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第 306 話

last update publish date: 2026-10-18 15:23:21
王宮筆頭実務顧問室で作られた用途追跡札は、見た目だけなら美しかった。

上質な厚紙。

読みやすく整えられた欄。

輸出元、港湾到着、倉庫保管、用途確定、開封者名、裁断先、最終受領先。

欄の端には小さく北方鹿角印を模した飾り罫まで入っている。

クラリス自身も、最初にそれを見た時は悪くないと思った。

少なくとも、王宮の机の上では悪くなかった。

だが、第三北方倉庫に試作品を送って三日後。

戻ってきた札は、見るも無残な姿になっていた。

紙は湿気を吸って波打ち、端が少し反っている。

青い紐は毛羽立ち、結び目のところからほつれていた。

欄外には、倉庫番ダンの太い字で
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    ダンは、少しだけ感心したような顔をした。 「王宮の人にそう言われるとは思いませんでした」 「王宮でも、使えない書式はたくさんあります」 オスカーが静かに言った。 「非常にたくさん」 その声に実感がありすぎて、ボルクが小さく笑った。 現場確認を終え、倉庫を出る頃には、港の風がさらに冷たくなっていた。 戻ってきた時、ミレーヌは破れた初代用途追跡札を丁寧に封筒へ入れた。 クラリスが尋ねる。 「持ち帰りますか」 「はい。不備記録として残します」 「恥ずかしくありませんか」 「恥ずかしいです」 ミレーヌは正直に答えた。 「でも、これを残さないと、また机の上で綺麗な

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    理論上はよい。 札が一枚なら失われにくい。 しかし実物を見ると、欄が小さい。 港湾で書く者が、次に仕立て場が使う欄を汚さないよう気を遣う必要がある。 倉庫の手袋では細かい文字を書きにくい。 ダンは試作札を指で叩いた。 「これ、欄が多すぎます」 「一枚にまとめれば札が増えないと思ったのですが」 ミレーヌが言うと、ダンは首を振った。 「一枚で全部済ませようとして、逆に使いづらいです。港は港の欄だけ見たい。仕立て場のことは仕立て場で書けばいい」 セリアが静かに言った。 「港湾用、仕立て場用、受領先用で欄を分けるべきでしょうか」 「札そのものは一枚。でも面を分ける

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    分かる。 港の現場から見れば、王宮の人間が作る紙など、たいてい机の上でしか生きられないものなのだろう。 「今日は、現場で使える形に直すために来ました」 「なら、まず荷を持ってみてください」 ダンは即座に言った。 クラリスは瞬きした。 「荷を?」 「ええ。札を書く人間が、どんな状態で荷を見ているか分からないと、また同じものを作ります」 ボルクが横で咳払いした。 「ダン、相手は王宮筆頭実務顧問だ」 「知っています。でも、荷は肩書きを見ません」 なかなか強い。 ミレーヌが思わずダンを見た。 クラリスは少し考え、頷いた。 「分かりました。ただし、実際の荷を壊す

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    「用途混在番号……」 ダンは、その言葉を口の中で転がした。 「分かりにくいような、分かりやすいような」 「現場では、別の呼び方の方がよいかもしれません」 クラリスが言うと、ダンは少し考えた。 「まとめ番号、ですかね」 「まとめ番号」 「違う荷を一つにまとめた番号。倉庫じゃよくあります。悪いことじゃない。ただ、追いかけたいなら困る」 クラリスは、すぐに頷いた。 「では、現場用語として“まとめ番号”を併記しましょう」 オスカーが記録する。 用途混在番号(現場呼称:まとめ番号) ダンは少し照れたように鼻の横を掻いた。 「俺の言葉が記録に残るんですか」 「必要な

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    クラリスが尋ねた。 「それなら、まだ通しやすいです」 ボルクは答えた。 「港湾では開けず、封印と外札だけ確認。王妃執務院指定仕立て場で開封し、端印と布状態を確認する。倉庫は封印が破られていないことを記録する」 セリアが頷く。 「慈善記録官室としては、その方が扱いやすいです」 ミレーヌも小さく頷いた。 「開封者名も、仕立て場で記録できます」 ダンは台帳を見ながら言った。 「それなら、うちの仕事は増えすぎません。外札を一枚足すくらいなら、まあ……」 「足すくらいなら?」 クラリスが聞き返す。 ダンは渋い顔をした。 「足すなら、落ちにくい札にしてください。紙札だ

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