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第4話

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私はSNSの運営をしている。

ここ数年は妊活のために仕事量を減らしてはいたけど、使えるツールやアカウントはまだ手元にある。

ホテルで過ごすようになって三日目。直樹を表彰する動画は、まだ再生回数を伸ばしていた。

中には「分別がある」妻である私に、取材を申し込んでくるマスコミまでいた。

直樹からメッセージが届いた。

【テレビ局がお前の取材をしたいそうだ。家族の陰ながらの支えについて話してほしいってさ。俺の昇進に大事なことなんだから、身なりを整えて、余計なことは言うなよ】

【あの日のことは、お前が自分から頼んだことにしろ。世間から変な噂を立てられないようにな】

そのメッセージを読んで、私は怒りで逆に笑いがこみ上げてきた。

この男は、私の子どもの亡骸を踏み台に出世するだけじゃなく、私まで利用するつもりなんだ。

私は一言だけ返信した。【わかった】

そっちが有名になりたいなら、私が炎上させてあげる。

インタビューは、消防支署の会議室で行われた。

直樹はパリっとした制服を着て、胸には勲章を飾り、正義感あふれる顔つきをしていた。

由理恵は客席に座って、まるでヒーローを崇めるような目つきで直樹を見つめていた。

記者の人が、私にマイクを差し出した。

「奥さん、あの危険な状況で、ご主人が他の方を助けに行くのを見て、どう思われましたか?ご主人のこと、誇りに思いましたか?」

カメラが私の顔を捉える。

隣にいる直樹が、少しだけこちらを向いて、目で「協力しろ」と警告してきた。

私はカメラに向かって、痛ましい笑みを浮かべた。

「誇り?もちろん、誇りに思ってますよ。

その誇りのために、私は妊娠七ヶ月の子どもを失いましたから」

会場は、水を打ったように静まり返った。

記者の人は呆然として、マイクを落としそうになっていた。

「え……なんですって?」

私はカバンから血のついたエコー写真と、病院の死産証書を取り出して、カメラの前に突きつけた。

「皆さん、はっきり見えますか?

これが、この人の言う『身内に特別扱いをしない』ための結果です。

周りからえこひいきだと思われないように、彼は妊娠中の妻を火事の現場に置き去りにしたんです。そして、足を捻挫しただけで自分で階段を降りられる幼馴染を、抱きかかえて助けに行きました。

救急車の中でも、彼は『びっくりした』だけの幼馴染をなぐさめていました。その時、彼の妻はすぐ隣で大量に出血していたというのに」

直樹が勢いよく立ち上がって、私のマイクを奪おうと手を伸ばした。

「莉緒!何を言ってるんだ!放送を止めろ!早く止めろ!」

私は予測していたので、さっと身をかわし、生放送中のカメラに向かって叫んだ。

「直樹、あなたは身内に特別扱いしない、公共のリソースを私物化しないと言ったわよね。

だったら、藤田さんが命の危険もないのに、消防士長に人間担架をさせていたのはどうなの?それは公共のリソースの私物化じゃないの?

重傷の妊婦を放っておいて、軽傷の人を助けに行った。これが博愛精神だって言うの?それとも、ただの職権濫用じゃない?」

会場は騒然となった。

配信のコメント欄は、一瞬で炎上した。

【まじかよ?妊娠七ヶ月の妻をほっといたって?】

【身内びいきを避けるとかいうレベルじゃねえ。これ、殺人未遂だろ!】

【あの幼馴染、覚えてる。さっきカメラの外で化粧直ししてたぞ。全然ぴんぴんしてるじゃん】

直樹は真っ青な顔で、部下の隊員たちに私を引っ張り出すよう指示した。

「ご家族の方が情緒不安定なため、本日のインタビューはこれで終了します!」

私は無理やり引きずられていきながら、由理恵を睨みつけた。

「藤田さん、喘息が治るの、ずいぶん早かったのね。シャンパンでも飲めるくらいだものね」

由理恵は真っ白な顔で、人混みの後ろに隠れた。

直樹が私の手首を掴んできた。骨が砕けてしまいそうなほどの力だった。

「莉緒、俺の人生をめちゃくちゃにしやがって!今回の昇進がどれだけ大事かわかってんのか!」

私は楽屋で、その手を振り払った。

「自分で自分の人生をめちゃくちゃにしたんでしょ。

直樹、あなたが人命救助より、世間へのアピールを選んだ時から、こうなることはわかってたはずよ」

その夜、世論は一気にひっくり返った。

【#消防士長、身内びいきを避けた結果、妻が死産】というハッシュタグが、トレンド一位になった。

【#藤田由理恵・喘息】も、徹底的に叩かれた。

あるネットユーザーが由理恵のSNSアカウントを突き止め、火事当日の午後に、彼女がジムでランニングする投稿をしていたことを見つけ出した。

喘息だの、足を捻挫しただの、全部うそだったんだ。

直樹の「ヒーロー」というイメージは、一夜にして崩れ去った。
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