Share

第 288 話

last update publish date: 2026-10-13 15:16:26
「はい」

「謝罪ではなく、仕組みを作られたのですね」

「そのようです」

クラリスは少しだけ微笑んだ。

その微笑みは、昔の婚約者へ向けるものではなかった。

王太子として、少しずつ変わろうとしている人への評価だった。

オスカーが資料を見ながら言う。

「三週間限定というのがよいですね。恒常化すると、また別の部署のようになります」

「ええ。初期負担を吸収するための一時チームとして妥当です」

「返答は?」

「助言として、二点だけ追加します」

クラリスは羽根ペンを取った。

一、差し戻し対応一時チームにも業務量記録をつけること。

二、差し戻し理由の多い部署へは、叱責で
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 妹が「お姉様の仕事くらい私にもできます」と言うので、婚約者も王妃教育も譲りました。ですが三日で王宮が止まりました   第 289 話

    自分の言葉が、記録になる。 以前なら、当たり前だと思ったかもしれない。 今は、少し怖い。 しかし、その怖さが必要なのだろう。 夜になり、王太子府の差し戻し箱の横に、新しい箱が三つ置かれた。 分類待ち 再提出案内済み 記入例作成中 トーマが手書きで札を作った。 字は少し若い。 だが、読みやすい。 ライオネルがその札を見て言った。 「もう少し文字の大きさを揃えなさい」 「はい」 「だが、分かりやすい」 「ありがとうございます」 トーマは嬉しそうに札を書き直した。 王太子府では、これまで箱や札が増えることを少し馬鹿にしていたところがある。

  • 妹が「お姉様の仕事くらい私にもできます」と言うので、婚約者も王妃教育も譲りました。ですが三日で王宮が止まりました   第 288 話

    「はい」 「謝罪ではなく、仕組みを作られたのですね」 「そのようです」 クラリスは少しだけ微笑んだ。 その微笑みは、昔の婚約者へ向けるものではなかった。 王太子として、少しずつ変わろうとしている人への評価だった。 オスカーが資料を見ながら言う。 「三週間限定というのがよいですね。恒常化すると、また別の部署のようになります」 「ええ。初期負担を吸収するための一時チームとして妥当です」 「返答は?」 「助言として、二点だけ追加します」 クラリスは羽根ペンを取った。 一、差し戻し対応一時チームにも業務量記録をつけること。 二、差し戻し理由の多い部署へは、叱責で

  • 妹が「お姉様の仕事くらい私にもできます」と言うので、婚約者も王妃教育も譲りました。ですが三日で王宮が止まりました   第 287 話

    「今、それをおっしゃらないでください」 「なぜだ」 「殿下が謝れば、我々は“殿下を困らせている”ことになります」 その言葉に、ジュリアスは動けなくなった。 ライオネルは続ける。 「殿下が必要と判断された改革です。私どもにも負担はあります。戸惑いも、不満もあります。ですが、殿下がここで謝罪されれば、我々は負担を申し上げにくくなります」 「謝れば、言いやすくなるのではないのか」 「場合によります」 ライオネルは静かに言った。 「少なくとも王太子府では、殿下に謝らせたとなれば、補佐官も書記官も余計に黙ります」 ジュリアスは、思わず机の上の札を見た。 差し戻しは罰ではな

  • 妹が「お姉様の仕事くらい私にもできます」と言うので、婚約者も王妃教育も譲りました。ですが三日で王宮が止まりました   第 286 話

    王太子府の差し戻し箱は、少しだけ大人しくなった。 少しだけ、である。 空になったわけではない。 むしろ、朝の時点ですでに七件入っている。 ただ、以前のように、箱から書類がはみ出して「これは箱なのか、それとも紙の山なのか」と若い書記官が遠い目をする状態ではなくなった。 差し戻し理由の分類が始まり、根拠資料台帳の試作が置かれ、提出前確認欄が決裁書の端に追加された。 その結果、少なくとも「資料の置き場所が分からない」というだけの差し戻しは減った。 王太子府は、遅いながらも動いている。 それでも、空気は軽くなかった。 「殿下、こちらは根拠資料番号が記載されております」

  • 妹が「お姉様の仕事くらい私にもできます」と言うので、婚約者も王妃教育も譲りました。ですが三日で王宮が止まりました   第 285 話

    「……クラリス顧問が」 「進行中案件への影響照会があった」 グレゴールは、少しだけ目を細めた。 「君個人を守る文面ではなかった」 「はい」 「だから止まった」 エリオットは、その意味をゆっくり理解した。 もしクラリスが「エリオットを異動させないでほしい」と言ったなら、財務院は反発しただろう。 王宮筆頭実務顧問が財務院人事に介入したと。 自分も、さらに居づらくなったかもしれない。 だが、進行中案件への影響確認。 担当者、代替人員、日付、引き継ぎ。 その記録が、人事案を止めた。 「参事官」 「何だ」 「私は、この三件を続けてよろしいのでしょうか」 「

  • 妹が「お姉様の仕事くらい私にもできます」と言うので、婚約者も王妃教育も譲りました。ですが三日で王宮が止まりました   第 284 話

    後から「そんな意味ではない」と言いづらい。 「クラリス顧問」 グレゴールは低く言った。 「あなたは、エリオット監査官を守ろうとしているのですか」 また、真正面から来た。 クラリスは、少しだけ間を置いた。 以前なら、ここで感情が出たかもしれない。 はい、守りたいです。 彼は必要な人材です。 不当に飛ばすべきではありません。 そう言いたい。 だが、今は違う答えが必要だった。 「私は、進行中の仕事を守ろうとしています」 クラリスは言った。 グレゴールは黙って見る。 「確認費基準草案、過去確認費相当支出一覧、北方慈善交易路共同調査。これらは、財務院だ

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status