LOGINクラリスは、一瞬言葉に詰まった。 そこを見られていたのか。 エリナ夫人は静かに微笑む。 「人を育てる場では、手を出さない勇気も必要です」 「……まだ、練習中です」 「そのようですね」 からかうようではなく、温かい声だった。 「でも、良い練習です」 クラリスは頭を下げた。 「ありがとうございます」 晩餐会が終わる頃には、最初の冷たさは少し薄れていた。 セルゲイ大使は玄関広間まで見送りに出た。 「王太子殿下」 ジュリアスが立ち止まる。 「はい」 「今夜の謝罪と対応は、国へ報告します」 「はい」 「良い報告だけではありません。白い花の件も書きます」
クラリスは、ジュリアスの変化を静かに見た。 まだ危うい。 けれど、今夜の彼は自分の危うさを知っている。 それだけで、以前とは違う。 晩餐が再開されてしばらくすると、セルゲイ大使がレオンハルトへ話を振った。 「王弟殿下。今回の皿は、どこで用意を?」 「王妃執務院の儀礼補佐官が候補を出し、クラリス顧問が確認し、王弟府で保管しておりました」 「儀礼補佐官」 セルゲイはその言葉を繰り返す。 「新しい役職ですか」 「試験導入です」 クラリスが答えた。 「これまで非公式に行われていた確認業務を、正式な役割として記録するためのものです」 「なるほど」 セルゲイ大使は
「今は、完全には存じません」 ジュリアスは一拍置いた。 「ですが、貴国において弔意を示す花に近いと聞いております。関係修復の席にふさわしくありません」 硬い。 まだ硬い。 けれど、逃げていない。 エリナ夫人が、ゆっくり皿から手を離した。 「……似ています」 その言葉に、侍従たちの顔色が変わった。 エリナ夫人は砂糖細工を見つめる。 「正確には、冬薔薇ではありません。花弁の数も違います。けれど、遠目には似て見えるでしょう」 「申し訳ございません」 リーナが頭を下げた。 クラリスは、一瞬だけ彼女を見る。 リーナは青ざめていた。 だが、崩れてはいない
皿の上に置かれた白い小花は、ほんの親指の先ほどの大きさだった。 砂糖を固め、花弁を薄く重ねた飾り菓子。 王都の菓子職人が見れば、よくできていると褒めただろう。 白く、繊細で、夜会の皿に添えるには上品すぎるほど上品だった。 けれど、クラリスはその美しさを見た瞬間、胸の奥が冷えた。 白薔薇ではない。 だが、似ている。 ノルヴァルト公国で葬送の席に用いられる、白い冬薔薇に。 しかも今夜は、関係修復のための晩餐会である。 先日の蜂蜜菓子の件があったばかりだ。 ここでまた、白い花を模した飾りが皿に出る。 偶然で済ませるには、あまりにも悪い。 エリナ夫人の指
クラリスは、ジュリアスを見た。 彼の手が一瞬止まる。 だが、すぐにエリナ夫人が口を開いた。 「こちらは、我が国北部で春の訪れを祝う料理です。雪解け水に戻る白魚を、再会と新しい対話の印としてお出しします」 完璧な説明だった。 こちらが事前に確認を入れたことを、大使館側が受けてくれたのだ。 ジュリアスは一拍置き、静かに言った。 「再会と新しい対話の印。ありがたく頂戴します」 セルゲイ大使の目が、わずかに動いた。 その一言は、準備していたものではないはずだ。 少なくとも、クラリスが用意した文ではない。 ジュリアス自身が、今の説明を受けて返した言葉だった。
その代わり、葉の形と石の配置で静かな美しさを作っていた。 王宮の華やかさとは違う。 余計なものを削った、冬の美しさ。 クラリスは門をくぐる前に、ほんの少しだけ息を吸った。 出迎えたのは、ノルヴァルト公国の侍従だった。 礼は丁寧。 ただし、温度は低い。 当然だ。 まだ完全に許されたわけではない。 玄関広間に入ると、すでにジュリアスたちの馬車も到着していた。 ジュリアスは深紺の礼服姿で立っている。 顔は硬い。 だが、逃げるような目はしていなかった。 オスカーは少し後ろで書類鞄を持ち、リーナは緊張しながらも背筋を伸ばしている。 クラリスと目が合







