんだ。それなのに、その態度はなんだ?」

私は枕にもたれかかり、五年も愛したこの男を見つめた。

急に、彼がまるで別人のように思えた。

「直樹、私がなぜ入院しているか知ってるの?」

直樹は苛立たしげに由理恵を椅子に座らせた。

「少し煙を吸っただけじゃないか?医者も容体は安定してるって言ってたぞ。そんなにカリカリするなよ。

俺は消防士だ。人命救助が最優先なんだ。あの時は由理恵のほうが危険だった。家族なんだから、少しは俺のことも理解してくれ」

理解、ね。

仕事が忙しい直樹を理解して、妊婦健診はいつも一人で行った。

直樹の給料が十分じゃないのも理解して、私も働いて家計を支えてきた。

直樹のプライドを傷つけないように、外で愚痴ひとつこぼしたことはなかった。

それなのに、その結果が?

「直樹、お腹の子、もういないの」

私は淡々と、事実を告げた。

由理恵にお湯を注いでいた直樹の手が震え、熱湯が彼女の手の甲にかかった。

「熱っ!」由理恵が悲鳴をあげた。

直樹は反射的に由理恵の手に息を吹きかけたが、その目はうろたえて私に向けられていた。

「今、なんて言ったんだ?」

「あなたは家族を特別扱いしないから、あなた自身の子供を殺すことになったのよ」

私は布団をめくって、病衣のズボンについた血の染みを指さした。

「あなたが由理恵を抱きしめてインタビューに答え、『家族も覚悟を持つべきだ』なんて言っていた時にね。

私たちの赤ちゃん、死んじゃったのよ」

男の子で、もうちゃんと形ができていた。

医者に「最後に会いますか」って聞かれたけど、怖くてできなかった。

だって、もし顔を見たら、直樹のことを刺し殺してしまいそうだから。

直樹の顔から、さっと血の気が引いた。

由理恵の手を放し、直樹はこわばった足取りでベッドに近寄ってきた。

「莉緒……嘘だろ?煙を吸っただけで、死産なんて、するはずが……」

「だって、お隣さんに引きずり出されたんだよ」

私は直樹の目をまっすぐ見て、一言ずつ区切って言った。

「床を這って逃げようとした時、ドア枠にお腹を強くぶつけたから。

私の『立派な』夫が、幼馴染を助けるのに夢中で、妻の私を煙の中に置き去りにしたからよ」

罪悪感に満ちた顔で、直樹が私に手を伸ばそうとした。

「触らないで!」

私は、かすれた声で叫んだ。

「あなたのせいで、私たちの子は死んだんだよ。

直樹。離婚しよう。

書類は弁護士から送らせるわ。だから今すぐ、あなたの言う『一般市民』さんと一緒に、この病室から出ていって」

さすがの由理恵も声を失い、椅子の上で身を縮こませて目を泳がせている。

直樹が何か言おうとした時、看護師が駆け込んできた。

「騒がないでください!患者さんは死産を経験したばかりで、大出血してショック状態寸前だったんですよ。死なせる気ですか?」

気の強い看護師は、問答無用で直樹を病室から押し出した。

「奥さんが大変な時に、見舞いどころか愛人を連れてきて見せつけるなんて!信じられません!」

押し出された直樹はよろめき、ドアの前で立ち尽くした。目は真っ赤に充血していた。

「莉緒、俺は……本当に、何も知らなかったんだ……」

ドアがバタン、と閉められた。

私は目を閉じると、こらえていた涙がとうとう溢れ出した。

直樹、あなたは知らなかったんじゃない。

ただ、無関心だっただけよ。
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