LOGIN自分の言葉が、記録になる。 以前なら、当たり前だと思ったかもしれない。 今は、少し怖い。 しかし、その怖さが必要なのだろう。 夜になり、王太子府の差し戻し箱の横に、新しい箱が三つ置かれた。 分類待ち 再提出案内済み 記入例作成中 トーマが手書きで札を作った。 字は少し若い。 だが、読みやすい。 ライオネルがその札を見て言った。 「もう少し文字の大きさを揃えなさい」 「はい」 「だが、分かりやすい」 「ありがとうございます」 トーマは嬉しそうに札を書き直した。 王太子府では、これまで箱や札が増えることを少し馬鹿にしていたところがある。
「はい」 「謝罪ではなく、仕組みを作られたのですね」 「そのようです」 クラリスは少しだけ微笑んだ。 その微笑みは、昔の婚約者へ向けるものではなかった。 王太子として、少しずつ変わろうとしている人への評価だった。 オスカーが資料を見ながら言う。 「三週間限定というのがよいですね。恒常化すると、また別の部署のようになります」 「ええ。初期負担を吸収するための一時チームとして妥当です」 「返答は?」 「助言として、二点だけ追加します」 クラリスは羽根ペンを取った。 一、差し戻し対応一時チームにも業務量記録をつけること。 二、差し戻し理由の多い部署へは、叱責で
「今、それをおっしゃらないでください」 「なぜだ」 「殿下が謝れば、我々は“殿下を困らせている”ことになります」 その言葉に、ジュリアスは動けなくなった。 ライオネルは続ける。 「殿下が必要と判断された改革です。私どもにも負担はあります。戸惑いも、不満もあります。ですが、殿下がここで謝罪されれば、我々は負担を申し上げにくくなります」 「謝れば、言いやすくなるのではないのか」 「場合によります」 ライオネルは静かに言った。 「少なくとも王太子府では、殿下に謝らせたとなれば、補佐官も書記官も余計に黙ります」 ジュリアスは、思わず机の上の札を見た。 差し戻しは罰ではな
王太子府の差し戻し箱は、少しだけ大人しくなった。 少しだけ、である。 空になったわけではない。 むしろ、朝の時点ですでに七件入っている。 ただ、以前のように、箱から書類がはみ出して「これは箱なのか、それとも紙の山なのか」と若い書記官が遠い目をする状態ではなくなった。 差し戻し理由の分類が始まり、根拠資料台帳の試作が置かれ、提出前確認欄が決裁書の端に追加された。 その結果、少なくとも「資料の置き場所が分からない」というだけの差し戻しは減った。 王太子府は、遅いながらも動いている。 それでも、空気は軽くなかった。 「殿下、こちらは根拠資料番号が記載されております」
「……クラリス顧問が」 「進行中案件への影響照会があった」 グレゴールは、少しだけ目を細めた。 「君個人を守る文面ではなかった」 「はい」 「だから止まった」 エリオットは、その意味をゆっくり理解した。 もしクラリスが「エリオットを異動させないでほしい」と言ったなら、財務院は反発しただろう。 王宮筆頭実務顧問が財務院人事に介入したと。 自分も、さらに居づらくなったかもしれない。 だが、進行中案件への影響確認。 担当者、代替人員、日付、引き継ぎ。 その記録が、人事案を止めた。 「参事官」 「何だ」 「私は、この三件を続けてよろしいのでしょうか」 「
後から「そんな意味ではない」と言いづらい。 「クラリス顧問」 グレゴールは低く言った。 「あなたは、エリオット監査官を守ろうとしているのですか」 また、真正面から来た。 クラリスは、少しだけ間を置いた。 以前なら、ここで感情が出たかもしれない。 はい、守りたいです。 彼は必要な人材です。 不当に飛ばすべきではありません。 そう言いたい。 だが、今は違う答えが必要だった。 「私は、進行中の仕事を守ろうとしています」 クラリスは言った。 グレゴールは黙って見る。 「確認費基準草案、過去確認費相当支出一覧、北方慈善交易路共同調査。これらは、財務院だ







