Masukダンは、少しだけ感心したような顔をした。 「王宮の人にそう言われるとは思いませんでした」 「王宮でも、使えない書式はたくさんあります」 オスカーが静かに言った。 「非常にたくさん」 その声に実感がありすぎて、ボルクが小さく笑った。 現場確認を終え、倉庫を出る頃には、港の風がさらに冷たくなっていた。 戻ってきた時、ミレーヌは破れた初代用途追跡札を丁寧に封筒へ入れた。 クラリスが尋ねる。 「持ち帰りますか」 「はい。不備記録として残します」 「恥ずかしくありませんか」 「恥ずかしいです」 ミレーヌは正直に答えた。 「でも、これを残さないと、また机の上で綺麗な
理論上はよい。 札が一枚なら失われにくい。 しかし実物を見ると、欄が小さい。 港湾で書く者が、次に仕立て場が使う欄を汚さないよう気を遣う必要がある。 倉庫の手袋では細かい文字を書きにくい。 ダンは試作札を指で叩いた。 「これ、欄が多すぎます」 「一枚にまとめれば札が増えないと思ったのですが」 ミレーヌが言うと、ダンは首を振った。 「一枚で全部済ませようとして、逆に使いづらいです。港は港の欄だけ見たい。仕立て場のことは仕立て場で書けばいい」 セリアが静かに言った。 「港湾用、仕立て場用、受領先用で欄を分けるべきでしょうか」 「札そのものは一枚。でも面を分ける
分かる。 港の現場から見れば、王宮の人間が作る紙など、たいてい机の上でしか生きられないものなのだろう。 「今日は、現場で使える形に直すために来ました」 「なら、まず荷を持ってみてください」 ダンは即座に言った。 クラリスは瞬きした。 「荷を?」 「ええ。札を書く人間が、どんな状態で荷を見ているか分からないと、また同じものを作ります」 ボルクが横で咳払いした。 「ダン、相手は王宮筆頭実務顧問だ」 「知っています。でも、荷は肩書きを見ません」 なかなか強い。 ミレーヌが思わずダンを見た。 クラリスは少し考え、頷いた。 「分かりました。ただし、実際の荷を壊す
王宮筆頭実務顧問室で作られた用途追跡札は、見た目だけなら美しかった。 上質な厚紙。 読みやすく整えられた欄。 輸出元、港湾到着、倉庫保管、用途確定、開封者名、裁断先、最終受領先。 欄の端には小さく北方鹿角印を模した飾り罫まで入っている。 クラリス自身も、最初にそれを見た時は悪くないと思った。 少なくとも、王宮の机の上では悪くなかった。 だが、第三北方倉庫に試作品を送って三日後。 戻ってきた札は、見るも無残な姿になっていた。 紙は湿気を吸って波打ち、端が少し反っている。 青い紐は毛羽立ち、結び目のところからほつれていた。 欄外には、倉庫番ダンの太い字で
「用途混在番号……」 ダンは、その言葉を口の中で転がした。 「分かりにくいような、分かりやすいような」 「現場では、別の呼び方の方がよいかもしれません」 クラリスが言うと、ダンは少し考えた。 「まとめ番号、ですかね」 「まとめ番号」 「違う荷を一つにまとめた番号。倉庫じゃよくあります。悪いことじゃない。ただ、追いかけたいなら困る」 クラリスは、すぐに頷いた。 「では、現場用語として“まとめ番号”を併記しましょう」 オスカーが記録する。 用途混在番号(現場呼称:まとめ番号) ダンは少し照れたように鼻の横を掻いた。 「俺の言葉が記録に残るんですか」 「必要な
クラリスが尋ねた。 「それなら、まだ通しやすいです」 ボルクは答えた。 「港湾では開けず、封印と外札だけ確認。王妃執務院指定仕立て場で開封し、端印と布状態を確認する。倉庫は封印が破られていないことを記録する」 セリアが頷く。 「慈善記録官室としては、その方が扱いやすいです」 ミレーヌも小さく頷いた。 「開封者名も、仕立て場で記録できます」 ダンは台帳を見ながら言った。 「それなら、うちの仕事は増えすぎません。外札を一枚足すくらいなら、まあ……」 「足すくらいなら?」 クラリスが聞き返す。 ダンは渋い顔をした。 「足すなら、落ちにくい札にしてください。紙札だ







